ある家に投じられた一石
公爵家を揺るがす問題は何処か幼くかわいらしい口調から始まった。
「母上。父上も楽しみにしていてくださいね。もう少ししたら被験者連れ戻すから」
にっこにことご機嫌そうなルークに夫妻も笑顔だ。想像の中では家族4人で仲良く過ごす光景が浮かんでいる。
「そうしたら、俺はダアトに行くから。水入らずで暮らせるようになるから」
部屋もキレイにして、そのまま被験者が使えるようにしておく。
けれど、続けられた言葉に妄想と共にぴしりとヒビが入った音がした。見てみれば手にしていたコップにヒビが入っていた。シュザンヌの。
「そ、そのようなことを言うな、ルーク。ルークもこの家で共に暮らそう。な?我々は家族だろう?」
秘されていた夫人の握力にか、ルークの発言にか、青褪めた公爵が慌てて取り繕う。
「でも俺、シンクと生きたいから」
導師の双子にして導師補佐官の名を出され、よく邸に来るシンクとルークの交流を知るファブレとして、ならば邸に一緒に住めばいいと言い募った。
「シンクはイオンを助けたいはずだから、キムラスカで暮らせないし。俺はシンクといたいし。
それに被験者は俺のこと憎んでるらしいから、俺はやっぱりダアトがいいと思う」
考え考えのルークの言葉にシュザンヌが一見おっとりと笑った。何をし、何を思っているのか未だ音沙汰のない息子1と、やさしく労わりに満ちたどこか幼い我が子。どちらが優先されるのか、知らない間に自明のことである。
「ルーク。あの子は自らの意思でファブレを離れたのです。無理に戻そうとするのはよくないわ。そんなことより、貴方がそうせねばならない理由があるの?」
「好きな人とはずっと一緒にいたいから」
はにかんだルークに時が止まる。
「俺とシンクじゃ子どもできないし、やっぱり被験者がいると思うんだ」
落とされた爆弾に、その日ファブレ邸は活動が停止した。
後日、いつものように訪れたシンクを咄嗟に追い出そうとした公爵が、背後からルークの嬉しそうに名を呼ぶ姿に歯噛みしたのは、また別の話である。
いとし いとしと
13/08/06
14/07/12