強引に抱き締める強さで
強引に抱き締める強さで
渋沢の告白から数分。
強引に三上は渋沢の手を引き、自分がいるベッドの上に押し倒す。
「そりゃ、何だ?お前が言う別れっていうのは何を指してんだ?」
痛いほどに冷えた眼差しが渋沢に突き刺さる。熱しすぎた怒気は逆に氷の鋭さをもっていた。
渋沢は痛みに小さく呻いた。今は両手を縫い止めるようにしているが三上は引くとき包帯の巻かれたところを思い切り摑んだのだ。勿論、故意に。
静脈が傷ついていたのだから痛むのは当然。傷が開くのもお構いなしにである。
じわり、血が滲んだように感じた。
「みかみ・・・」
「何が終わるんだよ・・・」
掠れた渋沢の声を遮るようにして三上は問いを重ねる。
「俺が信じられねぇってんで不安なら、いっそのこと今切っとくのも手だぜ?少なくとも見えもしねぇ未来に怯える必要はなくなるからな」
なんと応えようか考え始めるなり自嘲するような三上の台詞に押さえつけられたまま、渋沢は首を振る。抵抗しようにも三上が上手い具合に封じていて退かせるには到らない。
「違うっ。離れたくないから怖いんだ。別れるのが嫌なんだ。お前はもてるから。離れ離れになるのが嫌なんだ。それが不安なんだ。俺がいないときに、俺が知らないときに誰か女の子が側にいるのが嫌なんだ」
感情を爆発させたかの如くに叫ぶ。三上は眼を瞠ると肩を震わせ始めた。
「渋沢。ソレ、違うダロ」
先程まで声にあった棘も険も消えている。声が纏うのは嬉しさを含んだ笑みだ。
「不安も?まぁ、あるんだろうけど。寧ろ、嫉妬。ありもしねぇ影に妬くなよ」
口が「え?」と動く。頭の理解がまだ追いついていないらしい。にやにや笑いそうになるのを抑えて三上は渋沢を見下ろしていた。拘束は、まだ解かない。
「ち、ちがっ・・・」
真っ赤になって否定しても意味がない。赤くなった時点で肯定である。
「俺は、本当にお前がいなくなるのが・・・」
「俺もヤなんだけど?」
仕方がないと三上も少し素直になってやる。多少でも本音を見せてしまえばこの男はもう自分から離れられはしない。
「プロになってこれからますますファンを増やすお前が俺は少し憎いんだけど?ま、だからってお前が俺を好きなことなんて十分に知ってっから不安じゃねぇけどな」
ふふん、と、三上は笑う。
「・・・」
渋沢は何だか黙ってしまった。言う言葉が出てこないらしい。
「この際だから言ってやる。有難く思えよ?」
押し倒していた渋沢を放してやると、彼は三上の前に座る。男が二人ベッドの上で向かい合わせに座るなど、妙な光景だ。しかも片方が正座となれば尚更。
「俺は独占欲が強いんだよ。黙ってて終わらせられると思うな。そう言われて俺が黙るなんてお前、思ってないだろ。
その不安だけで手首掻っ切ろうとしたわけじゃねぇだろ」
真面目な、落ち着いた三上の声だった。いつものようにからかうのではなく、嘘を嫌がっているだけのもの。冷たくもなく、だからといって優しいのでもなく、ただ、そこに『在る』声。
普段自分が嫌がる真直ぐな眼を三上は渋沢にやる。
「夢を見たんだ。お前が死んで、俺だけが残される。俺の目の前で、お前は事故に遭うんだ。夢だと俺はもう知っているのに」
言葉にする端から涙が落ちる。
三上はそれをなんとも言えない気持ちで聞いた。夢の不安に押し潰されるほど渋沢が自分のことを想ってくれるのは嬉しい。非常に嬉しい。だが、夢とはいえ殺されては元も子もない。
そもそも、例えこんな夢を見てもいつもの渋沢ならこんな風に追い詰められる前に気持ちの持ち直しができたはずだ。
『卒業』という目に見える別れの前兆が普段隠れている渋沢のネガティブ思考を増長させたらしかった。
目を閉じ、ただ涙を流すだけの泣き方をする渋沢の涙を三上の指が拭う。次から次へと溢れる涙を渋沢は泣き慣れていない為か、制御できない。
三上はその体を抱き締めた。
声を出さない泣き方は身の内を焼くだけだと知らないのだろうか。
その泣き方が、傍に居る相手を傷つけるときがあるということを。
リストカットといい、さっきの笑顔といい、この泣き方といい、今日の渋沢は三上に痛みを与える行動ばかりする。
三上をこんな気持ちにできるのが自分だけだと渋沢が自覚したらいい。そうすれば訳のない不安になど、捕まるはずがない。
三上の肩に目を押し付けて、彼の服を濡らすに任せていた渋沢が、まだ涙の気配濃厚な声を出す。
「言霊を知らないのか?三上は・・・」
「お前こそ夢は話すと正夢にはならないんだぜ?」
古いことを引き出した渋沢に合わせて三上も言う。正確には、夢は話すと現実にならないから悪夢は話してしまえ、とかだっただろうか。だが、どちらでもいいことである。
「ほら。これで俺は死なねぇだろ」
三上は手触りの良い渋沢の髪を梳きつつ小さく笑った。
「子ども扱いするな」
ぐいと体を起こした渋沢の目にもう涙はない。気持ちの踏ん切りをつけられたらしかった。
にっと三上は笑った。
体を離した渋沢の右手を軽く握って傷口にあたる包帯の上にくちづける。
眼は渋沢の眼を囚えたまま一寸とも動かさない。
「勝手にひとりで逃げるなんて赦されると思うなよ。
離してなんか、やらねェから」
声とくちびるが、鼓膜と血と心臓を、震わせる。
Fin
フォロォォォォォ。甘ッ。こんなになりましたよ。ま。克朗さんの幸せ路線になってれば問題ないです。
夢云々は私の曖昧な記憶なんで正しいかはわかりません。確かそんな感じだったと思うんですけどね。どうだったかな。
どうせですからね、卒業式までの3部作にしますよ。
同日upとかになってそう。
2003/05/22