煽り
磁力2
足取り軽く、ご機嫌な結人を郭は不気味な生物を見るような目で見た。ただ、その原因は練習場に着いてすぐに解けたが。
「ちィーす」
「あ、おはよう。結人くん」
にっこりと杉原が笑う。
「おう、はよー。多紀」
名前で交わされる挨拶に郭も一馬も目を見開く。ついこの間まではなかった光景。
「おはよう、真田君、に郭くん」
自然な動きで後ろの二人に移された挨拶に二人してワンテンポ遅れた。
「おはよう」
「あ、ああ。はよ…」
一馬が多少どもりながら言っている途中に被るように結人が話し出す。
「んで。多紀はまたなんでここにいるんだ?」
「カザくんのお出迎えv」
楽しげに返し、何も知りませんとばかりの純真真っ白の笑顔を見せて杉原はひょいと道路を覗いた。
「まだかな…?」
「どーだろ。いつもはどうなんだよ?」
さっき通った道を同じように見返している結人をどうしたものかと郭と一馬は目を交わす。
交わす一馬がぎょっとした。
郭の、ただでさえ冷ややかな印象を与える目がより一層酷くなっていた。まさに霜が降りたかのような目。
「うーん。知らないんだよね」
「じゃ、あっちで待ってる方がいいんじゃねぇ?」
悩むように杉原は首を傾げ、そーしよ−かな?と呟く。
「ちょっと結人くん」
小型なトーテムポールよろしく首を並べた状態で、極小の声が杉原の口から発せられた。身を寄せていたからこそ結人にも聞こえたのだろう。
「何」
「郭が凄い目で僕を睨んでない?」
「睨んでるな」
背中に感じるプレッシャーは勿論結人も気付いている。結人的にはにししと笑いたくなるほどあからさまに感情が露だ。郭には珍しく。
「そんなに僕のことが気に入らないならさっさと言えばいいのにね。嫌いだとか、親友と仲良くするなとか」
「……」
さらっとのたもうた杉原の台詞に結人は絶句せざるおえない。郭のあの狂おしい眼を見てどうしてそうなるのか。あれなら一馬も気付いているのではないか、いや気付いてると結人にはそう思える。恋は盲目って言うけど、これもその一種なのか、などとイマイチ訳のわからないことまで考えてしまう始末。
「ま、郭の性格からしてそんなこと言うわけないか。クールがポーズだもんね」
「あ、ああ。まぁな。俺も英士がサッカー以外のことで熱くなってるトコなんて見たことねぇし。寧ろそんなこと言ったらそれ、もう英士じゃねぇよな」
一寸放心状態になっていた結人は慌てて話を合わせた。
この二人、こうして極小声で会話を交わしていた間中ずっと道路に首を突っ込んでいたわけで、偶におかしくない程度に逆側も振り返る。
それでも、まぁ、内緒話をすれば自然と、それこそ気付かないうちに体を寄せてしまうものだ。このときの二人の後姿が決して仲睦まじく見えなかった、なんていえない。寧ろ、とても仲が良さそうに見えていた。そう見えるのも概ね嘘ではないのだけれど。
背中の冷気が増している。
結人もさすがに顔が引き攣りかけた。本人無意識の状態であんなふうになられるのは気付いていない人間にとって意味不明のあの冷気は恐怖にしかなりえないだろう。気付いていても恐怖だ。全く気にしていない強者・杉原もいるが。
「結人」
冷ややかな声に結人は身を竦めそうになったが、なんとか押し止めた。
「何?英士」
極力なんでもないように装って、事実完璧だったと結人は自負している。杉原は気付いているだろうが。
「いつまでもそんなことしてないで。先に着替えに行くよ」
「結人っ。行くぞ!!」
一馬は必死な様子だったが、その一馬を視界に入れてない英士にはこれといった変化はない。一馬が哀れで、というのは嘘で結人は身の危険を感じ、煽りを止めた。命は惜しい。
「おう。今行く。じゃな、多紀」
「うん。すぐ」
にっこり笑って多紀は返した。
3人が向けた背に杉原がくすりと笑ったことなぞ、誰も知る由がなかった。
Fin
“英士を煽ろう”でどうしてこうも結人主体になるものか。誰だ、こいつらは。
次はこの後の3人のお話。
古くて書き改めるにも書き難いです。
改稿03/11/16