プレゼントを脅迫
慣れた様子で鍵の開いた窓から忍ぶように入る。音を立てずに一連の動作を終えたイオンに当たり前に声がかかった。
「お帰り、イオン」
双子であり、預言に導師を支える者と預まれたシンクがイオンの導師服姿で皮肉げに迎える。手元の書類は今代に設置された補佐役――守護役と兼任する、より政治色の強いものだ――たるシンクのものだろう。
「それ。明日僕のに混ぜていいよ」
視線で書類を示して部屋着に着替え始めれば、ならうようにシンクも着替える。夜中でも着替えていなかったのは咄嗟の時に導師の所在をより印象付ける為だろう。イオンの片割れはとても真面目な皮肉屋なのだ。
「そうするよ。それで、ルークはちゃんと泣けた?」
イオンが壁を叩いてアリエッタに合図を送っていると、4脚が用意されたテーブルに着く。ルークの部屋との違いはこれはスクエアの点だ。
「なんだ。気付いてたのか」
一瞬動きを止めてしまったイオンは極力何でもない様子で向かいに座った。
「そりゃあね。伊達に付き合ってるわけじゃないし、ルークのことならわかるよ」
わかるからこそ、シンクはイオンを行かせたのだ。
時間を作っては会いに行き、イオンより交流を重ねているから遠慮した、なんてことがあるはずもない。シンクはルークのことで誰かに遠慮なんてしない。ルークはシンクが魂から求めたただひとりなのだ。
「謝られた。僕のこと見殺しにするつもりだったって」
必要ないのにね、とイオンは言う。
シンクは頷く。シンクだってルークが必要だからアッシュのことなど捨てておく気だった。今だって拾ってやるつもりなどない。あの傲慢で浅慮な男など助けようとは思わない。アッシュ自身キムラスカに帰ろうともしていないし、死のうが生きようが、ルークに関わらなければどうでもよい。
何も知らない“ルーク”の一番を得る為なら、どんなことでもするつもりだったから、そんなことは何とも思わない。ルークがシンクだけを選んだことに、寧ろ喜びしかない。
それに、被験者の都合で使われていたルークにそういった意志がちゃんと働いたことに安心した。心をすり潰され、人形のように使われながら、世界の為と銘打った犠牲を強いられ、それを当然とされたルークが、ルークの為だけの意志で決定することがうれしかった。
気付かないうちにシンクが愛していたルークが心の奥底できちんと守られていたと、今会い、想いを重ねられるのがうれしいのだ。
「イオンさま、シンク」
軽食とお茶を用意してきたアリエッタが、やわらかなやさしさを浮かべる二人を呼ぶ。この二人をこんなふうにできるのがひとりだけだと知っているアリエッタは、自分だけで会いに行ったイオンをずるいなとちょっとだけ思う。
「ありがとう、アリエッタ」
でも、頭を撫でてくれるイオンと、後1週間くらいで会いに行けることを思い、はにかんで許すことにした。
ファブレで土産として持たせてくれる紅茶の馥郁とした香り――アリエッタはこの紅茶を最も美味しく飲む為にメイドに随分と教えてもらった――を楽しみ、イオンは帰り道での決定をこの片割れに告げた。
「ルークに“イオン”を会わせるよ」
「七番目を?」
反射的にシンクの眉が鋭角にはねる。シンクの雰囲気が一気に不快に傾いたが、当然ながらイオンは頓着しない。
シンクから聞いた誕生にまつわる話は酷かったし、成功作と失敗作と明確に差別されたところからはじまるのを許すつもりはない。
でも、
「七体も許すつもりはないよ。一人だけだ。“イオン”一人だけ。髭と樽の打診もいい加減煩いし、僕の自由の為にもそう悪い話じゃない。ディストの引き込みも済んでる。
それに、シンクだってルークに諦めさせるの、イヤだろ」
被験者にも負担があると知っているルークは“イオン”を思い出に眠らせて諦める気でいる。当たり前にイオンの健康と生を優先する。ルークの唯一得た優しさをなかったことにしてしまう。
「そりゃ、イヤだよ。でも僕が七番目を嫌うのは成功も失敗でもない。七番目も結局ルークを傷つけたからだ。愚かさでルークを殺していったからだ。
アイツが嫌われることを恐れて口を噤まなければ、ルークはあんなふうに使われて、あんなに傷つくことなんてなかったんだ。あんなのはやさしさなんて言わない。ただの自己保身だろ」
導師イオンの表面の笑顔だけを何も考えずになぞるから、あんな馬鹿なことになる。取り返しのつかない愚かさが募る。責任を知らない“イオン”がいたら、結局ルークはまた傷だらけになって、馬鹿共に搾取されてしまう。
そんなことは許せない。
「そこは勿論、一から教育を叩き込むけど」
ニヤリ。とイオンは笑った。悪辣さが透けて見えるその笑顔にアリエッタが、イオンさま楽しそうと呟く。
「作るのは間違いなくシンクと同様に音譜帯で全部を見て真っ青な“イオン”だよ。
ルークがいて、シンクがいる。大丈夫。“イオン”だってどうにかなるさ。ルークの為なんだから」
共犯者に笑う N→
緑っ子の悪事。オリイオ様のが正しいけど。イオンはオリイオ様の言うように、自分のマズ過ぎた対応とダメすぎるダアトに音譜帯で真っ青でした。レムが懇切丁寧に教えてくれましたよ。後悔しきりなのできっちり常識化しました。(イオンも突っ込みどころ多すぎる)というか、オリイオ様の教導を受けて、本人同様真っ黒な人に成長するでしょう。
シンクのは私の本音です。ホントもっとしっかりして欲しい。アレを優しさだと思ってるルークがかわいそう。
13/01/21
14/06/15