終わりに絶望。始まりに諦念
憎しみの純化
目が覚めて、何がなんだかわからなかった。
だって、確かに自分は死んだはずだった。レプリカの死は死だって云わないんだったら解離した、でもいい。兎に角、あの苦しくて誰ひとり仲間にも友にも理解者にも成りはしなかったあの世界から漸く解放されたはずだったのに。ローレライの解放が自分の解放と同じだなんて思いはしなかったけれど、兎に角、漸く終われたと思った。
漸く、殺してしまったみんなのことを苦しんで悲しんで、謝っていいんだって思ったのに。なのに、どうして、またここにいるのかわからない。だって、ここは違う。ここは自分のものじゃない。自分のものだって云えたのは本人がそうだって、認めたあの忠実な友だけだった。そのあいつすらいないのに、どうして自分は今 ここにいるんだろう。
漸く死んだ。死ねた。ローレライのうれしそうな声を聞いた。友の鳴き声を聞いた。悲鳴だった。けれど、安堵した。安心した。安らいだ。心の底から笑えた。
二度と目覚めたくなかった。
「何だよ、コレ」
ルーク・フォン・ファブレのレプリカはファブレ邸の自室と思っていた部屋にいた。
「公爵。俺はレプリカで貴方の息子じゃありません。オリジナルルークを取り戻し、残り少ない時間を家族で過ごされるがよろしいでしょう」
記憶のみならず、生活に必要な学習すらもすべて忘却して戻ってきた息子が、3年の月日を経て告げた言葉にクリムゾンは目を見開いて固まった。
「ルーク?」
記憶を失う前でも、赤子のようになり貴族的とはいえないもののそれなりに話すようになった今のルークとも違う。色濃い諦念と絶望をブレンドした眼であり、声のルークにぞっとするものを覚えて、名を呼ぶ。
「それは俺の名ではありません。俺はただのレプリカ。被験者が望みを叶える為に作ったヒトガタの道具。
前回、勝手に作られ、使われ、壊されるしかなかった居場所のない同胞と同じ、ただのレプリカ。ヒトあらざるモノです」
淡々と無感動に言葉を綴るルークに目を合わせ、クリムゾンは改めてルークと名を呼んだ。
「それでもルーク、お前はルークだ」
万感を込めて告げた言葉にルークは首を傾げ、ああと納得した様子を見せる。
「つまり予言どおりにアクゼリュスと滅ぶまでは代替品を使うということですか。それならそれで被験者に話しておくべきではありませんか」
そういう用途のものなのだろうと感情を波立たせることなく、2018年に代わりに死ねばいいのかと言ったルークの手を強く、クリムゾンは握った。
「違う、そうではない。そうではない、ルーク。お前は誰かの代わりではなく、お前という一人の人間として生きていいのだ」
通じてくれと願った言葉が通り抜ける。ルークは先程とは反対に首を傾げた。
「申し訳ありません、公爵。公爵も混乱しておいでなのですね。一晩経てば落ち着くと思いますので、本日はこのままルークとして部屋に行かせていただきます。
アクゼリュスまで俺を使うのか、被験者ホンモノを戻すのか、明日改めて伺いに参りますので」
「ルーク!」
一礼してさっさと去ろうとするルークを立ち上がって引き留める。加減し損なった腕を握る手の力も切迫した声も、あまりに必死だった。
まるで幻を摑むように、今離れれば露と消えてしまうかのように。
「ルーク、聞いてくれ。お前がルークなのだ。お前が私たちのルーク・フォン・ファブレだ」
取り縋るようにクリムゾンは懇願した。このようなクリムゾンを他の誰も知らないだろう。
「ファブレをひいてはキムラスカを捨てたアッシュがルークなのではない。アッシュはルークだった。だが、アッシュはルークだった己を自ら捨てたのだ。
だからお前はルークを奪ってなどいない。私たちファブレがお前をルークにしたのだ。何にでもなれたお前をルークにしたのだ」
「父上…」
必死に言い募ったクリムゾンの言葉にあるはずのない名を聞いて、ルークは思わず父と呼んだ。父と呼んではならないとクリムゾンの前に立つ前に誓ったのにも拘らず。
「ああ」
だが、クリムゾンは漸く父と呼んでくれたルークに安堵したように息を吐いた。本来ならば、あの時、言うべき言葉だった。惜しんだつもりはない。だが、後手には回った。それが生んだ結果を呪っている。今も。
「そうだ。お前は私たちの子どもだ、ルーク。
最早二度と、お前を世界の贄にはすまい。お前だけに愚かな人間の尻拭いはさせまい」
深く深く息をついて、クリムゾンは小さなルークを抱きしめた。
父上に抱きしめられるのは初めてだなとルークは熱っぽくなってきた頭で思う。このルークとはそれなりにはあったが、自覚の終わったルークにとって、父親に抱かれるというのはなかなか未知の経験だ。
ルークにとって、父とは触れないところにいる自分を見ないものだった。
抱きしめられて、己はどうすべきなのか。ただ抱き寄せられるに流されたままルークは改めてクリムゾンの言葉を思い出す。
そう、クリムゾンの言葉には看過してはならないものがあった。
まるでアッシュを、以前はあんなにも必要とされたオリジナルルークを切り捨てる言葉があった。まるでこの世界そのものを疎むような言葉があった。まるで人間を厭悪するような言葉があった。
「父上?父上も、憶えて?」
確かめるように顔を上げ、諦めと絶望を宿すルークの瞳にクリムゾンの希望と憎悪と歓喜が煌めいて映った。
Fin
逆行・諦念・絶望ルークがクリムゾンを滅多切り。の予定が、なぜかクリムゾンまで逆行して寧ろルークがたじたじです。なんでだ。
ルークの死んだ後、酷かったでしょう。奴ら。あっさり元に戻りそうだし、所詮他人事だし。そもそも常識違うし。
尊い命の犠牲は相変わらず蔑まれ、クリムゾンぷつんする。きっと変わり映えなくルークの最も軽い罪を最悪の罪人かのように軽口のように罵った。キムラスカで。クリムゾンらの前で。子を失った親の前で。自らの罪を欠片も意識することなく、さも自分たちは素晴らしき英雄であるかのように。
で、ぷつん。ラジソゲート?で呪いました夫妻。気がつけばヴァンがルークですとか言ってたという。
このファブレは淡々と王家簒奪を狙ってます。というか、クーデター。首魁になるつもりはないので真っ当な民思う政治家やりながら密かに種蒔いてる。
12/09/27
13/06/06