たくさんのすきが降り積もる






君との距離5題






 5.平行線上のふたり


 不意に向かいに座る男が声を立てて楽しげに笑い、何事かと三上はテレビから目を離した。
 ビデオに撮った試合はまだ操作中で始まっていないし、たとえ始まっていても試合で声が出るほど笑わない。ましてや唐突に笑うのが渋沢だなんて、若干天変地異である。
 ぎょっとした目で三上が自分を見ていることに気づいたのだろう。渋沢はごめんと言って笑声を引っ込め、微笑んだ。本当は別段と渋沢が声を上げて笑っていけないわけではないので、謝られると三上は座りが悪い。
「謝らなくてもいいけど、なんだ。急に」
 結局、若干憮然としてこう返すしかない。付き合いは長いのに言葉は難しいと、三上はいつも思う。自分の言いたいことの半分も間違わずに伝わればいいと願う。
「うん」
 渋沢は目をやさしく撓めた。元々大人っぽかった渋沢は、途中からまったく変わってないんじゃないかと三上に思わせる。基本、いつだって穏やかで公平でやさしい。比べて、己は昔のように無駄に意地を張ったり露悪的に振る舞いはしないけれど、長所というべき点での成長はあまりしていないように感じるのだ。渋沢といると、どうしても。
 それを嫌だ、なんて欠片も思いはしないけれど。
「平行線っていうのも、案外いいものかなと思って」
 にこりと笑う渋沢に三上は暫く黙し、先程の思考に少しだけ訂正を入れる。渋沢は昔から偶に、まったく意味がわからない。この改善要求だけは残念ながらなかなか考慮されない。
「いや、人間関係で平行線って言うとマイナスイメージが先行するだろう?」
 意味がわからないという三上の無言の要求に渋沢は漸く説明不足だと思ったようで、自身の思考の流れを詳らく。それに三上はとりあえず同意できるそれに頷いた。
「でも、平行線は交わることはないけど、離れることもないってことだから。ずっと寄り添っていける。それは素敵なことだなと思って」
 そう言われて、漸く三上も納得した。ひとつになることはないけれど、でも、その代わりずっと共にあれる。それは確かにすばらしいことだ。同じところにはいられなくても、ずっと同じ目標ゆめを見ていたいと思ったように。
「三上が選んでくれたのはそういうことだなって、改めて思って」
 ゆっくりと渋沢は笑う。喜びが滲むように。幸福を抱きしめるように。
「想いを重ねて、立場を添わせて。ありがとう、三上」
 渋沢がうれしそうに笑うから。三上は椅子から腰を浮かせて、くちびるを求めた。想いは重ねて、混じらせて、縒り合せて、ひとつにする。
「おせーよ。バーカ」
 相変わらず素直じゃない言葉を唇に落とした。





                       Fin
 久々すぎる101。もう別人な気がする。この二人は熟年夫婦でいいんです。ふたり暮らしという名の同棲。海外組なので、周囲は恋人、いや夫婦だよと思ってる。あれ、ドイツって同性婚OKだっけ?OKってことで。
 この三上は医者で、スポ医のとこに籍はあるけど、渋専属。チームメイトも診てあげるけど。
13/02/25   13/07/17





 4.私の2歩前を歩く君へ>3.いつでも隣に


 歯がゆかったんだよな、と。出会ったばかりの頃を思う。
 出会った頃、中学に上がったときから渋沢は渋沢で。既に全国クラスのキーパーだった。先輩を差し置いてレギュラーの座に就くのも、守護神の名を冠するのも、超高校級と騒がれるのも、あっという間だった。それが才能に重ねた努力の結晶だと知るのも早かったけれど。
 あそこにいたのは全員がサッカーバカだ。才能に胡坐をかく人間はあっという間に蹴り飛ばされる。どんなに足掻いても超えられないものも、確かにあるけれど。サッカーが好きな奴はサッカーが好きな奴のことが好きなのだ。その思いが本物なら蔑になんてしない。
 そうして作り上げられていく絆のなかで、渋沢はやっぱりどうしたって飛びぬけていた。一人だけ先を歩むようだった。それだけの実力があるのに待っていてくれるのが歯がゆかったのだ。あの幼さを抱えた日々では。
 渋沢なら、もっと前に行けるのに、自分たちを率い、築きながらでは渋沢の歩みを阻むようで。
 歯がゆかったのだと思える日々を、ばかだったなと思い返せる。それは渋沢が今共にいるからだ。今でも隣にいるからだ。いつだって隣にいるのを望まれていると思えるからだ。
「一人はないからがんばれるんだよ、三上」
 当たり前のことを言うようにそう言い、渋沢は笑うから。
 だから三上は2歩前を歩く渋沢の、いつでも隣にいられる。





                     Fin
 これは110かな。やっぱりどこと特別視しちゃう三上。というよりそれは森メイツ。サッカーの上で、渋沢がいるから、はきっと戦ううえでの彼らの合言葉。でも、頼り切ってるとかじゃなくて、渋沢がいるから自分たちは自分たちの仕事をして勝つ。そんな感じ。
 恋人関係としてはそこまで飛びぬけてないと思う。ただ、大事だ、というたぐいのことを疑わせないんだと。
13/02/25   13/07/20





 2.あと15センチの勇気


 どこまでが許されるだろうと考え出すと自分の行動すべてに自信を失くす。
 どこまでが許されるものなのか。どこまでが友人で、どこからが恋人で。どこまでが友情で、どこからが恋情か。
 たとえば隣に座るのは友人だろう。でも恋人だろう。
 たたえば並んで歩くのは友人だろう。でも恋人だろう。
 たとえば目を見るのは友人だろう。でも恋人だろう。
 たとえば、たとえば、たとえな。たくさんの例えを挙げて、比較しても、答えなどでない。友人と恋人と。どちらであれ行う行為であるし、許されるものはある。友人関係は人によって違い、許容する範囲も相手によって変わる。
 どこまで許されるだろう。何だったら不自然ではないか。そして、何より自分は自分ならだれにどこまで許しているのか。本当に知りたいのはそれだけだ。
 他はダメだけど、自分なら。他はいいけど、自分なら。
 いつだって考えている。
 たとえば、座るときの半人分の距離を詰めたら、どう思う。
 たとえば、歩くときに指先が触れたら、どう思う。
 たとえば、その目をじっと見つめらなら、どう思う。
 いつだって、躊躇う。
 半歩のこの距離を。

 たとえば、引き寄せらなら。
 たとえば、覗き込んだなら。

 いつだって、あと、15センチの勇気が。





                          Fin
 これはどっちもあり。ありなのでラストが両方なんです。最後のたとえばは。
 私のあと15センチは指先が触れる近さまで。
13/03/26   13/07/20





 1.背中合わせの二人


 ソファに背を預けて寛ぐ姿に唐突に面白くないものを感じて、軽く頭をはたく。勝手な行動に怒りも訝しみもせず読んでいた雑誌から顔をあげた渋沢は困ったように笑って隣を叩いた。一人で独占していたわけではないのだから隣に座ればいいという意思表示だ。
 けれど、違うのだ。そうではない。そうではなくて、三上は渋沢に背を向けるように隣に座る。不貞腐れたように無言のまま、顔も見たくないとの意思表示のように。
 勘違いされるようにそうして座り、自己嫌悪に陥る前に背に触れる熱が引き上げる。張りのある筋肉と骨が三上の背を押す。寄りかかる重みと温かさが、三上の背に触れる。
 きっと三上と同じように、けれどわざわざ座りなおした渋沢が、その背を合わせるようにすると、僅かに強張っていた体が安堵でゆるむ。その動きに渋沢は、ふふと息だけで笑う。
 背の揺れで、渋沢が笑ったことに気づいた三上も、少しばかりムッとするけれど、仕方がないかと思って、手を差し出す。気付いた渋沢がその手に自分のを重ね、重なった熱を三上が握る。
 確かに笑いたくなるだろう。
 ソファに背を預ける姿に嫉妬したなんて。そんなささやかでかわいい独占欲、愛しさのあまり笑みが零れるに決まっている。三上だって、もし渋沢がそうして妬いたら、かわいさのあまり笑って、寧ろ抱きしめている。ぎゅうぎゅうに抱きしめてキスしている。
 軽くのけぞるように背後を見れば、同じような渋沢とばちりと目が合う。どうしようもなく、幸せな気分で目を閉じれば、次はどこの熱が触れ合うのか、知っていた。





                         Fin
 すごいらぶい。さすが。さすが渋沢と三上。というか私はこのお題を曲解してる。たぶんもっと切ない意図の話のお題のはず。だって、タイトル。
 まぁ。この二人なら何だってらぶいということですね。
 一作も話題になってないんですが、渋沢キャプテン、お誕生日おめでとうございます。いつだって、あなたが大好きです。
13/05/16   13/07/20







リコリスの花束を