貴方のその行動が嬉しい
…は突然に
圭介は只管あんぐりと口を開けた。
校門、ひいては今、自分の目の前に居る男を見やる。
「ケースケくんたら、何をそんなに呆けた顔をしているんですか?」
背を屈めて覗き込むようにする須釜とまともに視線がぶつかる。
「お前……んでいンの」
呆然としたものを引き摺ったままの圭介に須釜はこの世の真理の如く言った。
「そんなのケースケくんに会いたいからに決まっているでしょう」
笑顔の須釜を前に声を失う。否、ここで圭介が声を失ったとしても誰も彼を攻めたりは出来ないだろう。
未だに沈黙を守った───単に言葉が無いだけだが───圭介の隣を歩いていた、おそらくクラスメイトであろう少年が興味津々の態でそれはもう楽しげに笑う須釜に訊いた。
「あんた、誰?」
当然である。
普通なら紹介してくれるはずの友人はあれから一言も言わず、目の前の山口圭介の度肝を抜くという偉業を成し遂げた男はにこにことそんな圭介を見るばかり。これは本人が訊くより他にない。
「僕?僕は須釜寿樹です。きみはクラスメイト?」
「そ。圭介、すげぇ驚いてるけど、須釜?お前が居るのってそんなに驚くようなことなんだ?俺、見たこと無いけど、須釜と圭介ってどんな関係?」
「そうなのかな?横浜在住だけど…。あと、僕とケースケくんはこ…」
途中でハタとした圭介がちょうど良いタイミングで須釜を蹴る。所謂弁慶の泣き所にサッカーで鍛えた脚がクリティカルヒットしたわけだが、須釜は眉を寄せて、
「痛いですよ。ケースケくん!」
で済ませてしまう。
もっと痛がらないか?とか思いつつクラスメイトはこの意外性を多分に含んでいる男に問いを重ねた。
「いや、驚くって、横浜は遠いだろ。で?」
「ええ。僕はケースケくんの情夫です」
須釜も今度は圭介が邪魔をする前にさらっと言ってしまう。というより、
「色…?」
圭介にも彼にも通じてなかっただけだったが。
「あー。そっか。わからないんだ…。うーん。そうだな。情…」
言い直そうとした須釜の足を流石に今度は全体重掛けて圭介は踏み付ける。今、さっきの“イロ”の意味がわかったのだ。
「こっの、バカスガーッ!!」
顔を紅潮させて怒鳴る。
「痛いですってケースケくん!!本当に!」
どうやら須釜にはこのほうがこたえるらしい。まぁ、体重の殆どを掛けて踏み躙られれば痛さも一入だろう。
「行くぞ!」
だすだすと歩き出す圭介に苦笑顔で須釜は付いて行く。勿論、「はい」と言ってから。
「あ、おい。で?」
しつこく問いを重ねる彼に圭介は須釜が余計なことを言う前に、
「ダチだ!サッカーの!」
彼を振り返って大声で怒鳴り放った。
「…何、あいつあんなに怒ってんだ……?」
それじゃあ、と手を振る須釜に手を振り返して呟く彼の意見にその近くにいる生徒たちは頷いた。
圭介は家に帰る道を黙って歩く。早足だと言うのにコンパスの差で須釜と歩調が変わらないのが腹立たしい。要するに須釜は普段圭介と歩くとき、圭介に合わせてかなりゆっくりなのだ。
「ケースケくん、突然来たのをそんなに怒ってるんですか?」
鋭いくせに鈍いらしい須釜に圭介が勢いよく怒鳴った。
「ちげぇよ!!っのバカスガ!!何だよ、あれは!俺たち…!」
天下の往来で大声を張り上げる圭介の口を須釜は手で覆う。それでもフガフガと圭介はまだ言った。本人はぬけぬけと言うくせに自分には言わせない須釜に圭介の目尻に涙が滲む。今まで散々言ってきたのは嘘かと詰りたくなった。
いきなりキレた圭介は気付いていない。須釜がとても幸せそうな顔で自分を見下ろしていることとか、ここが圭介の家の近くの道だとか。
“俺たちは恋人じゃないのかよ!?”なんていう言葉は須釜をこの上なく嬉しくしてくれるけれど、圭介にはマイナスにしかならない。須釜がそれをさせるはずがなかった。
「ケースケくん。気持ちはとても嬉しいですし、僕としても公言しちゃいたいところですけど、ここで言ったらケースケくん困っちゃうでしょう?」
だから優しく耳元で囁いた。
そのとたん、圭介はぴたりと騒ぐのを止め、そろそろと須釜を見上げた。それで漸く須釜は手を放す。
嬉しそうだ。底抜けに嬉しそうだ。
「ケースケくんもちゃんとそう思ってくれてたなんて知りませんでしたよvいつも何も言ってくれませんしv」
「うっせぇ!」
真っ赤になって言っても可愛いとしか映らない。それを感じ取った圭介はかなり強引に話を変えてしまうことにした。きっと、それすらも須釜にはわかってしまうのだろうけど。
顔が熱くて恥ずかしい。
「大体、どうしてスガが居るんだよ?学校だろ?」
「ああ、学校ですか?休んだんですよ、当然。ケースケくんに会いたくて堪らなくなったので」
そして、涼しい顔で更に付け足した。
「ケースケくんに会いに行きたいと母に言ったら行って来いと送り出してくれたので。餞別付きで」
持つべきものは話のわかる母親ですよね。ほんとに良かった。
と、笑う須釜に圭介は脱力する。
圭介が須釜を連れて帰ると圭介の母が本気で歓迎し、あまつさえ泊まっていけと言う。
翌日は須釜だって学校だとか真っ当なことを言う圭介を黙殺し、彼女は須釜の了承を得てすこぶる御機嫌になると、夕食奮発の約束までする始末。
須釜と共に部屋に入ったあと、まだ一緒に居られることは嬉しくて、でも不安で、いいのかと小声で問えば、気が済むまで居ていいと言われているとのこと。
学校にもうまく言ってくれるらしい。
嬉しくは思いつつ、それでも。世の中何か間違ってると、圭介は頭を抱えた。
Fin
スガさんに「ケースケくんの情夫」と言わせたくて書きました。(本気←馬鹿)
「I wish. You wish. We wish.」の続き、ということで。
御目汚しいたしました。
改稿04/01/04