心を刻んだ絶望を。 そして、――――
君が見た世界を見たかった
ルークはずいぶん静かに眠るようになった。
出会った頃からアクゼリュスまでのことは殆ど覚えていない。ルークはジェイドにとって興味がない、或いは過去の汚点以外の何物でもなかったからだ。
でも本当は、そんなふうに放棄してはいけなかったのだと今ならわかる。ジェイドは目を逸らすのではなく、たとえその誕生の直接に関与していないのでもその根源に関わる者として、向き合わねばならなかった。
バチカルまでの行程で聞こえた、ルークに知識を与えないその方針に危機を懐き、教え導くべきだったのだ。
そうすれば、今のルークのように贄の仔羊として殺されずに済んだ。幼くやわらかだった心は殺されずに済んだ。すべての罪をその一身に背負わされ死出の道を歩くことはなかったのだ。
アクゼリュスを経て合流したあとからルークは常に魘されていた。殺してごめんなさい。騙されてごめんなさい。グランコクマに着くまでルークの言葉はそれに終始し、ある夜混ざった意識を奪われてごめんなさいと、その一言に愕然とした。それまでを当然としていた己の愚かな浅はかさを思い知った。そしてジェイドは漸く己の思い違いに気付いたのだ。
“ルークがヴァンに騙されて超振動を使った”
ジェイドはアクゼリュスから落ちた魔界でそう聞いた。その場にいた当事者のルークでも、何故かいたイオンでも、身勝手な大義を掲げたもう一人の当事者のヴァンでもなく、自分よりも後に追い付いた人間から。
元凶の男の何かを知っていた妹が、元凶の男の部下にして仲間であり散々自分たちを殺そうと邪魔してきた、7年間逃げもせず共にいた被験者がそう言ったと!!
あまりの愚かしさに、その晩ジェイドは喉で押し殺して笑った。泣きながら笑い続けた。
騙されたくらいで、どうやってルークが超振動を使えるだろう。
庶民の知識は当然のこと貴族や王族としての常識すら与えられず、譜術も音素すらも碌に知らなかったルークが。騙されただけで、練習すらしたことのないものを使えるはずがない。ルークは使えることは勿論、その名すら知らなかったのだから。
ルークはアッシュに嵌められたのだと、本来ならそれを真っ先に疑うべきだった。何しろ、アッシュにはルークの体を操り、人を襲ったという事実がある。アッシュは同調フォンスロットを使い、ルークを操ることができたのだから!
そして、自分を殺そうとし一度でもそんなことをしたアッシュをルークが信じないことは当たり前のことだった。ルークがアッシュの言葉をはねのけたのは、当然の判断だった。
補給と報告を名目に早々にグランコクマに舵を切り、二人部屋になった晩、事の真相を聞こうとしてジェイドは本当の意味で己の犯した罪を知った。何をどう言おうとしたところで、アクゼリュスの名が出ると、ルークは自分が悪いとしか言わなくなるのだ。
一度徹底的に責め立てた人間が掌を返して話を求めても、答えはない。何故なら、ルークが何か言う度にお前が悪いと、お前がダメなのだと責め立てられるからだ。自分を守る為にもルークは何もわからないまま全てを自分の罪と決めてしまった。そして、ジェイド達はそれこそが正しいことだと言い続けた。それは人としての尊厳を殺され、洗脳された人間の姿だった。
誤りを正しいとし、正誤を反転させ、罪なき身に罪を押しつけ、背負わせた。今はその結果しかない。ジェイド達が犯した罪の結晶しかない。
初めて、恐らく初めて己の犯したことに恐れながらも筆を取り、事情すべてを詳らかにし、推測を連ね、ジェイドは鳩を飛ばした。
ルークを色眼鏡で見ることなく、穏やかで誠実なひととなりの、そう凡そ己と正反対にあたる人物とふたりきりで真相を聞き出してほしいと。
たとえすべてが、遅きに喫していたのだとしても。
出迎えに立ったフリングスを見て、ジェイドは密かに安堵した。考え得る限りで彼こそが最良の人選であった。同行者を――今となってはどう転んでも仲間などとはいえない――適当に散らし、自身は説明という名の十三階段へ上る為、そして一人残るルークを案内役という名目のフリングスにミュウごと預けた。
ルークの最初で最後の忠実なるものが、最大の砦であり、擁護者であると信じて。
別れ際に交わしたフリングスの眼が酷く複雑そうであったのが、強く印象に残った。
ジェイドが出会いからのすべてを余すことなく洗い浚い皇帝に告げるなか、穏やかな性質のフリングスにそれとない誘導を受けて同じようにそのすべてをルークは語るだろう。何故、国王の命令で軟禁された身が外に、それもマクルト領へ入ることになったのかの、その発端から。本来ならそのときジェイドが聞き、処罰すべきだったその事件から。
願えるなら、その言葉はありのままのルークであるといい。殺される前のルークの心が紡がれるといい。
長く、あまりにも無作法で無思慮で利己的でどうしようもないジェイドの話が今に追い付くまで、皇帝はただ黙って聴き続けた。同席した参謀長と書記官は最後呻くことすらできず、沈鬱に俯いた。
その所業は誰がどう好意的に受けても正しく知ればまさに宣戦布告を受けるに等しいものだ。そうでなければ国の威信に関わるものだ。使者たる者の首を送りつけ、声高に責め立てるべきことだ。ジェイド以外の行いもそうだ。
ルークを除く全員の行いが罰せられて然るべきものだった。罪だと自覚していなければならないものだった。自覚させるべきものだった。そうでなければならなかった。
「ジェイド…」
絞り出すピオニーの声にジェイドは跪いたままより深く首を垂れた。
「間違いなく、私の罪、私の咎です」
「お前だけの罪とは言わん。あの厚顔無恥な同行者に最も罪深い者がいるからな。だが、お前が発端を生んだんだ」
ジェイドの言動を庇うことなどできない。それでは傷つけられ、殺された子どもの心があまりにも憐れだ。
ジェイドが正しくルークを迎え、接したならば防がれたものは多い。あまりにも多いのだ。
今の彼らにできることなど、フリングスがルークの心を少しでも晴らすことを祈る。それだけだった。
Fin
てなところで終わる。わりと早い段階でジェイドが改心できていたら(それでも十分遅すぎる)の話。このままだとジェイドは処刑。国として皇帝として秩序として、ジェイドの言動はそうすべきだから。このジェイドは改心してるから理解してる。ルークをフリングスに預けたときこれが最期の覚悟はしてた。でも、そうはならない。この後目を真っ赤にしたルークをフリングスが連れてきます。すっごく安心する王宮側。
「じぇいどのばーか。あーほ。まぬけ。おたんこなす。れーぎしらず」
大きな翡翠の目を潤ませて、ルークが舌足らずに口にした。実に7歳の子供らしく。ルークが入ってくるなり立ち上がり、その手を取ってルークより目線を下げるよう跪いたジェイドはその幼く、出逢った当初のような許されると信じている口調に、震えそうになる唇を噛んでから、はい、と言った。
「じぇいどは、ジェイドだけは俺のこと、見てなきゃダメじゃねぇか。
ジェイドだけは、俺のこと、信じなきゃダメじゃねぇか。何やってんだよ」
ジェイドのほんのりと冷たい指先の温度を感じて詰れば、「ええ」とジェイドは言った。「ええ、ルーク」と。
真っ先に側に来て手を握ってくれたジェイドを信じたくて、自分を救ってほしいと願ってくれたジェイドを信じたくて。ルークはぎゅと指先に力を入れた。
「ジェイドは俺の父上なんだろ」
ジェイドは譜眼を瞠り、ゆっくりと撓めた。
「ええ。ええ、ルーク。あなたがそれを許してくれるならば」
ついさっき別れるまで、哀しみに苦しみに曇っていた翡翠が明るく澄んでいるのを、奇跡のように思う。
「あなたは私の自慢の息子です」
ゆっくりと微笑んだジェイドは、初めて涙があたたかいのだと知った。
てなことになります。親子フラグ。初の和解です。これまでのジェイドは気付くのが遅すぎて、和解できていないので。これからは親バカに華麗にクラスチェンジです。
フリングス将軍はできたひとなので、全部話を聞いてルークは悪くないと根気強く説明した後に、ジェイドが気付いて心配してあなたを救ってほしいと言ったんですよ、とかネタばらししています。だから親子フラグなんだ。そしてフリルクになればいい。
この後マクルトで、ピオニーが格闘(仕事しろ、皇帝)、フリングスが剣技(アルバート流だけだと不便だし)、ジェイドが譜術(超振動の制御も。念のため暗示の解除も)、吟味された家庭教師が皇族教育をします。教育はするけどキムラスカに帰す気は小指の爪先もありません。髪の一筋ほどもありません。ルークを殺す国だし。でも、マクルトを継ぐはずもないので、ただ本来とるべきだった態度とかの勉強。知っておくのは無駄じゃないから。チチウエ青褪めるといいよ。
ふたりはPT離脱当然だけど、真っ当な軍人が一卒(100兵)が加わります。東西南北に一両(25兵)ずつで情報収集と神託の楯の捕殺。拠点も潰す。つか、世界規模の犯罪なんだから当然。
勿論、ルークがマクルト国籍を持つマクルト国民になることは公式に認めさせます。名前はルキエル・バルフォア。ジェイドもカーテイス姓から抜けたので。で、ルークがレプリカでその技術の発明者がマクルトであり、有事に対応できるのがマクルトであること(ディストは捕獲済みです)。キムラスカ王女のナタリアがレプリカに対し偏見を持ち、被験者の偽物で物のように考えていること。この2点だけでも十分。なんか言ってきてもアッシュとか預言とかで勝てるし。ジェイドの不敬は和平の時に何も言わなかったから許されてるといえるから。
これからはピオニーのストッパーとしてマクルトのアイドルです。PT?ちゃんと処刑されます。
12/12/12
title byユグドラシル