絶対零度でとろとろ、と






絶対零度でとろとろ、と






 ローレライ、ローレライ。絶望を饗す。
 我等が父よ、貴方の子が絶望を饗す。



 広い大聖堂の中心に立たされた子どもは色のない眼で愚かにもほどがあることを口にした子どものような大人を見る。
「ジェイド。アンタ何言ってんだ?」
 姿ばかりが大きく、まるで立派な大人のように振る舞う男を呆れるしかない。この胸に去来する虚しさをどう説明すればいいのか、真実7年しか生きていないルークにはわからない。
「ですから、世界中の瘴気を中和するのに一万のレプリカと超振動が必要なんです。あなたの体では耐えられないでしょうが、世界の為に死んでください。ルーク」
 犠牲になれと言う人間を見ても、もはや怒りも浮かばない。辛いのは自分たちだと言わんばかりに悲しみに浸るふりをする犯罪者共を見ても憎しみが溢れない。
「何で俺たちレプリカが死ななきゃいけないんだ」
 うんざりしたようにルークは言った。その声に、その眼に、両国の首脳は居た堪れずに身じろぐ。
「はぁ!?アンタ何言ってんの!?」
「ルーク!お前なんてことを言うんだ!」
「レプリカとはいえ、キムラスカの青き王族の血を引きながらなんてことを言いますの!?世界の為でしてよ!!」
「ルーク!!貴方、アクゼリュスの罪を償いもしないで逃げてばかりで!犯した罪を償うべきでしょう!!」
 ルークの様子にも王たちの様子にもまるで気付かずに手前勝手に理由を並べて吠えたてる。躾のなってない姿は実に滑稽で、見る者に不愉快だ。ルーク以外の彼らは公式声明も知らず、王命による行動をとったルークになんてことを言うのか。
 他のメンバーの勢いにただ眼鏡を押し上げるだけで何も言わないジェイドへ冷めた目を向ける。
「ルーク殿はレプリカが中和する理由を聞いたんだろう。見当外れの罵倒するしか能のない口は閉じろ。
 ジェイド。理由を」
 そもそも許しを得ずに口を開いてはならないという常識は何処に置いてきたのかと、だがそれは言うだけ無駄なのだろう。頭の痛い現実しかないのだと知る。
「瘴気の中和には第七音素が必要ですから」
 強くピオニーに命令され、漸く口を開いたジェイドの回答に、同行者たちが嗜虐性に満ちた顔で笑う。
「じゃあ、何で俺なんだ」
 先程ルークを得て勝手に責め立てたメンバーはあからさまに馬鹿にした表情を隠しもしない。最初、ルークの死を悲しむような素振りをしたことなど忘れているのだろう。
 それによってそれぞれの上層部がどんな顔で自分たちを見ているのか、まるでわかっていないのだ。
「俺の超振動劣化してるんだって、さんざん言ってたよな。さっきも不安定だって言ったな。そんな不安定で劣化した超振動で世界中の瘴気は消せるのか?失敗したらどうするんだ?今度は一万人の第七音素士でアッシュがやるのか?
 世界中の命がかかっているのに、どうして最初から安定しているほうを使わないんだ?」
 淡々としたルークの声は変わらず、怒るでも哀しむでもない。
「それに一万人のレプリカってつまりどれくらいの量なんだ?痩せている人も太っている人も大人も子供もいるだろ。どうやって必要な量になるって計算したんだ。どれだけの第七音素がいるんだ」
 嘆くでもない言葉が淡々と出てくるから追い詰められるような気持ちになる。
 けれど、期待していないだけの子どもはただ問う。
 大人の愚かさを、被験者の愚かさを問う。
「何で生体レプリカじゃなきゃいけないんだ。何で生まれたばかりのレプリカの命を使おうとするんだ」
「レプリカなのですから、当然でしょう」
 生まれの違うものは命ですらないと、数多の生まれの人々の命を預かり、守るべきと王族の教育を受けていたはずのナタリアが言う。
「レプリカなんて化け物、死んじゃえばいいじゃない」
 守るべき命を、守らず見捨て売り渡したアニスが言う。
「貴方達レプリカは被験者の命を奪うでしょう」
 常識を非常識にすり替えて、守るべき民間人の命に自分を守らせることを当然とし、尊ぶべき王族に不敬を積み重ねるティアが言う。
「レプリカはいつ解離するかわかりません。残すなら被験者でしょう」
 命を理解できないジェイドが言う。
「ルーク。確かに死ぬことも殺すことも恐いだろうが、お前がレプリカと死なないといけないってわかるだろう。なんでそんなことを言ってみんなを困らせるんだ」
 何を言っても、結局ルークの我儘だとしか思わないガイが言う。
「お前たち被験者が、お前たち被験者の勝手で俺達レプリカをつくりだすのに、悪いのは望んでもいないのに勝手に作られた俺達レプリカで、勝手に作ったお前たち被験者じゃないと言うんだな。
 俺達レプリカの命はお前たち被験者のいいように使うものだって、使っていいものだって言うんだな」
 そんなはずはないと王たちは呻いた。勝手な都合で勝手に生み出された命のほうが悪いなんていうことがあるはずがない。命の平等は身分上建前になるが、それでも命を差別し押しつけていいとはいえない。そんなはずはないと、奥底では知っているはずのものだ。彼らの言うような勝手、そんな暴論などない。その言葉はあまりにも醜かった。傲慢で醜い言葉を集めたようだった。
 なのに彼らはその通りだと頷いている。
 こんな崩壊した理論の人間といれば、怒りも悲しみも持続しなくなる。そんなもの無意味だ。こんな相手にどんな感情だって向ける気もなくなる。
「そうか。だからお前らのうち誰もレプリカホドを使おうって言わないんだな。劣化した不安定な超振動でいいなら、第七音素士二人で疑似超振動を方々で起こして威力を出した方が確率が上がるって思わないんだな。罪人を使えばそれぐらい誰も傷つけずにできるのに。
 つまりお前たちはただ単に、俺達レプリカを殺したいだけなんだな。
 アニスなんて、両親と比べてイオンのことも簡単に殺したもんな。シンクは敵として出てきたからお前たちは言い訳もいらなかったし、これで俺と一万のレプリカたちを大義名分を持って殺したいんだな」
 納得したとルークは頷く。その顔にはおだやかな笑みすらある。
 だが、そこまで言われて漸く理解できた彼らが自分たち以外から向けられる嫌悪と侮蔑に満ちた眼差しに気づいた。特にダアトという場所柄、たとえレプリカという身であれどイオンを殺したという彼らに向かう感情は鋭い。どんな状況であれ、それを意図していたことを知っていたなら弑逆である。大罪だ。
 そして、図々しくも青褪めた彼らはルークに縋ろうと眼を向けた。
「ピオニー陛下。インゴベルト陛下」
 だが、当然ルークは彼らを一顧だにしない。彼らがルークを人形のように使うより先に、彼らはルークの中から消えていたのだろう。
「レプリカたちは俺みたいな目にあったらかわいそうだから、俺とローレライのところに行きます」
 ルークの宣言にインゴベルトは短く肯いた。国の為に預言で死ぬのだからと直視してこなかった姿を今更になって、見る。ルークの眼は生まれて7年のものでも、17歳の少年のものでもなかった。
「瘴気は二千年前の被験者たちが出したものだから、陛下たちでどうにかしてください。
 ホドはレプリカだけど大きいから解離する前に好きにしていいです」
 わかったとピオニーは頷いた。こんなふうに子どもに気を遣わせる自分たちが情けなくて仕方がない。被験者なんて憎いばかりだろうに、こうして救いを残してくれる優しさが痛かった。すまないと言いそうになって、ありがとうと頭を下げる。
「俺がレプリカでも」
 ピオニーもインゴベルトも、その場の人は聞き逃すまいと耳を澄ました。
「やさしくしてくれた人はいました。シェリダンの人たちやネフリーさん、マクガヴァンさんたちにアスターさん。ファブレのメイドや騎士にも少しだけ」
 アスランさんも向こうにいてくれたらいいなぁ。ルークのそれは無意識だった。やさしいひとを、思い出すように綴った言葉の本当だった。
 失礼しますと、王たちに頭を下げたルークが愕然としている同行者たちを置いて去っていく。
 もとより、共にいるなどと思っていない背中だった。



 父上。我等が父上。絶望を饗す。
 生まれたのに生きられない貴方の子等の絶望を、貴方の子が饗す。





                           Fin
 もっと薄暗くて呪わしくて絶望的な話になるはずだった。
 このルークは基本は世間知らずだし、勉強嫌いだけど本能的な察知能力は高かったので、ティアに誘拐されてから諸々のおかしいはちゃんとわかってた。カイツールの伯爵に「あいつらこんなんなんだけど、どうすればいい」とか相談してる。そして伯爵はそれを直に見てるからちょいちょい手を打ってくれてた。そんなだからヴァンの暗示も効いていない。信じてないから。自然崩落。奴らには関係なかったがね。
 つか、原作でもルークの立場的にキムラスカの先遣隊を率いて勝手に海路行っちゃったヴァンを気にするのは何もおかしくないんだが。だって、キムラスカ兵だよ。自国民のことだよ。それに和平のための親善の救助の先遣隊なんだから状況だって知りたいだろうよ。結局ルークがヴァンに懐いているからルーク個人の我儘ってことにしちゃうシナリオがおかしいんだよね。シナリオおかしすぎて突っ込みどころしかないけど。
 なので、断髪してない。キムラスカ兵が死んだのは勝手に率いてくの決めたヴァンとジェイドだし、救助は報告を怠り続けたジェイド。セフィロトの封を解かせたのも解いたのもダアトで、アクゼリュスも自然崩落。ナタリアは結局おいて行こうとしたところで王女権限振り翳すし、ホントルークの決定権がないな。シナリオ設定と国法とか制度とか合ってなさすぎるんだけど、どういうことなんだろう。
 断髪してないルークはアクゼリュス後は立派なスレルークになった。預言で死ぬはずじゃ!?とか聞いたはず。スレルークはたぶんシンクともそれなりにいい関係を築いた。「被験者で括ると嫌いだけど、いい奴はいたよ」みたいな。シンクとの戦闘ではルークは手だしせず、自分の方に来た余波だけ避ける。




12/12/07
title byユグドラシル