失って気づく。あまりにも遅すぎたことに






手の届かない領域






 愚かなことだとつくづく思う。
 愛してます。などと。
 この手が届かなくなって、この声が届かなくなって、この心が届かなくなって、漸く気づく。
 己の度し難い愚かさに気づく。
「ルーク」
 このうつくしい青空の下で。
 この空虚な青空の下で。
 この犠牲に塗れた青空の下で。
 今いないあなたを想う。
 あなたの笑顔を想う。
 あなたのただの笑顔を想う。
 あなたの空漠の笑顔を想う。
 あなたの模るだけの笑顔を想う。
 私たちが殺していった思い出すこともできない笑顔を想う。
「見えますか、ルーク」
 あなたが負った一万の同胞殺しの犠牲の下で、
 あなたの犠牲で得た青空の下で。
 いま、大地が深紅に染まる。
 ぶつかり合う万を超える両軍の軍人の血で、
 戦禍に巻き込まれた戦う必要のない民間人の血で、
 大地は再び穢土に変わる。
 穢れに穢れ、星は再び呪うでしょう。
 奪われた無垢な命の無為に、星は再び呪うでしょう。
「聞こえますか、ルーク」
 誰よりも人を愛し、何よりも命を尊んだ
 そんなきれいなあなたの穢らわしい被験者が、殺せ殺せと吠えたてる。
 他国人は人に非ずと吠えたてる。
 同国人を殺した己を忘れて吠えたてる。
 守るべき命を殺し、己の義務を放棄したことさえ忘れて吠えたてる。
「ルーク」
 あなたが救った、人も平和も、世界も、星も。
 みんなみんな滅ぶでしょう。
 あなたが遺した平和を、世界を、星を。
 壊すすべてを滅ぼすでしょう。
「あいしてます」
 あなたに死ねと言った口であなたに愛を捧げます。
 あなたを殺して残した被験者を国の為に殺します。
 あなたを愛した心を抱いて、貴方を無為にしたすべてを殺します。


 絶望よ今こそ来たれ
 夜には煌めきが瞬くように




                      Fin


 死霊使いの放った上級譜術が進軍を開始したキムラスカ軍を捉え、爆風と共に吹き飛ばした。
 足元の大地すら溶かす熱量に当然のこと、キムラスカ兵は怯む。その土を踏めば足が溶けるに違いない。離れているマクルト側さえ、立ち上がる熱がわかるほどだ。キムラスカが感じるのはもっと熱いだろう。もっと恐ろしいだろう。
 だというのに、この距離を以ってしてもキムラスカ軍兵の顔が青白いのがよくわかった。血の気は完全に落ち、恐怖に青褪めたのだ。それも然もあらん。と新しく死霊使いの副官に据えられた男は思う。完全なる味方として立っていてもこんなにも恐ろしい男と、完膚なきまでに滅ぼされるべき敵として向かい合うのだ。恐ろしくないはずがない。
 しかも、たって今先制を機した一撃は同僚を燃え滓にして伏せさせたばかり。その攻撃譜術もローレライの解放に伴い他の第1〜第6音素も減少し、こんなにも強力な譜術が今放たれるはずもないのにも拘らず、だ。
 恐慌状態になっているキムラスカ兵に憐憫を覚えないではないと男は思う。それと同時に欠片の情も湧かない。いや、煮えたぎったような憎しみはある。憤りもある。許されることなく、苦しみ果てればいいとそう思っている。
 何より、宣戦布告してきた身でエネルギー源を失っているのに譜業を入れて戦を仕掛けるなど、どんな馬鹿だと男は思う。性能通りの働きが期待できないものを主力にするなど愚の骨頂だ。そして、このマクルトには効率よく譜を集める眼を持った一個師団男しりょうつかいがいることを忘れたのだろうか。さんざん煮え湯を飲まされながら、都合よく。
 着弾によって乱れた髪を直し、死霊使いが再び腕を上げ、指先が指し示す。力を放つべき地を、審判の如く厳かに、それでいて無造作に決める。
 その威力に反した淡々とした声が力ある言葉を紡ぎ、衝撃だけが再度マクルト側にも届いた。荒れた衝撃波で死霊使いの白い面が露になった。
 表情のない貌が刻一刻と形を変えるものであるかのように、憎悪、嫌悪、侮蔑、厭悪。ありとあらゆる悪感情に変える。
 けれどその眼は、空を映しては恋慕を。大地を見下ろしては哀惜を湛えるのだ。
 死霊使いの新しい副官となった男も、新たに第三師団に配属された軍人たちも、空を見上げては哀惜し、息をしては哀悼した。彼らは皆、何らかの形でルークと接したことのある者たちだ。ルークの本質に触れ、読み解いた者たち。悪辣に言われる謂れのない子どもだと知っている者たち。
 ルークが、今キムラスカにある紛い物と違うと知っている。ルークが血を流し、命をかけた功績だけを奪った被験者という名の卑怯者だと知っている。ルークの願いを穢した偽物だと知っている。
 だからこそ、この最前線に立つ第三師団を望んだのだ。平和を願い、命を愛したひとの名を穢す男を誰よりも早く、討ち取れるように。
 死霊使いが、死霊使いと呼ばれた男が人間となって、愛しげに名を囁く。愛しさを抱えて紡ぐ。
 嘗て死霊使いの下で兄を失った、今副官となった男は同じ名を心の中に囁き落として、哀しみを喰んだ。





                       Fin
 前半は益体もなくジェイドの鬱鬱とした愛の吐露です。ルークがいなくなってから表面をつくろいつつも、ずっとこんなの。ピオニーとディストは幼馴染みクオリティで内心のドロッドロを感知してます。どーにもできんけど。
 後半は新しい第三師団の副官視点っぽい@懲りずに戦争仕掛けてきたキムラスカ戦。彼の兄はタルタロス襲撃で神託の楯に殺されました。たぶんアッシュ。
 ジェイドはこのとき若干ネジが外れて人外っぽいものになってます。ルークのことを思っていたら地上に残ってたローレライの一部を引き寄せて無意識に喰ったのかもしれん。実はディストもジェイドと同様です。ルークが解離する前にマクルトにとっつかまっておかん化していたので、わかっちゃいたけど大爆発でアッシュ憎しです。チャネリングをつないだ自分の所為だというのもあるし。挙句、ルークの生きた証もアッシュは自分のものにしたし。このことには第三師団とルークと接したマクルト住民とシェリダンも憎し憎しです。




12/10/04
title by確かに恋だった