電話越しの願い事






I wish. You wish. We wish.






 電話の向こう側で黙った相手に須釜は掛ける声を失った。失うというのは正しくないだろうか。それでも何と言えばいいのかわからなくなったのは確かだった。
「ケースケくん…」
 沈黙が嫌で須釜は名を呼ぶ。
「会いたいですねぇ」
 圭介が敢えて言わずに耐えていた言葉を何の気負いもなく口にしてみせた。勿論、菅間とて言いたくはなかったのだ。自分の力では出来ないと知っているのだから。
「……何、勝手言ってんだよ…」
「勝手、ですか?」
 心底不思議そうな声音で須釜は聞き返す。何もかも、彼が言いたいことはわかっているくせにと己を嘲う。
「勝手だろ。言うなよ。出来ないことなんて」
 子供にはあまりにも遠い、この距離。
 電話越しにでもわかってしまう落ち込んだ声に須釜は優しく語りかけた。
「ケースケくん、間違わないでください」
「間違う?」
「そうです。それは間違いですよ。どうして言ってはいけないんですか。確かに出来ないことを言うのは辛いです。それでも“会いたい”って思うのは、その想いはいいでしょう?僕はそれぐらいケースケくんが好きってことです」
 好きだと臆面もなく言った須釜に圭介は赤面する。須釜もきっとこの言葉に圭介がこうなることなんて全部わかっているのだ。
「馬鹿野郎。そんなこと簡単に言うなよ」
 それでも幸せな気持ちの自分がいることを圭介は知っている。
「簡単なんかじゃないですよ。ケースケくんがこんなにも好きだっていう気持ちがそんな軽いわけないじゃないですか」
 本来の明るさを取り戻した圭介の声に須釜は安堵と幸せを噛み締める。須釜の幸せのひとつは間違いなく圭介が握っているのだ。
 そこで一つ思う。
「ケースケくん」
「何?」
 可愛いなぁ、食べちゃいたい。なんて腐ったことを頭の片隅で考えつつ、
「一つ、お願いしてもいいですか?」
 そう控えめに申し出る。圭介は電話の向こうで暫く黙っていた。その間はどれほどだろうか、やがて考えが纏まったのかぽつりと、
「叶えるかはわかんねぇぞ」
とのみ。須釜は笑って「結構ですよ」と返した。
 一拍の間が空く。
「ケースケくん。貴方の我儘、聞かせてください」
「…え?」
 予想外の言葉に圭介は間の抜けた声を出す。けれど須釜はそれすらも予定のうちというように、
「だから、ケースケくんの我儘。僕はよく言いますけど、貴方は殆ど言わないでしょう?偶には言ってください」
 圭介は強い。それは須釜が良く知っている。けれど、と思う。こんなときくらいは、傍にいることも出来ないのなら普段聞くことのない我儘を聞いて、僅かなれど叶えることが出来るのなら。
「だって」
「……だって?」
 圭介は知らず自然と聞き返す。
「僕は貴方の恋人でしょう」
 圭介はその瞬間、ガンと頭が殴られたような気がした。
「だから言ってください」
 そう言って須釜は黙る。後はもう我慢比べのようなものだ。圭介が何か言ってくるまで彼には何も言うつもりはないのだから。
 だから、待つ。
 圭介にも言ってほしいと須釜は真実思うのだ。
「………」
 圭介は携帯を握る手に力を入れ大きく息を吸った。須釜は黙っているだけだがきちんと待ってくれていることを圭介は知っている。そして、もう一度深呼吸を。
「“白い恋人”食いたい」
 その一声に始まってあれが欲しい、これが食べたいと次々に言っていく。中学生らしく上げられるものは多い。その中でもサッカーに関係するものが多いのはサッカー少年なら当然と言えよう。
 圭介が言うその度に須釜は「はい」と返していく。
「……スガ」
「はい」
 幾分か落ち着いた圭介のトーンに須釜が応える。
「……会いたいな」
「はい」
「会いたいんだって」
「僕もです」
「何で、こんなに離れてるんだろ」
「えぇ」
 そこで空白が生まれた。
 二人とも暫く押し黙る。
「………スガ」
「はい」
「……俺のこと………」
 不安に揺れた圭介の声に須釜は応えた。
「好きです。僕は、圭介くんが好きです。この世の誰よりも。どんな距離があっても。圭介くんが好きです」
 いつもの呼び声ではないその声。
「ああ」
「ケースケくんは?」
 その声を聞いて、圭介はにっこりと確信的に笑う須釜の顔を確かに見た。
「………………俺も。じゃなっ」
 迷いに迷ったらしい沈黙の後、圭介は言った勢いのまま携帯を切った。須釜に今届くのは味気ない電子音だけだ。それでも、須釜は嬉しそうに笑った。
「あーあ。でも、仕方がないですかねぇ。ケースケくんも元気になったようですし」
 呟くとふふふと笑う。
「さぁて、明日も早くなるな」



 翌日の午後。圭介は信じられないものを目にする。
 帽子を被って笑みを浮かべた、長身の姿を。





                  Fin
 初スガケーです。これは何時書いた話だろう。確か、去年の渋の誕生日前か後だったような気がしますよ。漸く、漸くそのあたりに来たのか…。遅いな。
 えー。こんな圭介くんは嫌ですか?嫌ですか。そうですか。うぬぬ。(自己完結)
 書き上げた状態のはなんだか視点があやふやだったのでなるべく統一できるようにって考えてたんですけど、上手くいってますかね?ええ。精進します。
 出来れば感想の方を。





             改稿03/12/08