わかり合えるって素晴らしい。2000リク






ゆふぐれの囁き






 三上はちらりと校庭に設置されている時計に視線を走らせる。
 時刻は5時を回って暫し。本来であればまだ30分は余裕で部活が続くのだが、三上は渋沢がいるゴールポストの方を横目で見やると片手を挙げて集合というようにその手を動かした。
 気付いた一軍メンバーが集まり出せば、二軍、三軍が慌ててやって来た。一軍全員と他の奴らの大半が集まるのを待って、三上は口を開いた。
「今日はこれで以って解散。当番の奴らはしっかり片付けろよ」
 唐突な部活終了宣告に全員が声を上げる。
 今日は監督もコーチもいない珍しい日で、部活における権限は部長を務める渋沢が最も強い。三上も副部長なのだからそれなりの発言力と権限があるのだが、渋沢が全く了承していない状態で何かを言うことはまずない。そもそも、三上は極力仕事をしないで済ませようとするタイプだ。越権行為などするはずもないのである。勿論、一度やるとなればその責任感は確かなものがあるが。
 当然、ざわめきが起こった。
「うるせぇ。自主練する奴は勝手にしろ。ただし、コートは閉めるからな。さっさと片付けろ、当番!」
 その怒声に近い声に二、三軍は再び慌てだす。その慌てっぷりはいっそ憐れだ。
「三上?急にどうしたんだ?」
 頬を膨らませている藤代は笠井に任せてベンチに腰を下ろして片付けの様子を見ている三上に渋沢は近づいた。立っている渋沢を真顔で見つめていた三上はやおら渋沢の手を引き強引に座らせる。
 そして、説明の一切も抜きに言い放った。
「渋沢、おまえもういいから鍵寄越せ。で、さっさと帰って寝てろ」
 座らせるときに摑んだ手は握ったままだ。
 不審に眉を寄せた渋沢は反論する。それでも握られた手を気にすることはない。
「何を言ってるんだ、三上?まだ部活は終わってないだろう?」
「だからさっき終わらせただろうが」
 嫌そうに三上は顔を歪めた。言わずとも理解しろとその目が語っている。
「だからみかみ…」
 何事かを言いかけた渋沢の言葉を三上は自分が言うことで塞いだ。
「仕様がねぇだろうが。うちのキャプテン様は他人の面倒見はいいし、自己管理も完璧にこなすことはこなして倒れるような無様な真似を晒したことはないけどな、体を大事にしているとは言い難いんだよ」
 傍目にはわからないことなのだろうが、三上は握る手に力を込める。
 それは言葉にしないで伝わるもの。心配していると伝える力だ。
「俺なら大丈夫だと思うんだが…」
 渋沢は苦笑する。自身の限界値はまだ大丈夫だと渋沢に告げていた。
「うっせぇな。お前は大人しく俺の言うことを聞いとけばいいんだよ。てめぇの言葉が本当かどうかぐらいわからないと思うか?」
「お前な、人を嘘吐きみたいに…」
 鋭い三上の言葉と視線が渋沢に向けられる。限界まで我慢するな、無理するなとは過去幾度となく繰り返された言葉だ。
 傍観している一軍は内心で「負けたな」と呟いた。誰が、などと考えるまでもない。そもそもの分は彼にはなかったのだ。
「ならお前はわからないのかよ?」
「まさか。わかるに決まっているだろう?」
 小馬鹿にした三上の言い方に反射的に渋沢は返す。考えるより先に言葉は出てきていた。
「だったら俺がわかるのにも、言うことにも疑う余地はねぇよな。
 俺はお前がやることにいちいちどうこう言うつもりはねぇよ。ただ、今日みたいな真似はすんなってだけだ。辛いときはちゃんと休め。何の為に俺がいると思ってんだ?
 隠すようなことはする必要も意味もない」
 三上の言葉は至極簡単で、無理をするなとしか言わない。渋沢本人が許容量をしっかりと把握しているとは言い難い分、いつの間にやら三上が本人以上に気を配るようになっていた。
「ありがとう、三上」
 はにかむような微笑を浮かべて、渋沢は素直に礼を言う。
「わかればいいんだよ。あとはこっちでやっといてやるから」
 素直に喜ばれることと礼を言われることに渋沢限定で慣れたのか、三上は特に調子が変わることもなくそれを受けた。
「しかし、情けないな」
 笑顔一変、渋沢は軽い自己嫌悪に陥って溜息をつく。普段何かと部員や同級生たちに頼られることの多い渋沢だが、渋沢が頼るのはいつだって三上ひとりだ。勿論三上はそれを許容しているのだから何の問題もない。
 三上は渋沢の言葉にこいつは馬鹿だと思い、そのまま口にする。当然、第一声は、
「ばーか」
だ。
「迷惑なんか掛かってねぇよ。心配はするけどな。それだって俺が勝手にするようなもんだろ。お前は気に病むな。気になるなら甘えることを覚えろよ」
 繋いでいる手を引っ張って渋沢の頭を自分の肩に乗せさせる。腹は立つがこういうものは背が低い方がやりやすい。三上の体に寄り掛かれば自然と渋沢の体から余計な力が抜けていく。
「いいか。ひとりじゃないんだから、ひとりで頑張り過ぎるな。
 お前だけが俺が無条件で甘やかす相手なんだから」
 その光景をその場にいた殆どの人間が放心したように見ていた。いや、本当に放心しているのだろう。口をぱっかりと開けて微動だにしない。何故ってそれはあまりにも衝撃が大きかったからだ。けれど、そんなことにはお構いなしの怒号が再び。
「てめぇら。なぁに止まってやがる。さっさと片付けろっていっただろうがッ」
(いや、無理だって。)
 無慈悲なその言葉に、唯一放心することなく見ていた一軍の面々が突っ込む。勿論心の中で。彼らが無事なわけだってただ慣れただけだ。
(お前がそんな顔で笑って、渋沢の髪を梳いてたら。渋沢も安心して身を任せちまってるし!つーか、無意識なのかよ、お前ら!)





                   Fin





       (あまりの酷さに)おまけ





   同日・食堂
「あ、渋沢」
「ほら、塩」
「ん。サンキュ」
   ざわざわざわ。
「三上、悪い」
「別に。俺のが醤油に近いんだから」
「ありがとう」
   ざわざわざわ。
「お。サンキュ」
「お前のも淹れてくるのくらい当然だろう?朝は三上が持ってきてくれるし」
「まぁな。やっぱ和食の後には緑茶のがあうのな」
「だろう?」
「あぁ?なんだよ、その意味ありげな笑みは」
「いや。だって、初めの頃は三上、全然そんなこと言わなかったから」
「んなら、お前だって、どうだよ。コ-ヒー普通に飲むようになっただろ」
「まぁ」
「ま、当然か?3年もずっと一緒にいるんだし」
「そうだな。嗜好もお互いに近寄っていくんだろうな」
「このあともまだあるもんな?一緒にいる時間」
「本当に」
「そろそろ戻るか」
   ガタン。
「三上。お前のクラス明日古典があるだろう。ちゃんと予習するんだぞ」
「わぁってるよ」
「「ごちそうまでした」」
『お粗末さまです』
「お前こそ今日は早く寝ろよ。そのためにあがり早めたんだし、明日体育あるだろ」
「生徒会の書類が…」
「あぁ?あの…ってやつ?今日は代わっといてやるから、お前は寝…」
「でも、…まえだっ…、予習…」
「やる、やる。いーから…」
「……」


 今日まで流れていた三上・渋沢ばかっぷる説が真実の認定を受け、新たに既に夫婦だという説が出た日。





             今度こそFin
 三浦様。
 すみません。本当にすみません。
 これのどこが夫婦なのでしょうか。もう、単なるばかっぷるの話です。
 何とか夫婦っぽくと思い上記のような無駄な足掻きをしても見ました。が、無駄でしたね。
 ああ、もう、本当に。書き直し受け付けます。寧ろその方がよいのやも知れません…。(余計に酷くなっ…)
 こんなもので宜しければ貰ってやってくださいませ。
 そういえば、夫婦の姿とはどんなものなので御座いましょうか…。(駄目じゃん)


 三浦式部様のみお持ち帰り可です。





脱稿03/10/31 改稿03/11/02