罪は罰を以って贖うべし(ってほど大袈裟なことではないですが)






罪〜情状酌量〜






向けては逸らされる視線。
苛つくなと言うほうが無理だろう?


 鬱陶しさのあまりに三上は机の上に思い切り教科書を叩きつけた。びくりとして周囲が首を竦めた。こんなところで喧嘩をしてくれるなよ、というのは全員の思いだろうが、誰も言わないし、本気では思っていない。
「渋沢。てめぇ、言いたいことがあるなら言いやがれ」
 低く鋭く言い放つ三上に渋沢は困ったように笑ってみせた。所謂、気にするなということだが、気になるから訊いているのだ。
 だが、この一見柔和なキャプテン様は実はかなり我を通す人である。気がつけば渋沢の意見で話が纏まったこと数知れず。常に浮かんでいる笑顔と柔らかな口調。決して正論からは外れない論説に抗うのは難しい。
 要するに言う気のない渋沢に言わせるのは至難の業、天上の星を取ろうとするようなものなのだ。
 そういうことを1年と少し―――正確には1年と半年―――の付き合いで熟知してしまっていたのは果たして吉か凶か。
 それでも睨んだままでいるとすまなそうに渋沢の眉尻が下がった。本当に小さな変化だったのだが、気づいてしまったことに三上は深々と諦めた。心底困った顔をされれば、ある程度までは我慢するしかない。日頃かけた迷惑のツケのようなものだ。
 渋沢に甘い。
 気づいていたことを気づき直されて少し嫌な気分になった。そんなことは出会って半年も経たないときから思い知らされている。
 机に突っ伏して残り少ない休み時間の間に少しでも寝ようとしても矢張り気になる。
 顔を上げ、ガンをつけると口の動きで「すまん」と返され、再び顔を伏せた。渋沢に対する考えを一部訂正すべきだ、と目を瞑って彼の視線を締め出して思う。笑顔も口調も理も、確かに周りに効かせているが、一番は表情に違いない。逆らえないのは自分も一緒と、向けられる眼差しを無視しきった。
 ひとつ、決めたうえで。

 無事放課後の部活まで終わらせ、部屋に戻ると知らず二人で溜息をついた。
 いつもの如く渋沢は駄犬エースから熱烈に飛びつかれて三上が怒鳴って引っぺがした。今日は妙にしつこかった。それだけで疲れ倍増といったものだ。
「さて、渋沢」
 荷物を放るように投げ置いて、三上が口の端を上げて笑った。
「そろそろ吐け、てめぇ」
 怨怨としたものを背負って詰め寄る三上に、きちんと机の側に荷物を置いていた渋沢が一歩後退さった。
「三上…」
「んな困った面しやがっても、だ。吐け。てめぇが人のこと見てやがっから俺の集中力が落ちちまったじゃねぇか。責任もって、吐け」
 半分嘘で半分本当である。いつもは綺麗に忘れ去るのが今日はできなかったのは、、単純に三上が気にしすぎたのだ。あまりにも真剣な目であったが故に。
「いや……。三上、その……な?」
 据わった目の三上に渋沢は些か焦ったように「な?」と同意を求める。
「そうだな…って言ってほしけりゃいっちまえ。隠してんな。吐け。楽になんぞ」
 じりじりと追い詰められる感覚に、
「それじゃあ、まるで俺が何かの犯罪者みたいじゃないか」
「俺の集中力」
抗弁した渋沢に三上が言い切るが、それはそもそも本人次第のシロモノで、
「………窃盗、か…?」
「……」
それでもそんなことをのたまった渋沢に三上は脱力するのを感じた。
「自覚できたな。じゃ、言え。それで勘弁してやる」
 しかし、折角だからと都合よく使うことにした三上は強かなタイプである。
「……あのな、三上」
 悩むのか、ぽつりと惑いつつ言葉を紡ぐ。
「俺は、お前とこうして過ごせた時間は、かけがえのないものだと、そう思うんだ…」
 痛いほど真摯な眼差しに見つめられて三上は黙って渋沢を見返した。
 前置きに予感が上がって自分が望む言葉か否か。肯定的な雰囲気に心臓が騒ぎ出した。まるで女のようだと思う。
 内心の動きなど表情には一切を出さず、三上は余裕そうに立っていた。
 常に泰然としているような渋沢の心臓も、今は騒ぎたっているのだろうかと考えながら。
「忘れてくれていいんだ。…三上。俺は、お前が好きだよ」
 渋沢は一度目を瞑り、真摯な眼はそのまま、優しい笑みを刷く。
「他の誰かに並ぶこともなく、三上が特別な位置にいるんだ。いつの間にか」
 らしくもなく、渋沢は息を詰めていたらしく、肩の力を抜くように息を吐いた。
「今までのように、とは言わないから、せめて人前では普通の友人のように接してくれ」
「巫山戯んな。バーカ」
 全部諦めきって振られるのが、しかも友人関係までなくなるのが前提にしきった渋沢の態度に三上は思っていたよりも優しい声が出る。自分が彼の立場ならやはり同じことを思っただろう。
「なに、お前勝手に自己完結してるわけ」
「三上…?」
 渋沢の三上を見る目がまるで迷子のようだ。
「誰が、お前のこと忘れるよ?克朗チャン?」
「み…かみ?」
 当然だろう。普通に、それこそ普通に考えてみれば男から寄せられる想い、しかも恋愛感情での“好き”なんて厭うのが当たり前だ。渋沢は余計な勘違いがないように、わかるように言ったのだし。
 だというのに、三上のこの発言は酷く肯定的で。
「誰がお前のこと好きじゃないなんて言ったよ?」
 それでも渋沢は否定するように首を振る。
 無意識の意識的自己防衛。
 普段なら渋沢は絶対口にしないだろう。相手の言葉の否定。それが酷く傷つけることを知っているから、日頃ならば言おうものならやんわりとしかし断固として直させるタイプのモノ。
 ああ、やっぱりこいつでも日常で緊張したりとか、本気で判断に迷ったりするするのか、と。三上は思う。信じるに後一歩が踏み出せないのだ。
 思うと可笑しくなる。あのキャプテンサマをここまで動揺させられるのだと思うと。きっと自分も同じだろうけれど。
 この特別は知ってしまえ誰にもやれない。気づかなければ強く目を瞑って堪えもしたけれど。今はもう。
「渋沢。よっく聞けよ」
 他人を懐に入れるのが嫌いな三上がここまで共にいるというだけで気づいてもよさそうなものなのに、色恋沙汰にはどうも鈍い、改めサッカー以外には鈍い渋沢が頷いた。
「好きだ。――――――わかったな?」
 驚いたように瞬きを繰り返し、それから幸せそうに笑った渋沢を見て、三上は小さく笑い返した。






            Fin





      他人事ヨソサマのぼやき
「つーかさ。あいつらアレで友達ダチの付き合いのつもりだったのか?あれだけお互いを特別扱いしといて?」
「言うな。本人たちが隠しきれてなくても、気づいてなかったんだ」
「つってもなぁ。だって、俺たちのほうが困ってたじゃん。あいつらの雰囲気って言うか、空気?に」
「そーそ。渋沢なんてスッゲェ好きですって顔に書いてあったし」
「ま。一軍以外は気づいてないんだ。問題なしってことにしておこう」
「あと、藤代も気づいてないよな」
「あっれは、決定的瞬間見ねぇ限り無理だろ」
「確かに」
「まさか、明日から名前呼びとかしない…よな?」
「んな、イヤそーな顔すんなって。いいんじゃねぇの?オモシロそうだし」
「いい加減、出歯亀止めるか。そろそろ気づかれるだろ。流石に」
「そーだな。ま、あたたかい目で見守ってやるとしますか。ネギ俺たちも黙認してもらってっしな」
「見守るのはいーけど…。って、待て!どーゆーことだよ!?黙認って…!!」
「お前らのことも気づかれてるって話だ」
「…っ!!んで、お前まで知ってんだよ、辰巳!!」
「それはこいつが隠さないからだろ」
「てめぇー!!ナカ!!」
「いーじゃん。いーじゃん。誰もそんなの気にしねぇってことだし」
「う゛ッ…」
「ま、お前らも、渋沢たちも他人から見れば誰が誰を好きなのかなんてわかり易いほどだってことだ。
 しかしなぁ。ほんとにあいつらはまだ付き合ってなかったのか。これからが恐いな。どんな甘さが飛び交うんだか…」
「まぁ、な。本当に」
「それは、な」
「「「ははは。ま、放っとくか」」」





           あとがき
 なんか、しょーもない話な感じですみません。
 ルーズリーフのときに下が滅茶苦茶余ったんで微妙なおまけ会話も。ヨソサマの。
 中西、根岸、辰巳の3人で。何故いたのかは謎。きっと、誰かの部屋が隣なんですよ。きっと。
 久々のアップが微妙で申し訳ないです。軽く笑って見なかったことにしてください。
 このときって何考えてたのかなぁ…?






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