自分よりも何よりも、大切なものがあるのです






自分よりも何よりも、大切なものがあるのです






 恐ろしく純度の高い翡翠が不思議そう、というよりもただ無垢に瞬くのを見て、ミュウは声なく叫んだ。
 出逢えた至高の主。
 失われた最愛の主。
 うれしかった。
 けれど、それ以上に哀しくて、悔しくて、苦しくて、腹立たしかった。
 瞬く翡翠には何の感情も浮かんでおらず、生理反応として瞬くだけだ。生まれたばかりで首を支える筋のない体は、こてりと、まるで不思議そうに首を傾げさせた。でも、それだけの動作だった。いや、動きですらなく、頭の重さに耐えかねた首が曲がっただけだった。
 ミュウの何よりも大切な主は失われたままだった。
 ここにいたのは、生まれたばかりで何も知らない無垢なレプリカルークだった。ミュウの意地っ張りで、けれどやさしいルークではなかった。
「みゅうぅぅ」
 この汚れた世界に新しく生まれたレプリカルークが憐れだった。
 この汚れた世界に、あのやさしい主がもう二度と傷つけられないことを喜ぶべきだと思った。けれど、どうしようもなく哀しくて、ミュウは泣いた。
 だって、会いたかったのだ。会いたかった。ミュウはミュウの大切な主に会いたかった。誰よりも大切なルークに会いたかった。
 会いたかった。
『ミュウよ、どうした』
「クイーンさん。ご主人様がご主人様じゃないですの。ボクのご主人様じゃないんですの」
 失われてしまった人に会いたいと泣くミュウの顔をべろりと大きな舌で舐める。古城の人間を駆逐していたクイーンは重力に従って首を傾げる幼子姿の赤子を痛ましげに見やり、ミュウに視線を戻した。大きな翡翠も定期的な瞬きを繰り返しながらミュウを見ている。
『お前の主でなくても助けるのだろう?』
 クイーンの問いかけに、ミュウは泣きながら首が取れそうなほど大きく頷いた。
「勿論ですの。ボクのご主人様じゃないご主人様だけど、ご主人様を助けて、守るんですの」
 自分とルークとライガの一族で森の奥で暮らすのだ。星が滅びるまで。ルークが笑っていられるように。おだやかに。
「ご主人様、行こうですの」
 力のないルークを連れて出るのならば、もう時間がない。人目につかないうちに街の側から更に離れる必要があった。
「今度はボクがお守りしますの」
 フォミクリーの譜業の近くに無造作に置かれていたルークに近づき、ミュウはぎゅうと小さな手でミュウが知るより小さなルークの手を握った。
 レプリカルークの無垢な翡翠がぱちりぱちりと瞬く。そんな幼子ふたりを見守っていたクイーンは、ふと違和感を覚えて鼻をうごめかす。
「ボクが守るですの。ご主人様」
 改めてルークに誓うように繰り返したミュウをレプリカルークの綺麗な翡翠が見つめる。ぱちり。と瞬いた翡翠が動揺するように揺れた。
 レプリカルークの顔を懐かしくも哀しく、そして慕わしげに見つめていたミュウも違和感に凝視する。クイーンも第三の奇跡の予感にじっとレプリカルークを見た。
 レプリカルークのくちびるが小さくふるえる。
「ご主人様…?」
 大きな疑惑と小さな期待にミュウは問いかける。
「ミ…ュ・ゥ、」
 生まれたばかりの声帯は掠れた小さな音しか作れなかった。
 けれど。
「ミュ…ウ」
 ぱちりと瞬き、綺麗な翡翠からキレイな泪が零れる。
「ご主人様ッ」
 歓喜に叫んでミュウは譜業の近くに座り込んだ、唯一の最愛の主にしがみついて、泣いた。





                      Fin
 奇跡は3度起こる。というよりこのルークを救わないと本末転倒。クイーンはお母さんなので子ども二人を見守って、ぎりぎりまで泣かせてあげます。いい母!
 ルークのスペックは前回を引き継いでるので無双ですが、起きたてなのでへによいです。
 星が救われるかはミュウのみぞ知る。




12/08/24