捉え、囚われる












 束縛を嬉しいと感じる。
 この心は どこか 狂っているのだろうか。



 不機嫌な面持ちで己のことを睨む相手に渋沢は自分の心が快感に似た悦びを得ていると知った。
 真直ぐに自分を映す、眼。
「渋沢……。聞いてんのか」
 息が触れ合うほどの近さであるのに、その間にある空気は決して甘やかなものではない。
「勿論」
 微笑を浮かべた渋沢に三上の何かが切れる。
 それは堪忍袋の緒かもしれないし、抑え続けていた理性の手綱かもしれない。
「俺は、誰彼構わず笑いかけるなって言ってんだ。それにあの馬鹿に纏わり付かれるな」
「ああ」
 返事をしながら渋沢は目を閉じる。それでもわかる強い視線。その想いの強さ。
 それに渋沢は陶然とする。
(そんなもので量られていると知られたら嫌われるだろうな)
 けれど、陶然と浸りながら、頭の片隅はそう冷静に判断する部分も確かに残っていた。
 一方、目の前で目を閉ざされた顔を睨みつけていた三上は怒り、否、嫉妬は収まっていやしないというのに、そのまま誘われるように熱を交わす。
 それは乱暴な仕草で。その分欲するものは測り知れないまでの熱と想い。
「ふ…ぅ」
 それに応える渋沢からは艶やかな声が漏れる。
 貪るだけ貪って唇を解放し、目を開くように促すつもりで三上は舌で唇を舐めた。
「みかみ……」
 潤んだ目と濡れた声。その存在全てで三上を渋沢は捕らえる。他人となんて関わりたくないと思っていた三上を。
「何だよ。───克朗?」
 何かを試すように三上は名前を呼んだ。あるときの特有の呼び方で。
 全てを自分に縛り付けたいと三上は心底そう思う。自覚のないこの男の心が自分のモノだと確認できる度に。
 他のどんなものよりも強力な蛾誘灯のように、節操なく惚れさせてしまう魅力を持つ彼。
 だからこそ、三上は自分に縛り付けたいのだ。他の何を見なくてもいいのだとそう思う。本当なら自分しか知らない場所に閉じ込めてしまいたいと思う。心底そう思うのだ。中学生(じぶん)には土台無理だと知りつつも。
 艶やかに紅い唇が誘うように濡れている。
「────もっと、そうしてくれて構わないのに」
 微かに動いた唇が伝える言葉。
 三上はそれに衝動的に渋沢を押し倒し、そのまま床の上で組み敷いた。
「もう一度、言ってみな」
 信じられない。信じられないほどに自分に都合のいい言葉を聞いたのだと、若しくは脳が曲解して伝えたのだと自らに三上は言い聞かせる。それでも肌を暴く手は確実に渋沢を追い詰めるために動き出す。
 鍵の掛かっていない部屋。
 いつもなら、掛けるようにまず要求してくる渋沢。
 けれど、アレが曲解でもなく、真実であったのなら…?
「お前になら、三上。俺は縛られたっていいんだ。お前もそうだというのなら」
 見上げてくる渋沢の目も熱を含む言葉も、三上を誘い、捕らえる。
 一生を三上に囚われていたいと思うから渋沢は改めてそう口にする。何時だって嫉妬と独占欲をその目に浮かべて渋沢を見ている、三上に。
 だから、自分の想いと三上の願いが重なるように。罠を張るように渋沢は口にする。これが若気の至りだとか早計過ぎるとは感じない。
 ふたりとも。
 このときに間違いなく必要な、それ。
 お互いの存在を互いの存在で捕らえてさえしまえば。
「お望みどおり。誰が離すかよ」
 低く、三上は渋沢の耳朶のうちに注ぎ、囁き込んだ。
「……っ」
 渋沢が声を抑えられないところを三上の悪戯な手は態と弄る。
 交わし合った言葉が嘘ではないとふたりとも知る為。
 相手の為。
 自分の為。
 廊下には人の通る気配。
 何時だって人の訪れが多いふたりの部屋。
 何時開くかもわからないそのドア。
 渋沢は三上の背に爪を立てるように腕を回して、三上の唇に触れて囁いた。
 背を抉る強さと脳を蕩かす声。
 あまい、あまい、蜜なるコトバ。
「どんなときだって亮だけが居れば、それでいい」
 彼から仕掛けられた口接けは、そのまま逆に貪られる。





                Fin
 暗いんだか、エロいんだか。謎の作品です。一応、其処此処に補強になるように入れてみたりしたんですが、余計にわかり難くなってるかも??
 行間を取ったほうがよかったのかな。
 これはもともと好きな人になら束縛も嬉しいよなぁ、から始まったから纏まりがないのかも。テーマの束縛からは外れてはいないとは思うんですが。

 感想、とっても募集。ひと言二言でも嬉しいんですが…。





脱稿02/08/25        改稿03/12/14