たくらみ
磁力4
視線が痛い。
どういうつもりだろうと多紀が結人に顔を向けると、「悪い」と口の動きだけで謝ってきた。だが、その顔は上手く引っ掛けた者の独特の笑みを浮かべていて、どこまで本気でそう思っているのか知れたものではない。
多紀は内心で溜息をつき、ついそちらを見そうになるのを抑えた。
いつもと逆の構図。
英士が多紀に視線を送る。
これにどんな意図があるというのか。
多紀はもう一度結人を軽く睨んだ。それに結人はすぐに気付いて、彼もまた悪いと笑う。今度のは先ほどよりも実際に悪いと感じているような顔だった。了承してしまったのは自分だから仕方がないと多紀は結人に笑い返す。それが伝わったのか結人はどこかしらほっとしたように頬を緩ませた。笑顔が更に優しくなったような感じである。
わざわざ見ようとしなくても同じMFのポジション。視界の中に入る英士は酷く真摯に自分を見ているように思えて多紀は誰にも気付かれない程度に頭を振った。
射るように睨んでいるのに、そうと取れてしまう自分が嫌だった。
気付いているだろうに、否、間違いなく気付いていながら一向に視線を寄越さない多紀に英士はそれをより鋭いものに変える。ここまで見られれば、誰であってもその元を見るはずだ。
けれど。
その先。英士の視線が鋭くなるのに合わせたように多紀は結人に顔を向けた。結人は笑って何事か口を動かし、多紀は軽く目を伏せる。
東京選抜の練習中でありながらこんなにもボールではなく他人を目で追うなんてと思いながらも外せない。外すことなど出来ない。
再び多紀が結人を見て、結人もさっきと同じように返す。違うのは多紀が小さく笑い返した、こと。
ふっと沸き起こる波。
燃やし尽くすようで冷たい。
体は一瞬にして熱くなり、心は凍えるようになる。
見つめる先で多紀は小さく、本当に小さく頭を振って自嘲したようだった。
睨んでいたはずの己の視線が変わっていることを英士は自覚した。漸く。でもきっと、自分以外の誰も気付かない。
親友たちですら、気付くだろうか。
獲物を定めた獣のようにただ一人に据えた眼差しに。
暴力的なまでに欲するそれは何故だか酷く真摯なものだった。
(いつになれば終わるだろう…)
余りにもらしくなく、何よりも真剣に向かうはずのサッカーでそんなことを考える自分に英士は不思議と驚かなかった。
必ず手に入れると決めた。
邪魔なものは退かせばいい。
Fin
妙に結人とたっきーが分かり合っちゃってる話になりました。前半。
英士は気が付いたら問答無用で押すタイプだと思います。
それにしても余りにも展開が…。押すタイプだとは思うけど、あんなに鈍かったのに…。
英士の言葉が。結人が殺されそう。邪魔なものって…。
ぶっちゃけた話、これを書いているとき、何時たっきーと英士に殺されるかと戦々恐々としてました。そんなことはないとわかってはいても。
次で終わりです。そういえばこれも地文は名前にしちゃったな。
改稿03/11/23