決断はいつでも遅かった






欲しがる、諦める






 どうせならば最後の男に。
 愛するこどもを殺した世界の
 星を滅ぼす最後の一人に。



 預言なんざ信じちゃいないが、と幼なじみの皇帝が皮肉げに笑う。
 押し付けた犠牲を忘れて、犠牲の上にあぐらをかいて平和の意味を忘れ、容易く戦争を起こした片方の国を嘲う。
 ピオニーが断腸の思いでこどもに命じたのはそれで世界が救われると信じたからだ。万の命の下で、一つの平和を維持していく為の努力が為されると、思ったからだ。その果たすべき義務を知っているからだ。そうでなければ、誰があんなにも惨いことを口にできるだろう。生まれて僅か7つのこどもに。
 ああ、けれど。
 世界は、人間は愚かだ。
 無垢な命を万と一。世界の為だと捧げさせ、奇跡に依って還った命さえも搾り取った。
 傲慢な被験者ニンゲン。自分も同じ人間イキモノだと思うと恥辱のあまり死にたくなる。その愚かなモノをくびり殺したくなる。
「結局のところ」
 あれだけ必死になって生き急いで、押しつけられた罪が本来背負う必要がないのだと教えられないまま、こどもは消えてしまった。その意味は失われた。犠牲は愚かな被験者の手によって無為の死へと変わってしまった。
 あのこどもは今、遙か空の彼方で安らいでいるのだろうか。やさしさに包まれているだろうか。
「預言のように戦争で滅びるってんならあの時に死んでおけばよかったろうに」
 ルークへ向ける想いとは裏腹に、声は冷たく、言葉は辛辣だ。浮かべられたのはルークの知ることのない、侮蔑に満ちた嘲笑。
「2年だ。たったの2年すら保ちやしなかった」
 どう思う、と向けられた眼差しは凍てつく青。
 ルークがいなくなり、"アッシュ"が戻り、よりひどくなった虚無的な青と比べれば、よほど生きている色だ。それと同じ色を己の紅が浮かべているとジェイドは自覚している。
 知るのが遅すぎた故にルークを追い詰め、殺した側の自身が思うのは許されないとわかっていても、ジェイド自身が己を許すこともできないけれど。その身であっても、浮かぶ感情は誤魔化しきれない。
 平和を、世界を維持する気がないのなら、4年前のあの日、瘴気の中和など必要なかった。ルークの命をすり減らし、献身を搾取したのは何故だったのだろう。
 今はもう、あのこどもの笑顔も己を呼ぶ声も遠い。記憶の彼は苦しそうに哀しそうに眸を揺らす。感情を殺した"yes"以外がわからない。
「傲慢で愚かなイキモノですから、滅んで当然でしょうね」
 ジェイドはゆっくりと口端を持ち上げる。本性の性質は真逆であったはずなのに、今はもう鏡のようによく似ている。
「世界中のニンゲンを滅ぼして、4年前にゆっくりと一緒に死ねばよかったんです。貴方も私も、最も大切な判断を誤った」
 そう、取り返しのつかない判断を誤ったのだ。2度とやり直しのきかない、最愛の命 ひとつ。
「滅びるにしても予言は気に入らないな。玉座を汚すのはあちらさんの方でいいだろう。疫を運ぶ最後の一人には心惹かれるが」
「それがオードランドの最期なり。ですね。でも、下手を打つとあの子が泣きますしね」
 泣かなくなってしまったこどもを思い出す。彼が最後に泣いたのはいつだっただろう。確かなのは、その泪を知っているのが己だけだということだ。
 すべてを奪われた己の光。
 あのこが"生きていた"と心から云えるのは誰だろう。
 あのこを諦められずにいるのは誰だろう。
 あのこの哀しみを抱きしめるのは誰だろう。
 一人は己で、一人はピオニーだ。では他に誰がいるのだとジェイドは思う。生きてルークを想うのは誰が残っているのかと。ルークを愛しているのは死んだものばかりだ。
 ルークを想っていてくれたのは、死んだものだけだ。
 そうだった。
 そうだったと思って、ジェイドはゆるく目を閉じる。
 決まっていたことだったとジェイドは目を開けた。
 向かいに座す皇帝の眼を彩るのは憤怒と悟り。よく似てしまったと、どこか哀しみながら、違った二人を似せてしまったルークを想う。
「ルークを愛しているのは死んだ奴らばかりだ」
「我々とて、大差ないでしょう。4年前と2年前に心臓は軋んで壊れたんですよ」
 笑う。
 嗤う。
「ピオニー。もう一人死んだ男がいれば、それが最後の一人です」
 いれば、と言いつつ、ジェイドは力強く断定する。
 どうして忘れていたのかと云えば憎しみが先に立ったからだが、思い出す。自分たちから決定的にルークを奪った男は、ルークを奪ったが故に、無実のルークが押しつけられた罪を知っただろう。必要のなかった贖罪を知っただろう。虚飾の生を知っただろう。殺される為の籠を、留まることのなかった影を知っただろう。醜悪なものを知っただろう。押しつけた己の罪深さを知っただろう。
 そして、己の生でもって、そのすべてが無にされた日々に生きている。
 己のない罪ばかりで。他からの扱いを知った男は違えようのない理解者となれた半身を殺したものすべてを許しはすまい。己自身を筆頭に。自分たちのように。
「ああ、いたな。確かにいた。正気となれば狂う立場で生きる男が」
 ジェイドに投じられ、過たずに受けたピオニーはうっすらと笑う。
 滅びの日。破壊の日はもうそこまできているのだろう。愛したこどもの願いがすべて踏みにじられて、どうしてこの世界を残すだろう。どうして人間を赦すだろう。
「私たちと」
「先に逝った導師にアスランか」
「きっとシンクもいるでしょう」
「チーグルの仔も連れてってやらんとな」
 世界は きっと もう、 滅びるだろう。










  ないものを欲しがるほど子供じゃない でも
  なくしたものを諦めるほど大人でもないんだ

(溢れた涙でようやく失くした物の重さを知った)





                        Fin
 badend。なる。
 この話はローレライが切れてたら逆行する。
 アッシュはルークの体と記憶とで戻ってきて、真人間的な常識を持ったので恐慌手前の自己嫌悪と絶望感でグラグラ。しかもルーク自身は恨んだりしてないから余計。この戻ってからの2年でルークの記憶とか想いとか殆ど知ったのでアッシュはルーク傾倒済みです。
 ルークの願いだからレプリカ問題頑張ってたのに、他のキムラスカ(ーファブレ)がヒドすぎてレプリカ全滅。挙げ句、戦争でぷつん。
 そして、ルークの献身犠牲とローレライの悲哀絶望で憎悪でぐつぐつです。ローレライの力を継ぐはずが憎悪を継いで増幅させちゃった。
 シンクが入っているのは贔屓です。幸せになってほしいナンバー2。ミュウはデフォ。





title by九鳥