からかい
磁力3
「随分と仲良くなったみたいだね、結人」
ユニフォームに着替えつつ英士がさらっとした口調で言ったが、見えない棘が突き刺すようだった。
「言っただろ?俺外交上手だって」
へらっと笑って結人は返す。一馬が心配そうな目で二人を見ていた。というより、実は結人に下手なことをしてくれるなと思っていたのだったりする。
「本当に、いつから名前で呼ぶようになったの?」
すい、と細まる目が怖い。冷や汗を流す一馬に結人は外に出るように目で促した。とばっちりを受けさせては悪いし、突っ込むには邪魔になるかもしれないのだ。
「お、俺、先に出てアップしてるから!」
視線を妙に泳がせて早口に言うと一馬は慌てて出て行く。よっぽど怖かったんだなぁとやけに暢気なことを思った。
「何時ってこないだ。やっぱフレンドリーな感じを出すには名前で呼ぶのが一番じゃん?実際に仲良くなったって感じるし。
何、そんなにコワイ顔してンの?英士」
軽く引き攣りそうな顔を虚勢でそうと知られないように張る。さっきは一馬のことを暢気に見ていたが、いざあれに対するのが自分一人になるとプレッシャーは増すものだ。心理的なものかもしれないが。
結人のキャラは悪戯好きでいつも明るく、平気で英士をつついては笑うというものだ。結人自身それを知っている分やっているわけだが、今が今で、理由が理由だ。ここで引いてはいけない。
結人にとって楽しいのは確かだが、いい加減自覚してもらいたい。
「怖い?俺の顔が?それはどうしてだろうね?というか人の顔を見て怖いって言うのは随分と失礼じゃないの、結人」
ここまで嫉妬を露にして、結人が「多紀」と呼んだだけでブリザードを振り撒いているくせに全く以って英士は気付かない。
「うわぁ、自覚ナシ?ダッメだなぁ、英士。そんなんだと後悔するぜ?」
態と腹が立つように言って結人はドアに手をかける。先に着替え終わっていて良かったと結人は思った。
「結人?俺が何に後悔するって?」
「さぁ?本当に気付いてないのか、気付いてるのに無視してるのか知らないけどさ。英士もいい加減無駄な努力は止めてその感情認めたら?
伏兵って思わぬところにいるからこそ意味があるんだろ?」
振り返って結人はそれこそ意味ありげに笑ってやる。
そのままドアが閉まるのを待って大きく息を吐いた。酷く疲れた。英士の睨む眼差しは憎悪と紙一重の嫉妬。これに近いものを感じ続けていれば多紀でも勘違いするだろう。
いくらなんでもこれだけ思わせぶりに言えば己の感情と向き合うだろう。
俺っていい奴、なんて思いつつ先に行かせた一馬の姿を結人は探した。
触れれば切れるような眼差しをドアに注いだままで微動だにしなかった英士も知らず詰めていた息を吐いた。運がいいのか悪いのか、他に人が来る気配はない。
「俺の感情が何だって…?」
常に冷静でいるようにしてはいるが今は、か。今日は、か。それも無理かもしれない。感情か、心か、酷く波立っていた。
結人は結局何が言いたい…?
自問自答の初めも最終目的もこれだろう、そう思ってから英士は違うかと小さく頭を振った。結人の言を受けるなら英士の最終目的は己の感情の解明になる。英士は敢えてそれを無視しようとしたが、結人の言いたいことは英士のこの燃けつくような感情についてらしい。それならば、結局は無視は出来ないということだ。
(結人が俺と杉原のことで何か含みがあるって言いたいらしいのはわかったけど…)
英士にそれ以上のことに気付く気配はない。
(人のことをじっと見るくせに)
それに英士が振り返るともう見てはいないのだ。それが気にならないといったら嘘になる。けれど。
(大体敵愾心を出して睨んでくる相手と仲良くなれると思うかな)
英士はひとつ溜息をついた。
何故だか妙に胸の中が靄ついていたが、いつものように何でもない顔をして更衣室を後にする。
ぐるりと周囲を見渡した視線の先に結人と一馬。そして楽しげな多紀の笑顔があった。
冷たくなる眼差しと空気に本人が気付く気配は、ない。
Fin
今回だけは地文は三人称は全部名前で。全体的に結人が出てるんで。(それは今までのも…)
変ですな。
変です。この話。つーか英士。
これを書いていた当時にいっそのこと618にしてやろうかと思ったほどに。いえ、それはそれでおかしいのでやりませんでしたが。
次回で英士がきちんと気付きます。でも短い。凄く短い。ひとつに纏めちゃえば良かったんですが、それもなんだか何なので(訳わかんないよ)。
文が酷い。直しようがないほどに。直して何が変わるんでもないけどさ。
改稿03/11/23