拭えないモノ
突発性病〜不安症候群〜
寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。寒い。
なぁ。お前。
あたためろよ。
ごそ、と。蠢くタオルケットに渋沢は目を覚ました。
壁の方を向いて寝ていたのだが、億劫そうに首だけをそちらに向ける。
「…どうしたんだ?三上」
隣のベッドに寝ていたはずの三上が潜り込んだのだ。
「……別に」
渋沢を起こした原因の方は寝ぼけた声の主にそっけなく答える。
眠いままのというより、半分以上寝ていそうな様子の渋沢はそれでも半身を肘で支えて起こすと三上の方を向いた。
「何でもねぇって言ったろ。いいから寝てろよ、お前は」
暗くてもわかる不機嫌な顔で尊大に言いつつ、三上は仰向いた。
暫くは黙って見ていたのだが、何も言わないまま再び渋沢も寝る態勢になる。頭はまだ上手く動いてはいないのだ。
ただ、
「……何だよ」
「……何って?」
「なに、こっちに顔向けてんだよ。そっち向いてりゃいいだろ」
抱き込むようにしてきた渋沢に三上が腕を退かせようとする。
「…ん?だって寒いんだろう、三上?」
「……」
「クーラー、つけようか?」
「お前、今、俺に寒いだろって聞かなかったか?」
「聞いたけど?」
返ってきた聞き間違いではない言葉に脱力しそうになる。さっきまではそんな風にもなれないほどに気分が最悪だったというのに。
黙った三上を再び腕の中におさめて渋沢は囁くように言った。
「だって、こうしていたら熱くなるだろう。三上は寒くたって、狭いベッドに二人で寝てたら後で熱くなるだろうし、俺の体温は普通だから」
それは多分に言い訳めいた台詞であった。
人肌というものは冬は何とも言えずに気持ちいいものだが、夏場にはこれほど嫌なものはないだろうというほど暑苦しく感じるのだ。
「なら離せばいいだろう」
今夜はまだ快適な夜で、一人で眠るならクーラーは要らない気温なのだ。クーラーがあることに助かっていることは事実だが、たかが中学生の寮部屋に冷暖房完備というのは一体如何なものだろうと思ってしまうのもまた事実である。
「それは駄目だな」
渋沢はちょっと笑ったようだった。三上には暗くてよく見えなかったが、気配がそれを伝えた。
「だって、寒いと思っている三上を離せるわけないだろう?それにこんなにも深くまで大切になってしまったら、離したときに俺が寒くて堪らなくなる」
込め直される腕の力に、三上は咄嗟に言おうとしたことがあったのだが、忘れた。渋沢に返したいと思った言葉を。
眠ってしまった渋沢。
先程まで多少眠そうだったとはいえ何でもないように話していたのに。とんでもない告白をやっていたくせに。
一瞬で再び眠りの住人だ。
三上は暫く、これは渋沢狸ではないだろうかと疑っていたのだが、どうやら本当に眠ってしまったらしいと判じてゆるゆると息を吐き、肩の力を抜いた。
「んで、そんなに鋭いんだよ、てめぇは」
こんなときばかりにと思う。
理由なんてものは特にない。それでも、冷房も何もついていなかったとしても時に、異常に寒いと感じるときがあるのだ。それは四季を問わず、一年中いつだって思い出したように起こる。
そういう時、いつだって渋沢は鋭い。今回のときのようではなく、何気ない仕草でいる時だって、それこそこういう関係になる前から必ず気づいてはあたたかくなる何かをくれる。
それが心底嬉しく、有難い。
そう思ったら不覚にも目尻が滲んだ。
力を抜いた体には渋沢がしっかりと包んでくれる強さも重さも気持ちがいい。
三上は少し逡巡してから自分の腕を渋沢の背に回した。
密着度は増すし、呼吸はかかるしで始めは相手が眠っていても気恥ずかしくて堪らなかったが、だんだんと逆に安心できるようになる。決して誰にも、勿論本人にも言うつもりはないが、渋沢が傍にいるとどうしようもない安堵感に包まれる。それを今は特に強く感じる。
ほう、と吐息を零す。
眠らずにぼんやりとしていると闇に慣れた目が曖昧さは如何せんあるものの見えるようになる。
そうしたら心臓が一度跳ねる。
目の前に無防備にさらされた白い首。同い年なのに渋沢のほうがしっかりしているように見える。体格がいいのだから当然だろうと思って、それから少しは思い込みがあるのかもしれないと思い直す。普段が大人っぽく、しっかりとしている所為で何事に関しても渋沢は大人っぽいという印象が出来上がっているのかもしれないからだ。まあ、こればかりは事実、恵まれた体格ゆえだろうが。
三上ははっとした。あまりにも渋沢の首に視線を注いでいる自分に気づいたのである。意味もなく居た堪れなくなって顔の方に目を向けた。
ああ、と新たな発見をする。知ってどうするというようなことだが、寝顔はまだ子供っぽい。改め、年相応だ。ついでに睫が長い。
つらつらと、且つ、まじまじと観察していると何の脈絡もなく、また急激に。
寒い。痛寒い。
今度は痛みさえ伴った寒さに襲われる。
心臓が握り潰されるのではないかと思う。
痛み。
気付かされる瞬間があるのだ。明らかに自分と渋沢は違うと。徹底的な差を感じてしまう瞬間が。
そして、無性に寒くなる。寒さとして認識させられる。
寒い。
口の動きだけで囁いた。
その瞬間。
抱く腕が強くなる。三上が大きく目を瞠った。
やっぱり起きていたのかと思い、睨むように見つめたが渋沢は何も変わらず落ち着いた呼吸が繰り返されるだけだ。
ただの偶然か。
そのことに安心した三上は同じように力を入れた。薄手のTシャツなど破いてしまいそうなほどに渋沢の背に爪を立てて抱きしめる。
「放すなよ。渋沢」
抱き合う形になった三上は渋沢の肩に顔をうずめるようにしてぐぐもった声で呟いた。
数時間後。
「放せるわけないと言っただろう…。三上」
お前こそ放さないでくれと、思う。
囁く渋沢の声は、冷暖房気の稼働音に消えた。
三上の呼吸は、穏やかだった。
Fin
シリアス?寧ろみかみんが弱いです。今回は、デスヨ。
「お前こそ〜」はアップで付け足したので書き上げたときは本当に三上が弱いだけだったのです。あまりの弱さにちょっと渋沢も弱くしてみたり。
止めたほうがよかったか…?
でも、こんなのはこれだけです。多分。あ。あれも弱いか。むう。私の理想は支え合う二人なので片方だけが寄り掛かりはしないのです。
強いみかみんを書きたい。110で(笑)すると怪我ネタ?(痛い)
ついでに寒かったのは私です。精神的になんかあったときに書いたんでしょうね。
次は普通…だったと思う。
2003/10/12