大事なのは、永遠に、一人だけ






歪んだ愛情・2






                         1.それが罪悪であろうと
                         2.逃げ道なんて残してやらない
                         3.狂わせたのは君の方
                         4.その純白を黒く染め上げても
                         5.あと、どれだけ愛せば…
                         6.手に入らないから欲しいだけ?
                         7.欠片も残さず奪いつくして
                         8.どうすれば手放せるのか
                         9.君の涙が見たいから
                         10.壊れるくらい大事にしてあげる











1.それが罪悪であろうと





「知盛」
 噛み締めるように名を呼ぶ。
 そんな夜、将臣は常よりも抑鬱気味に寡黙で、饒舌に笑う。


 最初の頃、酒にか雰囲気にか、いずれにせよ、酔っているのかと思っていた。だが、幾夜過ごそうとも将臣のその様が変わることもなく、思い詰めるような陰影を差す。
 いい加減、酒精が回ったであろうときに酒と共に水を向ければ、将臣は僅かに唇を噛む仕草をし、低く呻くように、それでいて縋るように呟く。
「生き急ぐなよ」
 涙などない泣き方に声が震えるような音は、きっと他の誰の耳にも届かない。
 幾度もの夜を、そうして知盛は無意識の将臣と重ねた。だが、違うものを向いている以上、それをどう使う気もなかった。

 気まぐれに夏の日、思い出したように問う。「欲しいものはないか」と。去年、生誕は祝うものだと将臣に祝われたのを、ただ偶然思い出しただけだ。ただの気まぐれによる何でもないものだ。
 だが、それに将臣は一瞬目を見開き、隠すように髪をかきあげ、笑う。
「なんだ?お前がそんなことを言うなんて。明日は季節外れの雪かよ?」
 明るい笑貌を見せながら、眼が泣く寸前の色で、それを隠して逸らされる。「それなら、重衡や経正も誘って呑もうぜ。昼だが偶にゃいいだろ」
 背を向ける寸前まで追えば、囁きさえも伴わぬ声が欲する。
「死ぬなよ」
 ギリギリの願いを、そうと知れないまま、こぼされる。その欠片。


 最後となる運命の夜。静かに呑む知盛と将臣の他に誰もいない。皆、それぞれが惜しんでいるのであり、平家中枢の間に入れる雰囲気はなかった。
 黙々と酒を呑む将臣を知盛は横目で窺う。
 すべてが真実ならば、と己らしくない情動に知盛は笑う。少なからずとも、知盛もまた、最後の夜に思うことがないわけではない。
「知盛」
 幾度となく呼ばれた名が将臣に呼ばれる。還内府の眼が云う。
 個人でいることはこれから先、彼らの安寧が確定するまで将臣は許すことができない。彼らの未来を先の見えないものへと連れて行くのは己だ。導くと言えば聞こえが良いが、その先にあるのが幸せだと誰が言える。だから、将臣はこれから先彼らの笑顔が本当に本物だと思えるまで将臣個人としてあることはできない。
「明日は頼む。お前だけが最後の綱だ」
 挑む眼差しに知盛は喉で笑うだけで応えた。
 ゆるく眼を伏せた将臣がふるえる唇で紡ぐ。相変わらず声にならないその言葉が何を言うのか、十分に知っていた。


「見るべきものは見た」
 満足だった。己は満たされるだけ戦い、一門はあの男が連れて行っただろう。無事に暮らせるだろう地へと。争うことを必要としない地へと。
 とうとう、知盛に何も言わぬまま、云ったところで変わらぬと、望みひとつ口にせぬまま。
 薄く笑みを浮かべ、血の味を感じながら、体を船の外へと、海へと倒す。空のあおと海のあおの混ざりあう色を見ながら、触れることのなかったあおを思った。


「…もり!と…り!とももり!知盛!!」
 呼び起こされる。
 わらう。うっそりと わらう。空虚にさえ見えるほどの、満たされたものに、笑う。
 覆いかぶさる、男が泣き、呼ぶのを、あたたかな雫が心の臓の上に沁み込んでくるのを。
 一度、大きくせき込むように息を吐きだし将臣の髪に手を差し入れ、顔を向けさせた。
「叶ったか」
 大きく瞠る眼が、いとしい。強張り、驚きにかたまる体を腕の力だけで引き寄せ、泣き濡れた眼を舐める。
 嗚呼。このあおだ。確かに死したときに知盛が思ったのは、このあおであった。
「とももり」
 かみしめるように、呼ぶ。
 言葉にできない将臣の知盛への執着を知っていた。知っても棄ておいた。知盛に生への執着がなかった。だが、それだけがすべてではないのだ。
 知盛の性を知って、何を言葉にしなかった将臣の願いをこそ、叶えてやったのだと知盛自身の執心を隠し、問う。
 生きることに興味のなかった男をそれがひき止めたのだと、いうように。
 己はなく、将臣の側に他人が生きるのは今更ながらに業腹に思っていた自分を知盛が知ったのは、二色のあおを見た瞬間だった。それまで、そんなことを考える必要はなかったのだ。将臣は、知盛の側にあったのだから。
 だが、それが為し得なくなるとなって。
 よく還ってきたと思う。この男の許へ。
「いてやるさ」
 将臣のそれがたとえ友情によるものであっても、もう逃がすことはない。この男が生かしたのだから。
 彼の混乱のなかに、そのくちびるを喰らった。





それが罪悪であろうと



                     Fin
 そんなわけで、知盛はすべてを【知盛に生きていて欲しいと望んだ将臣の為】にして、戻った。でも、助かったのは本当に偶然。
 平家には知盛を助けるために割ける人手はなかったから。絶望的にその死を受け入れるしかないと覚悟していた将臣は本当に驚いて、本当に喜んだ。それが恋でもなくてもいい。と、知盛は将臣を愛している自覚と共に付け込んだんですね。
 だって、愛でもじゃなくても、結局生きていて欲しくて、離れられないのなら一緒だもの。



2010/02/27
2010/03/11






2.逃げ道なんて残してやらない





 お前のことがとても、とても 大切だから


 <愛>の定義は人それぞれで表現の方法は更にその上をいく。
 それを思い、ヒノエは人知れず笑う。
 たとえば、あのまま何事もなく、元のあの平和な世界に生きていれば、いくらヒノエとてここまで思いはしなかった。それほどにあの世界は平和で、逆説的にこの世界は危険に満ちていた。
 友人であれ、共に生きて歩む道があればいいとは今やもう思うことはない。この世界はそれほどまでに死が身近なのだ。
 共に生きるだけで満足すれば、必ずや未練が残る。今となって将臣はあまりにも多く、大きなものを背負い、友人であるヒノエが独占できるものは限られた。それだけでは満たされない。渇望する。
 ならば、そう。それだけだけで満たされようと誤魔化すことなく、望むままに求めればいいのだ。たとえそれが将臣の望みとは違っていても。
 ヒノエは元来我慾の強い人間だ。己の欲を抑えてまで将臣を優先しようと思ったのは、それほどまでに将臣が大切で、いとしいからだ。抑えていられたのは前提とした世界があの平和で生ぬるいものだったからだ。
 欲しいものは欲しい。
 将臣は驚き、愕然とした顔でヒノエを見るかもしれない。だが、将臣の眼にヒノエが映らなくなる可能性が0ではないのだ。この世界は。
 将臣がそれを、裏切りと思い、傷つくなら、これからの長い長い時間を愛情を以って、その傷を癒そう。
 将臣がそれを、信じられないと耳を塞ぐなら、受け入れられるまでその耳元で、変わらぬ愛を、育ち続ける想いを囁こう。
 将臣がそれを認めまいと閉じ籠もるなら、ありのままとするまで抱きしめよう。この体温を教えよう。
 ヒノエは思う。
 真に幸いなるは誰だろうと。
 救いを手に入れた平家か、どこまでも何よりも誰よりも必要とされる将臣か、こんなにも愛する者を見つけた己かと。
 ヒノエは思う。
 真に禍に魅入られたのは誰かと。
 滅び逝く定めの平家か、情に縛られ命運を決めた将臣か、こんなにも執着せずにおれない己かと。
 だが、ヒノエは決めたのだ。
 拒絶に泣き叫び、傷つけ傷つけられようが、自由を削り奪い、選択肢を減らし雁字搦めに縛りつけ。それでも将臣を失いはするまいと。
 失態は一度。絶望は再会まで。空虚な虚無も、掻き毟りたくなる切望も、、焼き貫かれる痛みも。ありとあらゆる負のすべて。
 決して二度と繰り返すことなどない。
 薄く閉ざした眼を開け、深く静かに息を吸う。
 くちびるに笑みを刷き、あまくとろける声を吐く。
「将臣」





逃げ道なんて残してやらない



                       Fin
 2つ目は現在ヒノ将。
 ヒノエがダーク。将臣と離れていた間、表面上に変化を見せることなくとも、実は深く傷つき絶望していたらしい。
 このお題に攻めの将臣への想いの丈というか、慾というか、追い込み方を綴るんだろうか。知盛も結構恐い感じに将臣を追い込んでたしな。
 用意周到なヒノエ。本人はいろいろマイナスの状況を予見にいれてるけど、実際のところ奴はそんな事態をつくりません。時間をかけて当たり前のように恋人になってる奴です。



2010/03/03
2010/03/25





3.狂わせたのは君の方





 そう、それは、ゆるやかな侵蝕にも 似て、


 おだやかに笑むその人を、狂気に染まっている、と思う者はいまい。だが、同様の狂気を内包する青年は、その男の心裡を狂気が染め上げているのを知っていた。
 一見すると快濶に笑う将臣とおだやかに彼の話を聞く経正のいつもの光景でしかない。けれど、重衡の眼からしてみれば、その最中にあっても明らかなほど経正の狂気が、おだやかなやさしさを蝕んでいるのが見てとれた。
 将臣が笑いかける度、頼むように話を向ける度、立場の違いとはいえ違う者に眼が向けられる度。昏い穢れがしたたり落ち、波ひとつなかった湖面にさざなみ立たせ、奥底から染めていく。
 それは狂暴な嫉妬であり、独善的な支配欲であり、甘くしびれるような恋慕であり、狂信的な献身でもある。
 誰よりも役立ってみせる故、どうかその心身を許してほしい。誰よりも側にいる故、それの心を向けてほしい。と。
 誰よりも。誰よりも。誰よりも。
 けれども、その願いが叶わぬものであることを経正は勿論のこと、この将臣と経正を見る重衡も、同様に知っている。
 否、あるいは重衡の方が余程知っている。願うその望みが既に他の者に与えられたものであることを知っている。誰よりも近く、その心を預けられた存在があると知っている。知らぬはずもない。
 その男は、特別なのだ。
 日頃の男がどれほど人間に対し無関心であるのかを重衡は知っている。姿かたち程度のことで彼の男が関心を向け続け、腕の中に、やさしくはなくとも囲う、そのことがどれほどのことであるか重衡は知っている。
 そして、日常的な相談から様々な話を将臣から与えられるだろう経正は知っている。一見磊落で、何事にも前向きな強い意志をみせる将臣の、彼の男が泣き所であることを知っている。彼の男を特別視せずにはおれない、失いたくないと叫ぶ将臣の心を経正は知っている。
 知って尚、叶わぬ慕情を抱えて尚、経正は将臣が安らかであるよう微笑むことしかできない。己のすべてで以って、叶わずとも執着するより他にない。
 その狂気に蝕まれても、どれほど知らぬうちに染め変えられようとも。既に経正には将臣から離れるという選択はない。否、はじめからないのだ。
 経正はおだやかにやさしく将臣に笑いかけ、話を聞きながら視界の端に映る重衡の変わらぬ微笑を確認した。
 同じ想いを孕んだ男がそこにいる。
 ならば、否、たとえ、そんなものがなかろうと狂気にもなったこの慕情がなくなるはずもない。己と同じものを望む他者に今の己の位置を譲ることなど許せようはずもない。
 経正は笑う。おだやかに。恐らく、重衡も同様に笑うことだろう。
 将臣のことを想う。それだけで蝕まれるものがあっても、狂うようにそれだけしか思えずとも構わない。
 この狂気の名は、恋情という。
 恋情に故、狂った男たちと、将臣もまた、狂えばよいのだ。経正自身も重衡も、そして彼の男とて、狂っている。
 それは、当然なのだ。





狂わせたのは君の方



                        Fin
 3個目にして話の向きが変わる。片思いの所為か将臣を追い込めていない。寧ろ、自分が追い詰められている。でも追い詰められた人間は怖いです。
 この話の主体は二人で、経正と重衡。でもメインは経正。もともとは経正と将臣のはずだったのに何故か重衡が出張って、その分将臣が出てこなかった。そして会話がない。まあ、前二つもないですが。
 結局のところ将臣のことがどれだけ好きかって話。
 そして云わずと知れたものですが、知将←経正・重衡です。
 叶わない恋の話。叶えたい恋の話。あの男に負けても、他の誰かには譲れない。自分がNo.2なので譲れない。
 精神的には経正は将臣に近いけど、その分だけ近づけない。安心されているから裏切れない。




10/03/30
10/04/14




4.その純白を黒く染め上げても





 思えば当然のことであったのだと、唇をつりあげた。


 笑声が風にのって惟盛の耳を穢す。快活なその笑みは誰に捧げられたものであろうと考え、それが祖父・清盛か安徳帝のものであればよいと思う。
 そうであれば、惟盛はまだ、惟盛のままでいられる。
 最初に出逢った時は、こうではなかった。懐かしくもないのに懐かしむように思い出し、不快に扇を握る。木の軋む音も不快だ。
 右も左もわからぬ、将臣の言を借りるならば彼の知る過去によく似たという、彼らの世界で初めて会った時の将臣を、清盛の言葉から若き父の造作とはこのようであったのかと、それだけであった。
 祖父の客人の年少の者に、ましてや常識が違うと唖然とする将臣と、当初惟盛の仲は決して悪くはなかった。
 父と容貌が似ているらしい、ということさえ除外すれば弟のようにさえ思っていた。
 将臣は常識を知らぬ者であれ、決して愚かな性質ではなかったし、人を不快にさせるのとは真逆のような人間であった。
 ああ、なれば、と。
 惟盛は視界を閉ざした。それでも将臣がいるであろう方向は眩しい。眼を刺すようではない。だが、瞼の裏さえも明るく染めるのだ。あの、陽の男は。
 そして、なればこそ。 将臣を見て不快を煽られる今の己の歪を惟盛は思わずにはおれない。
 祖父清盛が死より還り、将臣の近くに居づらくなった。忘れられ、父の名で呼ばれる将臣が不憫であり、己に対し申し訳なく眼を逸らす将臣が憐れであった。
 そして、己が還りたれば安堵したように、喜ばしそうに見る将臣を見れはしなかった。心地よく陽の気が強いあの男は確かに一度死の褥に抱かれた者にとって、常用性の強い麻薬のようであった。側にあることは心地よく、何よりの安寧を約束した。
 側にいたいと思った。己の側にいればいいと思った。者者が仰ぐように将臣を見るその訳を、惟盛も確かに知った。
 だが将臣は決して惟盛のものにならない男だった。その誰よりも近い隣は既にうまっていた。それは初めから用意されたようにあって、傾く平家と共に確定したことでもあった。
 だが、それよりも惟盛は愕然とした。死して得た将臣へと向かう情を惟盛は既に知っていた。生前よりおぼえていた。
 それに気づいて惟盛は嫌悪したのだ。憎悪もした。厭わしくて仕方がなかった。
 弟のようにさえ思っていたはずの将臣を情慾混じりの占有欲で見ていた己が、死者である己が生きている不条理さよりもおぞましかった。
 己のおぞましい慾が将臣を穢すことを厭うて己から離れたのに、惟盛に許されたのは将臣への思慕と話もできない状況の怨みだけだった。それが将臣への攻撃として姿を現し、より彼を離す。それが望みであったはずなのに、はじめに戸惑ったような哀しい表情をした将臣が脳裏から離れない。
 悪循環だ。
 将臣を愛している。
 惟盛は将臣が将臣であるが故に愛している。最早、何がどうであったのかもわからない。どうであるのが最良かもわからない。
 欲した愛は余人のものであり、今更それを乞えるほどふたりの距離は近くはない。この距離の戻し方を惟盛は知らない。
 将臣が愛しく、その周囲は厭わしい。今更だ。今更、何を伝えたところで惟盛のこの色を変えた情を余すことなく伝えるのは不可能であったし、伝えられたところで叶うものは何もない。
 惟盛の望みは他人が手にしている。
 ああ、なれば。と。惟盛は心を決めた。将臣にやさしい者は数多いる。今更それらと同じくなりたいとは思わない。ならば、将臣を傷つける唯一となればよい。あの男の抜けぬ棘となって占有すればよいのだ。





その純白を黒く染め上げても



                       Fin
 将臣の、その純白を黒く染め上げても、惟盛は己を残すと決めた話。
 この人たち、出会い当初は本当にどうだったんだろう。でも、絶対悪かったってことはないと思う。惟盛もいい大人だったはずだし、気性のやさしい男だったらしいし。
 まあ、こんな愛され方ということで(歪んでるんだしね!)
 知将です。




2010/05/03
2010/05/17









5.あと、どれだけ愛せば…





 ここ頻繁に重衡の意識に影を刺すように浮かぶ思いがある。
 兄・知盛と己に如何程の違いがあるのかと。
 生まれ一年程の差であろうか。一見して見せている性格の違いであろうか。
 姿形がどれほど似通うとも、否似ていればこそ、彼の男が重衡ではなく知盛を選んだ、その理由が重衡には理解できない。
 知盛と重衡では重衡のほうがよくうちとけていたはずなのだ。こまめに接触を図った重衡と親しんでいたはずであった。
 なのに、それは唐突に理解させられた。将臣は知盛のものであると。
 だからこそ、思わずにはおれないのだ。重衡と知盛と何がそんなに違うのかと。将臣に己ではなく知盛を選ばせたのは何、であるのかを。
 嗚呼、と。重衡は慨嘆する。欲し、側におこうとした男が他の男の腕にあったこの絶望を何というのか、重衡にはわからない。これがどこぞの姫であったなら、何も思うことすらなく切り捨てられたのに。
 けれど、いちばん悪いのは将臣なのだ。将臣は既に知盛のものでありながら、何も変わらず重衡に笑いかけるのだ。
 その笑顔を向けられたときのその衝動をどうすれば理解させることができるだろう。
 将臣が知盛のものだというそれが戯れごとであったのではと錯覚する。己を愛しているのではと混濁する。そんなはずがないと、愚かしい思い違いだと、その一瞬後に知らしめられるのに。
 それでも、将臣が笑いかけてくる度に重衡は考える。
 いっそ、奪ってしまえばよいのではないかと。
 情を注ぎ、愛するのなら、知盛から奪えばと。
 愛して、愛して、愛して、
 手に、入れられるのだろうか。





あと、どれだけ愛せば…



                      Fin
 重→将。当然のように知盛がいる。
 重衡はもっと黒くてどうしようもないことを本当は考えています(断定)。これは若干白い。グレーかな。一応今は引いている。けど、我慢が切れると襲います。兄弟でガチ。真剣勝負(冗談抜き)
 マジで本物で将臣が慌てて止めに入ろうと思って(もちろん原因が自分だとは露とも思っていない。でも知盛とは恋人)惟盛とか経正とかに止められます。相撃ちになればいいのにと思っています。




10/06/02
10/07/05




6.手に入らないから欲しいだけ?





 陽炎のように摑みどころのないきみを。


 将臣を将臣自身として弁慶が受け入れたのはそう前のことではない。いくら望美たちの既知だと謂えども、それは弁慶の敵ではないことと等しくはない。
 ただ、それでも快活に笑い、雰囲気を和ませ、周囲に軋轢を生まぬあの男を疎んじていたわけでもなかった。
 一言で云うならば、将臣には信がおけなかった。二人よりも、3年近く前にこの世界に来、ひとりでどれほど心細く、辛かったか。何一つ伺わせることのない将臣を哀れと思う。いくら弁慶とてそれくらいは思う。
 だが、哀れと思うのと信をおくのは違う。同時に信をおけないのと将臣を受け入れられないのも違う。
 未だに調べのつかない、将臣が身を寄せた家がわからなければ、信はおけない。
 けれど、将臣一個人を心にいれるのは驚くほど容易なことだった。いや、本当は随分と前からいれていたのに、それを弁慶が認めてはいなかっただけなのだろう。
 将臣がいれば、世界はおだやかだ。たとえ、どれほど現実が逼迫し、焦燥に駆られていようとも、将臣がいる。ただそれだけで心は凪ぎ、安らぐ。
 共にいてくれて、これほどありがたい人間はいない。共に歩めるのならば、これに優る幸いはない。
 けれど、将臣は帰るのだという。弟と妹のような幼馴染みをおいて、誰も知らぬ3年を過ごした者たちの許へ。
 この京を護る白龍の御子を片割れの青龍も仲間もおいて、家族と呼んだ者たちの許へ。
 誰の想いも受け入れられない。どれほど仲間が弟が妹のような者が共にいてくれるよう頼んだところで将臣は困ったように笑うだけだ。
 約束があると。
 弁慶はそんな皆のやり取りを独り外れたところから見つめている。将臣の困ったように笑う顔や苦しげに寄せられる眉や、力強さを秘めた眼差しを。
 共にいる時を知れば、将臣を手放したくなくなる。僅かな日数を共にした弁慶たちですらそうなのだ。3年の家族はそれ以上だろう。
 弁慶は将臣を見つめる。決して共にはいてくれない、やさしく、惨い男を。やすらぎを教えて去っていく男を。
 離れる日を思えば心が涸渇する。どうしようもなく欲しいと。手に入らない男を。
 ふ、と。弁慶は笑む。
 将臣が離れようとしても、それを受け入れ赦してやる義理は弁慶にはないのだ。
 わかっている。わかっている。
 あの男が自分のものにならないことは。
 だが、それでもこの慾にはかないそうもないのだ。





手に入らないから欲しいだけ?



                       Fin
 弁慶の搦め手はきっとえげつない。でも、将臣を手にいれることはできない。だって、将臣はそういう男だから。




10/06/07
10/07/05




7.欠片も残さず奪いつくして





 不思議な男だった。
 確かな存在感をもってそこにい、気がつけば場の中心をつくってしまうくせに、ふと眼を離すとどこかへ行ってしまいそうだった。
 ヒノエが最初に将臣へ意識を向けたのはその正反対ともいうべきちぐはぐさだった。
 快活に笑っていたかと思えば遠い眼をして、望美たちを揶揄っていたかと思えば、意外な沈毅を身に纏う。
 見れば見るほどに人を引き込む男だ。
 知れば知るほどに魅せる男だ。
 意識せずとも眼が追って、己はこの男が欲しいのだとヒノエは笑う。おおよそ、この集まりで最も異質な立場に身をおく将臣だと知ってもの慾だ。
 懐かしい者を見る眼で弟と幼馴染みを見る将臣をヒノエは人知れず笑う。そんな眼をすれば聡い者なら誰もが気づく。将臣がこの地に残るのだろうということを。それは彼を欲しがる者たちの僥倖であり、将臣の不幸だ。
 ヒノエは西へと眼を向ける将臣へ足音を殺して近づく。
「こんな処にひとりで。何を見てるんだ?」
 将臣が何の為にこの熊野へ来たのか、ヒノエはよく知っている。蝶を纏い西に心をおく男を熊野にと云わせる方法をヒノエは知っている。
 そして、この場にいるなかで将臣を手にいれられるのはヒノエだけなのだ。
 未だ中立を謳う熊野。熊野が味方に付くというのがさすのは熊野水軍だけではない。熊野の去就で立場を決める領主たちへの圧力こそが熊野の強みだ。熊野が売る恩だ。
「ん?ああ」
 将臣はヒノエに僅かに視線を向けて、曖昧に濁す。言葉では濁すくせに眼差しは雄弁に語る。
 家族を。そしてこの場合、家族とは血のつながる譲のことではない。何のつながりさえなかった3年来の。けれど、或るいはだからこそ、絆深い家族だ。
 紅と蝶を好む一族。凋落の一途を辿るはずであった、逆に源氏を追い込んだ平氏。
 将臣の新しい家族。守りたいと望む一族。より、と望んだ一族。それこそがヒノエが入りこむ隙だ。
 守るものがある者は強い。だが、それは弱さと紙一重の強さだ。交渉の上でそれは不利を招くものであり、決して益とはならない。なれど、それがあればこそ、踏みとどまり知略を生むのだ。
「なあ、将臣」
 けれどヒノエはそこまで将臣を追い込む気はない。少なくとも情勢を望むように安定化させ、彼のそして彼らの気が緩むまで、ままごとのように付き合うので良い。
 罠は知られぬように張り巡らせる。策謀は知られぬうちに完成させる。
 振り返った男にヒノエは笑う。多くの者共がこの男に惑わされ、踊る。当人の意識しないところで、周囲のみが権謀術数の粋を尽くすのだ。
 奪う為に。失わない為に。
 だが、とヒノエは笑う。今は胸の内だけで軽やかに楽しげに笑う。笑う。
「明日は俺に付き合わないか」
 要は将臣に是と云わせればいいだけだ。
 ヒノエは無垢な幼子のように、妖艶なる遊女のように。そしてただただ楽しげに笑った。
 過去、現在、未来。すべてすべて悉く。
 将臣のものならば、そのすべてが欲しいのだ。





欠片も残さず奪いつくして



                         Fin
 通常ヒノ将。望美再会し、熊野別当を訪ねるまでの一幕。ヒノエは将臣の正体をつかめた模様。
 そして、ヒノエって基本的にこういう男だと思う。欲しいものは全部欲しい。それこそ欠片もこぼさない。
 見初められると大変なのは平家だけじゃないよって話。弁慶も含め、熊野も大変。執着の強さは熊野も負けていない。




10/06/22
10/07/12




8.どうすれば手放せるのか





 いつも常にどんな時も自分の先をいく男だった。
 どんな時も力強く、導くように笑う男だった。
 誰もが信じ、頼りとする男だった。
 腹立たしくて、疎ましくて、仕方がなかった。
 けれど、
 彼はいつでも自分の先に或るいは隣にいるものだと、そう思っていた。
 本質的に、ずっと一緒に生きていくのだと思っていた。


 気がついたときの恐怖をきっと知りはしないのだろうと思えば、譲はようやく再会の叶った将臣を睨まずにはおれない。
 見慣れた能天気にも見える磊落な笑い顔はけれど、そんな譲の憤りを呆れに変えさせる。
 自分たちよりも3年も前にこの世界に落ちてきたというわりには、将臣は外見の変貌以外驚くほど変わらないのだ。
 まるで自分たちよりもいくつも年上のように見守って、揶揄う。事実、今は将臣と譲の年の差は開き、前のように笑っても見知らぬ男のように笑う。
 そして、一瞬ひやりとする譲を知らぬげにまたくだらないことを言うのだ。
 何ひとつ変わらない、将臣は譲の兄だ。
 譲の、ただひとりの兄だ。
 譲を護るたったひとりの家族だ。
 将臣がいればひどく腹立たしくあるのに、譲は将臣がいないとひどく落ち着かない。将臣がいて、彼に反発して、望美に手を伸ばして、そして譲は安定する。
「兄さん」
 譲にとって、将臣がいるというのは当然のことだ。前提でも何でもない。将臣が“居る”という不変の真理だ。
 なのに。
「どういうことだ、兄さん」
 血の気が引く、とはこういうことだったのだと恐慌に陥った譲のどこか切り離された部分がいう。遊離した、譲のナニかが。
「何とか言えよッ。兄さんッ!」
 そして、憤怒するとは、こういうことなのだと、滾る意識が冷静に見つめる。
 制御できない荒れ狂う激情のまま、眉間を寄せ、痛みに耐える見知らぬ男を睨む。兄、の胸倉を摑む。
「なんで黙るんだ!!嘘だって言えよッ。一緒だと言えよッ!!」
「譲、」
 低い沈鬱な声の男が名を呼ぶのを頭を振って否定する。言い難く息を呑む話なら、しなければいいのだ。そんなふうに悩んで再び言われる言葉など、将臣の口から聞きたくはない。
 将臣の口から、“望美が邪魔だ”なんていう言葉以上に、聞きたくないそれを、二度も言ってほしくはない。それならば、望美を殺したと言われるほうがどれほど救いであるか。
「ゆず…」
「兄さんだろッ?俺の!俺の兄さんだろう!!」
 何故、別れなどというのか。
 何故、これが最期だというのか。
 他の誰がいなくともいるのが将臣のはずだ。それは譲の兄であるはずだ。
 破るほどに強く摑んだ胸倉を引き寄せる。苦しそうな顔の将臣が少しばかり歪み、譲は奥歯を嚙み締めた。
 驚きに瞠った将臣の手が伸ばされ、譲は隠すように首筋に顔をうめた。僅かに戸惑うように将臣の手が譲の後頭部から首へ流れる。
「譲」
 赦さない。
 赦せない。
 赦すものか。
還内府だって兄さんは兄さんだろう」
 絞り出すような声が苦しい。
 決して、赦さない。
 与えてなど、やるものか。





どうすれば手放せるのか



                         Fin
 お題から逸れる。どうすればも何も手放す気がないよ。
 譲→将。かなり強固。最初は譲が将臣がいなくなることへの葛藤だったのに、どうしてこうなったのか。
 想像以上にブラコンでした。というより愛です。
 この譲は将臣の属する家を知っていた模様。推理しちゃったんだな。それで、望美が源氏側なのをなんか言われたら、どう返すかとか思っていたのに決別を告げられていろんなものが切れた。




2010/07/19
2010/08/30




9.君の涙が見たいから





 俺の手じゃ触れられない、君は綺麗な人だから。
 だから君から触れてくれないか。


 その日を景時は昨日のように思い出すことができる。この熊野での再会ではなく、本当に最初に彼を見つけた、その日を。
 景時にとって、それはそれほどに衝撃的なものだったのだ。鎌倉のおぞましい禍神を忘れさせるほど、景時にとって将臣は太陽だった。
 名を知らずとも、太陽だった。
 二度と会うことがなくとも、彼は景時の永遠の太陽だった。
 だからこそ、熊野での再会は喜びだった。
 将臣が何者であれ、互いに身を隠したものであれ、身を明らかにすれば敵対する定めであれ、将臣と共に歩み過ごすのは景時にとってかけがえのないものだった。必ず分かたれるからこそ、一日でも長く、続いてほしいものだった。
「ねぇ、将臣君」
 にこにこと絶えず笑みを浮かべる景時につられるように将臣もおおらかに笑い返しながら、どうしたと首を傾げる。
 首を傾げた角度が浮き立たせた首の筋は思い違いをしようもなく男性的であるのに、触れたい、と強く景時は思う。
 掌を首に這わせ、隆起した喉仏を撫で、しなやかな筋を辿る。
 浮き出た筋に歯を当て、舌で味わえばどんな心地かと一瞬にして夢想する。
 そんな思考を億尾にも見せず、うんと笑いながら、望美と朔のお供に誘う。
 将臣がこの・・一行に加わった最大の要因にして、景時が将臣に声をかける最も自然な名を。案の定、将臣は、仕方がないやつだと笑いながら了承する。
 断るはずがないのだ。将臣が断るはずがない。何故ならば、景時は知っている。将臣が、たとえ、家の許可を得ようとも、彼に家を離れる意思がないことを。故にこの行程において、望美の我儘を出来得る限り受け入れる心積もりがあると。
 それは将臣の残酷なやさしさだと景時は思う。一度得たものを手放すのは難しい。特にそれを失うことなど考えたことすらない者にとってそれがどれほどの衝撃を生むか、わからないはずもないのに、将臣はそのやさしさを与える。
 それは罪滅ぼしに似て、更なる罪を生むものであるのに。彼の罪に幾人もが罪を重ねて囚われているの、に。
「将臣君」
 眉尻を下げて景時は笑いかける。一歩先に歩き出した将臣が呼ばれた名に振り返る。彼はいつだって、酷く無防備だ。
 そんな簡単に背を見せてはいけないと思う。そんな簡単に名を呼ばせてはいけない。
 だって、と景時は思う。その背を容易く景時は殺めることができる。真名は人を縛ることができる。
 将臣を引き留めて、閉じ込めて、愛でたいと景時の笑みに隠した獣が猛るのだ。
 あの無防備な背に爪を立て、喉笛に噛みついて、 。あの眼に映るのを己一人にしてしまいたいと。
 将臣は景時の太陽のような奇跡の体現者だ。楽園の入り口であり、地獄の裁定者だ。将臣が大丈夫だと笑ってくれるならすべてをそのようにしてみせるし、哀しみに憂うならどんなものでも排除せしめる。将臣がいないなら、きっと世界は音を立てて崩れるに違いない。
 将臣は笑う。朗らかに、おおらかに、磊落に。時に呆れ、怒り。将臣の遠い眼が憂う。彼は僅か数日間で、実に多彩な感情を晒す。その度にどうしようもないほど、将臣に囚われる。
 近くにある奇跡は奇跡でありながら奇跡ではなくなる。奇跡は欲になる。人の手に触れられて、奇跡は慾に変わる。
 将臣は何も知らぬげに景時を振り返る。景時の抱えた慾も願いも、知らぬげに振り返り、手を伸ばす。どうかしたのか、と。
 景時は微かに俯き、唇を引き結び、口角が上げる。泣きそうなのを隠したいのか、嗤いを隠そうとしたのか、それすら既に景時には定かではない。
 景時は大きく一歩を踏み出して、指を絡めるように手を握り、握り潰すように引き寄せた。驚いた将臣の眼が僅かな角度で見上げるのに、「ねぇ」と掠れた声で乞う。
 俺のものになって、
「将臣君。還内府の君もぜんぶぜんぶ君だから。俺のものになって、将臣君。君の望みをぜんぶぜんぶ叶えてみせるから。俺のものになって。俺を愛して。
 まさおみくん、おれは、きみ が すき なんだ」

 きみをあいしてる。
 だから、どうか、どうか。
 おれのものになって。

 影から落ちた水が将臣の目尻から滑り下りる。
 「かげとき」と将臣のくちびるが動いて、彼の呼ぶ己の名を閉じ込めるように、重ねた。
 きみの笑顔も怒りも、未だ見たことのない泪もすべて、すべて。
 俺にちょうだいと涙に濡れた眼で乞う。
 将臣に気づかれないように背の銃に手を回し、驚く少女に銃口を合わせた。





君の涙が見たいから



                      Fin
 景将。景時が若干支離滅裂になった。恋に狂った、ということで。
 そして、涙が見たいのに、先に泣いちゃう。ヘタレてるくせに強引で、その実策略家。とかだとかわいい。
 ちなみにラストの少女は当然のこと望美です。源氏の御子を殺して、義経を殺して、源氏を裏切って将臣の為だけにその首を平家に預ける。




2010/08/23
2010/12/15




10.壊れるくらい大事にしてあげる。





 あれは何と云うのであろうか、と。


 深い眠りの淵より目覚めた当初、覗き込む顔にその名を呼んだのはわざとではない。記憶が混ざりあい、出た名が亡き嫡男であっただけだ。
 だが、呼ばれた名に眼を瞠り、困惑し、悲痛に揺れ、苦瞑に寄せられた眉目を目に留めたとき、そのまま知らぬふりをさせたのは将臣の咎だと清盛は笑う。
 淵より還り、記憶の混濁にあんなにも心を乱した将臣が悪いのだ。清盛がおらねば世界が終わるような顔をする将臣が悪い。
 あんな顔を見せられれば、あんなにも心を揺らがすのだと知れば、更にと望むが人の性だ。どうしようもない男の性だ。
 幼児のような姿で清盛は笑う。確かに出会い当初より重盛と似ていると思いはしたが、将臣は将臣でしかなく。それがわからないはずもない。
 清盛は平家総領家の主たる男だ。人間の真を見抜けぬ暗愚であるはずもない。情けに折れ、苦汁を呑まされもしたが、清盛の本質は苛烈にして鋭敏なる武家の宗主である。
 嗚呼、そういう意味では。と清盛は深く笑む。己が膝に頭を預け、身を委ね、深く深く眠る将臣の頭をやさしく慈しむように撫でながら笑む。
 そのような意味では、知盛は清盛に最も似ている。もともと昵懇と云えたであろう知盛と将臣の仲が、急激に深まったのはある意味において当然のことであったのだと清盛は知っている。
 さらり、さらりと癖があるものの、意外なほどに指通りのいい将臣の髪に細く小さい幼児の指を遊ばせ、清盛は囁いた。
「のう、将臣」
 声に滲むのはいとしむ色だ。父が子を慈しむものではない。もっと深く暗く澱むような凝るような熱を宿したものだ。
「そなたは、何とするであろうな…?」
 クックッと笑いながら、囁きを落としこむ。深く折った体躯が、耳朶にくちびるを触れさせる。影になり清盛の表情は誰の眼にも伺えない。
 だが、知盛がいれば意地の悪い方だ、とくらいは言うだろう。厄介な男に捕まったものだと将臣を憐れみもするだろう。己が追いこむ檻となっていることも、寧ろ進んでそれになったことを棚に上げ、深い愉悦と共に笑うだろう。
「のう、将臣」
 昨夜、酷使されたであろう将臣へ、清盛はやさしく声をかける。常のように名を違えず、真名を呼ばう。本来ならば、常にこうして呼んでやりたかったものだが、痛みを堪えるように日頃を意識して笑う将臣を見るのも愉しく、今の清盛に変えてやる気はない。何しろ、そうでない将臣を見るのに困ることはないのだ。今は存分に己だけの将臣を愛でればよい。
 深く紅い色を滲ませた耳朶近い首筋を指でなぞり舐めあげる。
「そなたは平家の、否、我が宝ぞ。
 いつまでも焉わりなく共にあれ」
 ああ、それに、と。
 なめらかな幼児の肌を頬に重ね、伸ばした右手を心の臓の真上で止める。
「滅びるならば、我が由であれ」
 それまで守ってやろう。護ってやろう。何者にも脅かされることのなきように、この懐深く、抱いて守り、護り、まもってやろう。
 そう、それこそ
 壊れるほどに。





壊れるくらい大事にしてあげる



                               Fin
 やっぱり最後は清将でしょう。ある意味においての将臣の原点はこの人だと思う。
 将臣はやっぱり知盛の恋人だけど、清盛が相手だとやっぱり勝手が違うだろうな、負けるか?




10/12/29
11/09/26