あなたを守るのに必要なこと
虹の尾を掴む
「貴方達がそんなだからあの子に会わせられないんですよ」
ここはマクルト帝国首都グランコクマ。皇帝のお膝元たる優雅な水の都の片隅――というには中心部だが――で、冷徹な美貌に冷たい微笑を貼り付け、ただの事実を告げる。
嘗ての旅の同行者、けれどだからといって彼らに向ける情は欠片もない。いや、鋭利に尖らせた憎悪と嫌悪ならば、溢れるほどにあるのだ。
だがその理由を教えてなどやりはしない。あの子どもが謂れのない罪を押しつけられるまで存在を無視され続けたように、常にその心を踏みにじられ続けたように、彼らも自身らにその価値がない身だと知ればいいのだ。自尊心ばかりが無駄に高いその身が無価値だと思い知ればいい。
「まぁ!それはどういうことですの!?」
侮辱されたと怒り柳眉を吊り上げ、高く声を上げたナタリアに、どうもこうもないとその場にいたマクルトの軍人が胸中で毒づく。だいたい己の立場も弁えずに未だに他国をうろつくなどと一体何を考えているのか。
「そうです!だいたいルークの罪がまるでないようなあの発表はおかしすぎます!!ルークが犯した罪だというのに、公爵家の息子だからといって、兄さんに罪をすりつけるなんて!!」
おかしいのはお前の頭だと、罵らなかったことを軍人たちは褒められるべきだ。
立場を弁えられない元王女以上に身の程を知らない大罪人がそれこそ罪を擦りつけようと声を張り上げた。
誰が最も罪深いのか、そんなこと既に世界中が知り、認めている。それができずにいるのは今ここで一片も存在しない彼らだけの事実を正義として掲げ主張している彼らだけだ。
漸く怯えを見せずに笑ってくれるようになった子どもを知る軍人たちは憎しみではまだ生ぬるい感情を突き刺すように彼らに向けた。だが、自分たちが誰にも恨まれない憎まれないと思い込んでいる愚かな彼らは、軍人でなくても気付くだろうそれを感知することがない。
「罪を擦りつけるも何も、ただの事実ですよ。アクゼリュスを落とそうと望み画策し、実行する為に長年かけて孤立するよう仕向けられ続けたあの子に付け込み、操ったのはヴァンでしょう。唯一その場におられた導師イオンも別室でお話を伺いましたが、あの子と同じことをおっしゃいました。『一度制されたくらいで口を噤み、ルークに酷いことをしてしまった。どう謝ればルークは笑ってくれるのか』と泣いておられましたよ。
当事者たちの証言が同じで、あの子には暗示が施された形跡が発見されました。この確認も我がマクルト・キムラスカ・ダアトの3国でされています。況してや、キムラスカは元大詠師モースにより知らされた秘預言の成就の為、ルークとアクゼリュスが消滅するのを承知であの子を贄にアクゼリュスに出したのだと認めました。
貴方達のしていることは己の責任を放棄し罪から目を逸らし、3国のトップが認めたことを無視した上で、自分たちの愚かさを喧伝しているにすぎません」
淡々とジェイドは世界中に公布された事実を告げる。3国トップの名の元に発されたそれは覆しようのない公式文書だ。疑うことなど、許されようはずもない。
「だいたい、あの子が犯した罪とはなんですか。あの子はただ、扱い方も自身が持っていたことすら直前になるまで知らなかった力を暗示によって使われた被害者です。それであっても罪ならば、私たちが犯し続けた罪はどれほど重いか。貴方達は理解するどころか認識することすらできないのでしょうけど。
もし、あの子に罪があるのなら、それはヴァン・グランツを信じたことでしょう。ですが、それだとしても。数カ月共に旅をしながらあの子の信用を得る努力をしなかった我々の、そして7年間近くに過ごしながら相談できる安心を与えられなかったガイやナタリアの罪です。
そもそも信用が罪ならば、その瞬間までヴァン・グランツを疑わなかった全員の、ヴァンを盲信する下地を作っていたガイの、7年前の誘拐犯がヴァンだと盗み聞いて知りながら何の対応もしなかったナタリアの、何よりヴァン・グランツが何をするつもりか知りながら容易く説得され、行われれば世界中を巻き込む危機であるにも拘らず誰にも打ち明けることなかったテイア・グランツ。貴方が最も罪深い」
そうでなくともティアの罪が最も重いことは既に言う気にならない。言ったところで自身の考えこそが正しい常識であると思い込んで、理解できないことはわかりきっている。言うだけ徒労に終わる。己の罪を踏み潰してなかったことにし、他者に責任と罪を擦り付け、声高に叫ぶ醜悪な存在。それがティアだということは世界中に知れたことだ。
詮のないことではあるが、もし、一番最初の時に彼女がヴァン・グランツの危険性と計画を話していれば、結果は確実に変わっていたはずだ。いや、例え変わらずとも、世界を危機に晒そうという計画を個人的なことと隠していいはずがない。本当に非常識で傍迷惑な兄妹だ。
そして、その被害を一身に負ったのがルークなのだ。ルークが何か悪かったのではなく、ただルークが負わされたのだ。
ジェイドの感情のこもらない声はだからこそ事実だと突きつける。醜い人間の本性を浮き彫りにする。あのこにすべての罪を押しつけ、のうのうと生きているその、醜さを。
「バルフォア博士」
準備を整えた軍人たちが逃げられない囲いを作り終えて声をかける。譜術国家たるマクルトには知られないように静かに相手の動きを拘束する術がある。
「な」
自分たちが罪人のように扱われていることに気づいたのか、驚きと怒りの声を上げる。だが、国のトップの言葉を否定し、なすべきことをせずにふらついていれば、それは十分に罪だ。
助けを求めるように向けられた視線にジェイドは冷たいがゆえに逆に優しくすら見える表情で答えた。
「時間を稼ぐためにわざわざあなた達と話していた私に何の期待をしているんです?」
そう教えてやることすら優しさなのだ。だが、この傲慢きわまりない人間たちはそんなことにも気づかずに罵るだけだ。彼らと同様の人間だったことを思えば、気づけた今は奇跡だ。あのこを守るために動ける喜びをたとえる言葉を知らない。
だが、そう一つだけ。言っておかなければならないことがある。彼らがどれだけ自分たちにとって都合のいい言葉しか受け入れていないのか示す事実を。
「あなたたちの勘違いを一つだけ訂正しておきましょう。もう、この世界にルーク・フォン・ファブレのレプリカはいません。いるのはキムラスカとファブレ公爵家に求められ、ルーク・フォン・ファブレの影武者を7年の長きに渡り勤めた私の息子だけです」
帰らぬ本物の身代わりを勤めたにすぎないとこれもまた宣言はなされている。
譜術を封じる枷をつけられたのを確認し、仕事に戻ろうと興味も情もなく背を向けたジェイドを悲鳴のような声が呼ぶ。
「大佐」と。
それに今度こそ耐えきれずにジェイドは失笑する。振り返り、悪魔だと恐れられた顔を見せた。
「軍位は返還しました。カーティスの姓も。今の私は軍属の一研究者にすぎません」
愛する息子を守るただの親です。
その後は、余計な時間を使ったとばかりに一切の声に答えることなく歩き去っていった。
Fin
マクルト中心のあれやこれと世界に公布された事実に文句いっぱいで乗り込んできた非常識VS世界で一等大事なものは愛する息子ですなジェイド。勿論ジェイドが勝った。寧ろ負けるはずがない。ちなみに非常識たちはあれから一度も自国に戻ってません。発表の内容もよく読んでない。
内容は、アクゼリュス崩落の真相。神託の楯総長と兵の謀反。大詠師の横領と罪の告発。ナタリアの王命無視による反逆罪で王籍抹消。2個目と3個目で教団の上層部の椅子の埋め直しでイオンはわりと真っ当な導師となって頑張ってる。トリトハイムと。謀反は兵なら問答無用。幹部以上はできれば捕獲。無理なら死体でもいい。ナタリアの預言は気付かないのアホすぎるのでさすがに隠した。王命無視も教育のアホさがアレだけど仕方ない。教団としても、キムラスカに無断でそんなことしたってのまで公表できない。不祥事多すぎて。軍法の話だと、アニスのスパイはマクルトに突き出すし、国法でガイはキムラスカで処刑が決まってる。使用人として最低すぎる。マクルトの公式見解はガルディオスは16年前にホドで滅んでるで当然。16年も経って成人越えた奴が名乗り出るなんてないない。領主でありながら貴族の義務を放棄した貴族もないない。アッシュとルークのことは国交間の話だから民間にはおりない。こんなもんかな。
ルキエルはこのとき王宮にいる。奴らがグランコクマに向かってるってのはすぐ報告来たので、あわせて王宮に隠した。フリングスと陛下の見張りをしてる。お父さんはルキエルが幸せになることしか考えてない。
2013/08/22
title byユグドラシル