望むもの-Side:1+6-






望むもの






 誰よりもお前を知っている、お前を理解できる人間でありたいんだ。俺は。





 気遣わしげに笠井は渋沢に目を向けた。
「克朗さん?」
 名前を呼ぶ。ただそれだけに万感とも言える思いを込めた声で。
「竹巳か。どうした?」
 ふっと力を抜くようにして渋沢は笠井を見下ろした。
「後半はそのまま貴方に返しますよ、俺。毎日お疲れ様です」
 すいと出されたマグカップには、綺麗な緑色の液体が入っていて受け取った手には陶器を通して熱が伝わってくる。
「あぁ、有難う」
 一口含んで漸く人心地ついたというように渋沢は笑った。
「けど、お疲れ様とは穏やかじゃないな」
「でも、そうでしょう?俺もまさか誠二があんなだとは思いませんでしたし。毎度毎度、本当に」
 はぁ、と笠井は溜息をつく。
 渋沢はその笠井の様子に苦笑いを浮かべた。
「竹巳も大変だろう?」
「大変じゃないって言ったら嘘ですけどね。実のところ克朗さんほどではないと思いますよ。俺は別に抱き着かれるわけでもないですから。というより、あんな過剰なスキンシップになってるのは克朗さん相手のときだけです」
 きっぱりと言い切られ渋沢は曖昧に笑う。
「俺相手のときまでそうやってどうするんですか」
 呆れ、より心配。顔にそう堂々と書いて、笠井は渋沢の肩をぐいと摑み屈ませる。
「ちゃんと本音を見せられる相手はいますか?」
「竹巳は?」
 くすりと笑った渋沢に内心では安堵しつつ顔だけは厳めしくしてみせた。
「勿論、俺を除いてですよ。因みに俺はいますからね。些か不本意ですけど、誠二が。ま、隠していることも多々ありますけど」
 楽しげに笑って笠井は付け足した。
「たとえば、俺とあなたの関係とか」
「俺にもちゃんといるよ」
 ふわりと笑う渋沢に笠井も優しく笑い返す。
「それは良かった。…そういえばあの人は俺たちが幼馴染だって知ってますものね。克朗さんが教えてたんですか?」
 笠井の言葉に渋沢は視線を泳がせた。大抵の人がもっている言い辛いことを訊かれたときにやる癖である。
「ああ…。竹巳たちが入学して1.2週間したとき話をしていただろう?」
「え?えぇ」
 2ヶ月ばかり前のことを思い出して頷く。
「でも確かあの頃の克朗さんって新入生の殆どと話していませんでした?それに内輪の話もしませんでしたし、極普通に接していたと思うんですけど」
 こうして話すようにしたのも藤代が渋沢にスキンシップを仕掛けるようになってからだ。藤代の管理人的認識を持たれている笠井が渋沢とよく話をしていてもおかしくないようになってからなのだ。余計な詮索は彼らには望まないことなのだし。
「ああ。だが、俺は随分と気を楽にしていたらしい」
「まさか。普通でしたよ。見てわかるような感じじゃなかったのに」
「要するに、そういうことだ」
 肩を竦めて、照れたように苦笑いをする渋沢に笠井は「なるほど」と同意して「嬉しそうですね」と笑った。
「さて、と。そろそろ行きますか」
 ゆっくりとお茶を飲む渋沢に合わせて笠井は促す。その際さり気なくカップを預かるのを忘れない。遠慮しようとする渋沢にどうせまたキッチンに行くからと笠井は言い含めた。
「そうか?それじゃあお言葉に甘えるよ。辰巳のところに行かなくてはならないから」
「はい。根を詰めすぎないようにしてくださいね?頼るべき人には頼るんですよ?」
 キッチンに戻る笠井はちょうど渋沢と逆の方向になる。母親のような言葉に渋沢は小さく笑った。言われる覚えだけなら幾らもあるから余計に。
「あ、笠井」
 少し距離が出来ただけで渋沢はその呼び方を変えた。笠井は当たり前のように振り替える。
「何でしょう。キャプテン」
「内緒に頼む」
「はい」
 笑いを噛み殺して笠井は了承した。



 立ち話をしていたところからすぐにある曲がるはずの角を笠井は通り過ぎる。
 その瞬間。
「貴方になら、任せられますよ」
 一人ごちた。





            Fin
 誰がなんと言おうとこれは三渋なんです。みかみんが始めのあの1行にしかいなくても。
 しかし駄文だなぁ。このあたりから克朗さんと笠井が幼馴染だって設定がぽこぽこしてきます。説明に書いてあったから大丈夫ですよね?
 こんなのですみません。なにせ1年近く前のですからね。
 反省はしてるんですよ。見えなくても。





2003/06/07