目覚めない夜は   。






この先の未来には、君がいないよ






 失うことがないように、あなたを喰べてしまえたら。


 息をしているのかさえ危ぶみたくなるほど静かに眠る彼を視るのは何度目のことだろうとジェイドはぼんやりと思った。
 仄暗いランプの明かりで酷使した目は眼球のみならず、脳の奥をも突き刺すように痛む。
 明日からの日程を思えば今日はもう眠るべきなのだ。折角の寝台の上できちんとした休息のとれる夜は。そのうえ、眠気がなくとも頭痛がするようになっては効率の面からみても今が潮時だ。
 理性は冷静にそれを告げ、感情がもう少しだけと追い縋る。冷徹に組みあがった理論を崩すにはどれだけの時間を知識に注いでもまだ足りない。
 終わりのカウントダウンが見えてしまう今は、もう。足りないのだ。きっと足りない。きっと間に合わない。
 ヴァンとの戦いを放棄しても、知識を詰め込み実験を繰り返しても。
 解離していくルークを留める術がもうどこにもないことなど、疾うに理解している。理解だけならできていたのだ。ただ認めたくないだけで。納得したくないだけで。
 感情などないようだった己がこうも感情に支配され儘ならなくなるなんて、とジェイドは自嘲した。これまでの過去に己が起こしたすべての愚かな行いに。愚かさのツケが己ではないたいせつな命に依って払われようとしている今に。
 静かに静かに近づいて、ジェイドはルークの呼吸を確かめるように身を寄せた。覗き込むようにすれば垂れた髪が小さく揺れ、漸くルークの呼吸を知ることができる。それほどまでに微かな呼吸。
 まるで死んでしまいたいのだというように。眠りと死は同義であるかのように。ルークを感じさせる生命の輝きは眠りによって失われ、人形のようになる。そうあるように育てられ、利用された、ある意味正しい姿に。
「ルーク」
 吐息に混ざって出た名は涙のようだった。
 能面のように整った顔を晒す彼の布団の下にその体が薄れていたら、その体が消えていたら。思う夜は恐ろしく、ジェイドはもう一度机に戻った。
 少しでもルークを生き長らえさせる手はないかと、そればかりを探して。砂漠で砂金を求めるように。
 ああ、それでも。
 それでも解離して消えてしまうなら。
 彼からほどかれた音素をこの身に取り込めたら、と。
 深更。 そんな研究をしている。





                          Fin
 薄暗いジェイド。そして病んでる。もし、ルークが解離するとかじゃなくて、ただ病気とかでもう絶対助からないなら、このジェイド、ルークの肉を喰らい血を啜る。とろとろになるまで煮込んで骨まで喰らう。一滴だって渡さない。髪はさすがに食べれないからメモリアルジュエリーとかかな。だって、そういうことだ。音素を取り込めたらって。
 そんな魂の底から狂気まがいに愛しても、それにうちのジェイドは気付けても告白できません。つか、させない。ルークの人格を殺した分際で何様か。ルークの命を殺した分際で何様か。同行者どもは当然だけど、ルークを苦しめた常識のない奴等は一人残らず報われずに苦しみ続ければいい。




12/11/18
title byユグドラシル