はじまりの唄












「はじめまして、導師イオンです」

 導師となり教団を掌握して2年、己の呪うべき預言とシンクの宣告から3年。そして、シンクの隠しごとを共有して1年。
 あまりにも荒唐無稽で、壮大で悲しいばかりの物語。呆れることもできないくらい愚かで無自覚な人間の罪の話。そのピースの一つが自分だと気づいて、イオンは何とも言えない気持ちで黙った。導師に就任して出逢った愛しいアリエッタ。確かにアリエッタしかいないイオンの世界だったなら、預言のままに死ぬことが己の人生だと思っていたなら、あったかもしれない未来だとイオンも思う。
 けれど、今のイオンには愛しいアリエッタと片割れがいる。生まれてから離れることのなかった片割れ。望みをもって二度目を生きる片割れ。預言が変わることを知っている片割れ。ルークの傍にいたかっただろうに、守りたかっただろうに、イオンの命を守ろうと決めてくれた片割れ。
 世界でたったひとり、唯一の。イオンが最初に得た味方たる片割れのために、イオンにしかできないことがあった。
「……はじめ、まして。ルーク・フォン・ファブレです」
 イオンを見て、シンクを見て、アリエッタを見て。ルークはくちびるを震わせて、挨拶を返した。彼の隣に座る公爵は、ルークの動揺を気にも留めない。寧ろ、公爵の近くに控えている執事のほうがルークを気遣わしげに案じている。
 これはもしかして、とイオンは思った。公式訪問ではなく、年の近い相手との交流という名目の私的訪問である為許可を得て隣に座っているシンクを盗み見る。その表面にこそ動揺はないけれど、イオンにはこの片割れが希望と歓喜にあふれるているのがよくわかった。
「初めまして。導師イオンの導師補佐官のシンク、です」
 そして、導師守護役としてイオンの後ろに立つアリエッタもシンクの動揺をその鋭い嗅覚でかぎとっただろう。
「ルーク殿とは年が近いので、ぜひ仲良くできればと思いまして。今回不躾ながら訪問させていただきました」
 にこりと。導師として人に好まれやすい穏やかな面を前面に出して、イオンは恐らく何も教えられていなかったのだろう理由を告げた。
「そうでしたか。でしたら、私のことはどうぞルークとお呼びください、導師イオン。友人に殿は不要です」
 懐かしげに親しげに目元を緩め、ルークも笑った。
 やはりとイオンは確信する。シンクもそうだろう。ファブレ公爵を見ればわかる。ルークは放置された子どもだ。ルークが赤子から真実時を進めたなら、このように応じられるはずがない。
「それなら、僕のこともどうかイオン、と。畏まる必要もないでしょう?」
 少しの茶目っ気を見せて、イオンは笑う。それから公爵に視線を飛ばせば軽く目を伏せ、了承を示している。ルークも見ていたのだろう。ぱっとうれしそうに笑い、
「なら、シンクもシンクでいいかな?俺もルークで」
「勿論」
 短く答えてシンクも笑う。恐らく、ルークはシンクが笑うのを初めて見たのだろう。皮肉でも嘲るでもない笑顔を。
 喜びを弾けさせ、ルークの視線はアリエッタに向いた。
「彼女はアリエッタ。導師守護役です」
「はじ、めまして、です。アリエッタと、申しま、す。ルークさま」
 ルークは音がしそうなほどににっこりと笑った。公爵の前でできる最大の好意なのだとわかる。ルークとイオンとシンクなら同じ席について許されど、アリエッタでは身分差が邪魔をする。
 聞いた話では、その日々、ルークを親の敵とアリエッタは狙い続けたという。友好であれるということがうれしいのだろう。
「父上。イオンたちと部屋に行ってもよろしいですか」
 ルークの願いに公爵は頷いた。相変わらず目を向けない。ルークが余計な知識をつけたり、途中で死なないように軟禁しているという話だったが、イオンの立場とイオンたちの訪問理由が理由だ。そもそも公爵が禁じられるはずもない。
「イオン。シンク。アリエッタ。離れに案内するよ。ラムダス、後でメアリにお茶を頼んで欲しい」
 ルークの代わりに扉を開けたラムダスに頼みごとをして、ルークは3人を連れて踊るような足取りで先導した。



再会は祝福の鐘 N→






 シンルクまでいかなかった残念。でも、お互いがお互いにもしかしてって思ってるから滲み出るラブ。
 今回の裏(?)主役は勿論オリイオ様。しっかり味方です。この人は公式ではアリエッタしかいない人ですが、これでは片割れがいるので比率は半々です。
 オリイオ様は人を信じていない人。だからアリエッタしかいなかった。この話でも同じですが、オリイオには片割れシンクがいる。完全同位体なんかじゃなくたって、同じものから生まれた片割れが。思いやり合う片割れが。守ってくれるはずの親だって預言に預まれていたといえば本人たちは耳障りがいいかもしれないけど、ようは捨てたってことです。子どもから見れば。それがオリイオ様の人間不信の根幹だと思う。なので、この公爵はがっつりオリイオ様の敵認定。オメデトウ地獄。
 オリイオ様にとって、世界との接点はシンクだけです。シンクが云うならとはじまっていく関係図。今はシンクの比率の中にルークの名前があるだけな感じ。
 オリイオ様についてはもっと書きたいことがある気がする…。




13/01/18