生まれた歪の対処法






   狂わしの紅










「なんなんだよ、これは!!」

ごめん。

それだけの置手紙。















 例によって例に漏れず、それは新一が事件に呼ばれた日の午後だった。仕方がなさそうに新一を送り出す快斗の情けない声が聞こえてきてパソコンの前に座ったまま知らず志保の顔に笑みが浮かぶ。
 工藤邸の玄関でのそのやり取りは、もはや恒例行事といっていい。
 30分経った頃だろうか。阿笠邸のチャイムが訪問者の訪れを告げる。
 新一が警察に呼ばれたあと、快斗が志保を訪ねるのもお馴染みの光景となって久しい二人のお茶会である。これもまた、恒例行事といえることだった。
「志保ちゃん。頼みごとがあるんだけど、い?」
 いつもと唯一違ったことは、手土産に快斗自作のゼリーを持ってきた彼がちょっとした世間話のあとにそう切り出した。
 それだけだった。


 同棲の始めの頃は、無駄にだだっ広い工藤邸の所為か、はたまた、現家主である新一の生活に無頓着なところの所為か、やることはたくさんあった。それは丹念な掃除や草取り、木の剪定に草木を植えたりで外観を整えてみたりだっだ。そのおかげで今は幽霊屋敷の名残もない。それは勿論、何事にも器用が過ぎる快斗の手によるものだ。
 だが、何分器用な快斗のこと。そのあとも暇なときには邸内のちょっとした改造だとかセキュリティーの整備・改良もしたが、工藤邸に引っ越して僅か一週間。そう、僅か一週間で快斗の暇潰しはなくなってしまったのである。警察の呼び出し頻度の高さが窺えるというものだ。もしくは快斗の能力の高さの証明か。
 そんなにも暇を持て余していると知ってはいても事件とあらば快斗をほっといて行ってしまう新一にいじけの最中だった快斗を志保が偶々訪ねたのがこのお茶会の最初だった。
 快斗と志保は快斗がKIDをしていたときからの仲である。志保は快斗を弟か何かのように可愛がっていたし、快斗もなんだかんだと言いつつ優しく甘やかしてくれる志保に懐いていたので、次のときからは快斗がお茶請け持参で志保のところに遊びに行くという今の構図が出来上がっていた。快斗が来れば志保も自主的に研究を中断するので保護者な阿笠博士はとても喜んでいる。ひとり新一だけはイマイチ面白くなさそうな顔であったけれど。
 自業自得、というものの結果である。


 さて、話を戻して。


 快斗の言葉に少し黙った志保は、
「ことにもよるけど…」
と、そうは言いつつようは是と返す。基本的に余程のことでもない限り志保は手を貸すのを嫌がりはしないのだ。
「うん。それは大丈夫。ただ検査を頼みたいだけなんだ。俺の。新一に内緒でやってもらえる?」
 にっこりと笑う快斗に訝しげな視線を向けて志保は訊き返す。
「それは構わないけれど、内緒でなければならないの?」
 検査など、そう秘密にしなければならないようなことでもない。確かに解毒薬の経過を診る為に定期的に検査を行う新一と比べれば、快斗にした検査など片手で十分な回数の健康診断をしたことがある程度だ。新一は下手をすると体が治療薬に拒絶反応を起こすこともあり、元の体に戻ってからは病院に行かないで志保に一任している。一般病院に行けないのは、体のあちこちに銃創や如何にも鋭いナイフによる傷の痕がある快斗も同じであれ、志保の世話にならないのは快斗自身で怪我の手当ても薬の調合やらもやってしまうからであるし、専門書を読んでは自分で正確な診断を下してしまえるからだ。故に、志保は快斗にはその手の話を自らすることはない。
 そんな快斗が頼むのは本人では無理か忙しいから、という理由が一番多い。けれど、今回の依頼内容からして新一には知られたくないから、らしい。
 志保が目まぐるしく考えながらも先程のまま訝しげに視線を投げつけていても、笑み返すだけで快斗は答えない。だが、ある意味それは十分過ぎるほどに雄弁な答えだ。
 志保はじっと快斗を見つめていたが、結局溜息一つで了承する。いくら仲が良くても快斗がだんまりを決め込んでいるうちは何を聞こうとしても無駄だ。たったひとりで巨悪組織を破滅へと追い込んだこの元・世紀の大怪盗と争うなど時間の浪費以外のなにものでもなかった。










 ただ、志保の気を酷く乱させたのは始める前にちょっと微笑って言った快斗の「ありがとう」。










 それから一週間ほどあとの、また新一が警察のラブコールに応えた日、珍しくとも志保から快斗にお呼びの電話があった。電話口では来て、の一言でしかなかったが、この二人に無用な説明など不要であることも確かだ。
 何やら最近志保は忙しかったらしく、新一が出て行ってもお隣でお茶ができない快斗が拗ねていて、それを知っている新一としても警察に行くとは言ったものの出難かったのだ。志保のお誘いに少々憮然としたが、快斗が楽しいのなら良しと無理に納得して久々に快斗に笑顔で送り出された。
 随分と我慢強い恋人に不義理をしている自覚はある為か一度は納得したが、矢張り新一には面白くなかったのだけれど。





 いつものように快斗が手土産を持って訪れる。「今日はミートパイだよ」と笑って、切り分けたパイを皿に乗せてダージリンを淹れたポットと共にダイニングに戻ると快斗の定位置となった処のソファに腰掛けた。
 ポットからカップに紅茶を注いでパイと一緒に志保に差し出す。次に自分の前に置いてトレーをローテーブルに立て掛けた。
 一連の流れを黙って見ていた志保に快斗が切り出す。その際、さりげなく紅茶とパイを避難させるのを忘れない。
「これはどういうこと!?こんなの、明らかな異常じゃない!!」
 抑え続けた言葉は鋭い凶器のような勢いで志保の口をついた。
 今日阿笠博士は学会でいない。そのことを知っていたから快斗は今日が結果を告げる日であると予測をつけていた。だから「結果が出たんだよね?」と起爆剤になるに十分な言葉を言って。
 先日行った検査の結果。主に血中の多岐に渡る成分のパーセンテージ。その結果を表示してある紙を志保は叩きつけるように置いたのだ。
 黙ったまま、己の体の異常を示す数値を見ていた快斗は納得しているようだった。
 今だからわかる。快斗はこの異常な数値が出ることを知っていたのだ。彼自身が気付いた何らかの変化で、先に本人も検査をしてみていたのだ。そうしておいて、正確を帰する為に改めて志保に頼んだ。
 同じように異常な結果が待っているのを承知で。けれども、違うかもしれない可能性に賭けて。
「説明して」
 志保が強い口調で言う。
「知らない方がいいことってない?」
 快斗が困ったように微笑った。事実、困っていたのだろう。志保は随分と辛いような哀しいような顔をして、手は白くなるほど握り締めて強張っていた。
 快斗はマジシャンという人を楽しませる仕事柄と生まれ持った性質で人の感情の機微にただでさえ鋭い。上手く表情を隠していても気付く相手にその感情を晒してしまったのだ。
 そして、快斗は自身の経験故に自分のことで人を苦しませることを殊の外嫌う。
「そうね。世の中にはそういうことが確かにあるわ。でも、私はこのままの方が余程辛いのよ。このまま、私は何もできはしないの?私は貴方に確信を突きつけただけしかできないなんて。貴方を追い詰めることしかできないなんて」
 静かに言われた言葉に快斗は唇を噛み締めた。志保のなかにも常に深い悔恨がある。無知であるままに人を殺めた、というそれが。これ以上彼女にいらぬ罪の意識を負わせたくはなかった。
 そう思っているのなら、本当は志保にこれを頼んではいけなかった。だが、快斗はこのことに関して志保以上の適任者を知らなかったのだ。何よりも、快斗にとって志保は頼っていい相手であった。
 僅かな逡巡を覗かせて、観念したように肩の力を抜くと快斗は決める。このまま沈黙を通しても志保を余計な苦しみの中に置くだけなのだから。知らない方がいいことがあるのと同じように知らなければならないこともある。快斗がKIDとなった切欠と同じように。快斗が志保を巻き込んだ時点で志保には知る権利があったし、快斗には訊かれれば応える義務があったのだ。
「新一には言わないでくれる?」
「医者として担当した患者の守秘義務は守るわ。患者本人に気をつける気があるんだもの。誰かに言う必要はないのではない?」
 きっぱりと肯定した志保に快斗は「うん」と返した。










 そして、透徹した者の顔で穏やかに微笑んだ。










 快斗の手に渡った検査結果の紙はソファに投げるように退けて、テーブル脇に避けておいたティーセットを前に戻す。
 志保に勧めてから快斗も口を付けた。冷めてしまった紅茶が喉を滑り落ちていく。口の中に残った香りを吐き出すように声を出した。
 知ってしまえばこれから何かが起きたときに共犯の罪を被る可能性を志保が気付かないはずもないだろうに、彼女はただ、快斗が紡ぐ言葉を待った。だからこそ、甘えている自分を快斗は実感した。それでも志保が許してくれる以上、快斗はその手を借りるのだ。
「原因って言うのか、要因と言うのか。うん。兎に角、理由はわかっているんだ。
 あの日、あの最後の日。間違いなく組織を壊滅させたとき、俺の、ずっとずっと望んでいたあいつらの前でパンドラを砕いた、あのとき。追い詰めきった頃には夜になっていて、決して逃げられないように屋上に追い込んだら月が浮かんでいた。欠けてゆくしかない満月が皓々と照らす、月の綺麗な夜だった。反撃するだけの力もなくへたり込んでいた前で、これで全部が終わるんだと思いながら、あいつらにも見えやすいように俺の顔の前に、目の高さまで持ち上げて、この手に砕いた。
 手袋越しにざらざらと崩れていく凶つ宝石いしを決して二度がないように風に散らせた」
 そのときの動きを快斗は再現してみせる。宝石を持たぬ手から零れ落ちていくものは勿論何もないけれど。持ち上げていた腕を力なく落として快斗は続けた。
「わかっていたし、それで良かった。そんなものがあるわけないんだから、あっていいはずがないんだから。パンドラは涙なんて落としはしなかった。手に握り込む前に自然、月に翳したパンドラは赤い光を孕んではいたけれど、それだけだった。本当に、それだけだった。
 膝を落としたあいつらを俺は見ていた。復讐の終わりを俺は見ていた。これで、漸く終わるのだと。終わりを見ていた。
 でも。志保ちゃん。よく、俺を見て?何か違和感は、ない?」
 果敢無さを感じさせるのは、先の快斗の口調の所為か、検査の結果を知るからか。
 兎に角志保は快斗を凝視した。志保が望んだ答えはそこにあるのだ。


 それは一瞬の違和感。


 瞬きひとつでその違和感は見失ってしまった。けれど、同時に勘違いで済ませてしまうには強すぎるものだった。一度示唆されてしまえばわかりたくなくともわかってしまう。
 それは、それほどに印象的で───────。
「快斗、貴方、眼が…」
 何故、今の今まで気付かなかったのか。快斗の左眼が兇悪なまでの紅を生む。夜色の藍の色であるはずの快斗の眼。事実、右眼はそのまま。左眼とて別にいつだって紅であるわけではなく、ただ弱冠赤みがかっているような気がするだけで。
 だ、けれど。
「うん。パンドラが入ったんだ。
 俺も初めはわからなかった。だけど、いきなり左眼だけが紅くなったんだ。そのあと見比べてみたら左眼の色が微妙に変わっていたよ。多分、右眼は単眼鏡で庇われたんだと思う。
 いつもはね、左にだけカラコン入れて誤魔化してるんだ。新一ってば鋭いから。
 あの日から半年が経った。瞬く紅の間隔が早くなってる」
 快斗は上体をソファの背にあずけて目を閉じる。そのまま片足をソファの上に乗せると抱き込んだ。体を小さくして身を守る、その動作だった。
「初めてみたのはココに帰る前。次に見たのはその三ヵ月後。次はひと月後。次は三週間後。次は二週間後。一週間後。六日後。四日後。二日後。そして昨日も。それに今日も、今も」
 抱かかえた足を放し、目をゆっくりと開ける。
「誤魔化し続けることはきっと、もう。もう、できないんだよ」
 志保が見た快斗の眼はまた紅を発した。快斗自身、それがわかるのだろう。彼は自嘲するように目を伏せた。それでできた陰翳は顔に濃い影を作る。
「ひとは愚かだ。権力を持った人間は、特に。こんなものを欲しがる」
 重い、暗い、低く零された快斗の声。
「快斗…?」
 志保は軽く腰を浮かせた。快斗から放たれる気配が過去何時感じたものよりも重く澱んでいた。そんな快斗が心配で、快斗の腕に手を伸ばしたところで彼は言う。
「見てて」
 いつの間に持ったのか、快斗の右手にはナイフが握られ、室内の灯りが刃の動きに合わせて弾かれる。










 ぱ たたたたッ。










 勢いよく横に引かれた箇所からは鮮やかな色の血が落ちる。動脈まで達する力でつけられた傷から流れるのは体内を巡るのと同じ速さで体外へと落とし出されていた。快斗の左眼が生むのと寸分違わない鮮やかに過ぎる紅が。
 快斗の突然の行動によって志保の動きは止まっていたが、血がテーブルの上で水溜りを形成した頃、はっとしたように快斗の手を摑んだ。
「快斗ッ。貴方なんてことを…!」
 鋭い声でそれだけ言うと後の説教は後回しにしたのか、志保は救急箱を取りに行こうとしたのだが、今度は志保の腕を快斗の左手が摑んだ。
「待って、志保ちゃん。必要ないから」
「馬鹿なことを言わないで!!」
「本当に要らないんだ!もう、塞がっている。もう塞がっているんだ、志保ちゃん」
 無意識に快斗の摑む手に力が入り、志保はその強さに眉を寄せた。自然と摑まれた処に視線を落とし、その手が左手であることに慌てた。力を入れようものなら余計に出血してしまう。
 そう思って外させたのにその手からテーブルに落ちる血はない。
 志保は暴れる心臓とは裏腹にゆっくりと快斗の手首を返させた。その動きに逆らわず促されるままに快斗は手を動かす。横一文字に走っているはずの傷は手首についている血をそっと拭い取っても見つからない。傷があったという形跡ごと奇麗になくなっていた。
「快斗……?」
 掠れた声が名を呼ぶ。
 何が起きたのか、よくわからなかった。
「俺もう人間じゃないんだ…」
 快斗が改めて指先につけた小さな傷からテーブルの上の血は彼の体の中に還っていく。
「原理は何一つわからないけれど、これがパンドラの呪い。パンドラが与える不死。
 死に至る傷を負っても、治す力が強すぎる。頭を撃っても、心臓を撃ち抜いても、体がぐちゃぐちゃになったって、あっという間に元に戻る。傷を負う前の状態に戻るんだ。流れたはずの血だって、さっきみたいに戻ってくる。
 本当のパンドラの言い伝えはパンドラを直接体内に取り込まなきゃ効果は出やしなかったんだ。そのぶん効果も桁違いだけど」
 これまでずっと、堪え続けたというのに、視界が歪む。歪んだ視界のなかで志保が自分に向かって手を伸ばしてくれるのを見た。
「ねぇ、志保ちゃん。わかっただろう?俺は、にんげんじゃないんだ。化け物になっちゃったんだよ。
 新一と一緒にいられる人間でありさえすればよかったのに。それだけでよかったのに。もう、一緒にいられないよ。こんな化け物になっちゃったら、傍になんて、いられない。もう、 いられない…………」





 そう言って、それだけを言って涙を零す快斗を志保はただ、抱き締めるしかできなかった。










 快斗の左眼が紅く瞬けば、流れる涙さえも紅へと変わった。















 それから数ヶ月。
 表面上は一切何も変わらずに月日は流れた。
 新一は事件があればそれに赴き、快斗は新一がいれば彼に甘えた。いないときには志保と共にお茶の時間を過ごし、そうでなければマジックの練習に精を出す。志保は相変わらず研究の日々。
 変わったのは秘密を持った者たちの心の中だけに。





 ある日、辛うじて保たれていた均衡は崩れ去る。
「最近さ、特に感じていたんだけど、快斗の眼って前からそうだったけど、不思議な綺麗さが増してねぇ?」
 新一のその言葉を快斗は笑い飛ばす。
「何言ってんの、新一ってば。俺の眼が綺麗なのは当然っしょ。何せ大衆を魅了しまくった経験のある眼だぜ?それに、これからもこの眼は多くの人を魅せるんだよ。今度は俺のステージで。
 でも、俺から言わせてもらえば新一の目も十分綺麗だし、俺は新一の眼の方が好きだな。真実を見抜く、その眼が好きだよ。綺麗な蒼のその眼がね。
 忘れるなよ?」
 そう言って瞼の上にキスを落とす。
 快斗の台詞に新一は照れくさそうに笑う。今度はその唇に口接けようと触れ合う手前で新一の携帯が高らかにお邪魔音を奏でた。
 何とも言えない顔で見詰め合うも一瞬。新一は携帯を手に取る。一気に探偵の顔になってしまった新一を快斗は拗ねモードで盗み見た。
 仕方ない。
 吐息に溜息を隠して快斗は立ち上がる。まだ秋口とはいえ、これから出るのでは帰りは遅くなるだろう。どのコートがいいだろうかと考えつつ快斗はリビングを後にする。
 コートを片手に戻ってくると新一が酷く申し訳なさそうな顔で立っていた。快斗は新一のその様子に気付かれないように小さな笑みを零す。
「快斗」
「遅くなる場合は無精しないでちゃんと送ったもらうこと!」
 謝りそうな新一にはい、とコートを渡して快斗は新一の背中を押してやる。
「どうせ迎えはもう来るんだろ?」
「ああ、高木さんが来るって警部が」
「高木さんか。いつも新一のお迎えさんな気がするけど、大丈夫なのか」
 要らぬ快斗の想像に「大丈夫だろ」と新一は返しつつも、自分も同じことを考えたとは言えない。高木が新一の送迎に当たるのは目暮警部の馴染みの相手の方がいいだろうという心遣いだ。それに、事件の概要を伝えるのも送迎の役目になるから事件を冷静な頭で考え直せる、というプラスもあるのだ。そうとはわかっていてもつい、言ってしまう台詞である。
 車が近づく音に気付いた快斗がいつものように苦笑顔で送り出す。
「いってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
 閉じた扉の向こう側で新一と高木の声が快斗の耳に届く。普通は聞こえるはずのない音量・距離・障害も快斗の培われた高い能力には関係がなかった。車が出る音まで聞き届けてリビングに戻ると、とりあえずは飲みかけのコーヒーを流してマグを洗った。点けっぱなしのテレビを消して肩の力を抜く。合わせて、表情も抜け落ちた。



 左眼が熱を孕んで熱かった。




















 「ごめん」















 屋主のいない邸でぽつりと声が響いた。










 探偵が帰還する。
「ただいま。…快斗?」
 いつもならすぐに返ってくる声がないことに訝しみつつも、新一は明かりの漏れるリビングに真直ぐに向かう。テレビの音も何もしないことに首を傾げてそのドアを開けた。
「快斗?」
 テーブルに置かれた真白い紙片に目を留める。深く考えずに新一はそのカードを手に取った。
 空気さえも凍るようなピンと張り詰めた空間が形成される。
「……んだよ、これは」
 持っていたカードをテーブルにその手ごと叩き付けた。
 鈍い音が韻を引く。
「なんなんだよ、これは!!」




















「ごめん」




















 ただひとことだけが、残された。















And that all……?





    あとがき
 どうなんでしょうか、コレ。(よく書くな、この言葉)
 テーマは「快斗が永遠の命を得てしまったら」です。(読めばわかるって)
 新一の出番が妙に少ないです。もしか快志ですか!?(違います)
 パンドラが目に入ることで快斗が永遠の命になってしまう話を書きたかったんでこれでいいんですけど。初めからこれはこうやって終わるつもりだったんでこれで間違いないんですけど、もしかして、これって外道ですか?切り方酷過ぎ?
 快新だとか言わないで兄貴にこうやって終わる話を書いたんだ、といったらお前、酷い奴だなと言われました。そんなに酷いだろうか。
 続きが気になる人は言ってみると続きができたりするかも。です。



脱稿03/10/09     改稿03/11/15     加筆修正06/06/15