揺り籠の守人になれたなら
最後から二番目の願い
ああ、あなたは今、意識を持ってこの光景を見ているんでしょうか。
違うといいと思います。眠っていてくれればいいと願います。
しあわせな夢を、と。
耳を劈く轟音にディストは眉を寄せた。右手前方に展開する青の軍服の向こう、そこでどれほどの惨劇が幕を開けたのか、そんなことに興味はない。
ただ、この荒れ狂うような音素を視るに彼の男の一切手加減のない一撃が放たれたのだろうと推測するのみだ。だが、間違ってはいまいと、否、それが事実以外の何物でもないとディストは知っている。こうなった世界であれだけの術を持つのは、己と彼の男のみだ。
最も愛した存在を奪われ、二度と幻すら見えないことを誰よりも理解するしかなかった、ジェイドと己のみだとディストは知っている。
先程の一撃の衝撃波が己の立つ所まで届くのにディストは嗤った。漏れた嗤い声は風の強さに紛れてディストに分け与えられた分隊員には聞こえない。
あなたを殺した存在を。
――ルーク
許す気は音素たちにもないようですよ。
――あなたはこんなにも愛されているのに
囁いて目を閉じる。張り裂けそうなまでに哀しい。
――ジェイドや私のような人間をこんなにもにんげんにしてくれた大切なあなた
再び高濃度の音素が集まるのを感知してディストは唇を吊り上げた。
ルークを殺し、奪い、罵り、蔑む。そんな偽物など不必要も甚だしい。不要なものは不要なものらしく、もっと早くに死んでいればと思わずにはいられない。そうすれば、あの子の感じる恐怖は僅かなりともやわらいだだろう。あの子に押しつけられた感じる必要のない罪悪感を減らせただろう。
愛する子どもの名を騙り、行いに与えられた存在の証明を掠め取った身で、その名で真逆の罪を為す紛い物。あの子の功績を奪い取り、己の罪業を恥ずかしげもなく擦り付けた卑怯者。
とはいえ、あの被験者の本性を見ればこの行動は簡単に予測できる。何しろ、奪われたと取り戻したいと声高にあの子を罵ったくせに、本来ならば自分がいた場所だという自国の民を徒に殺し、蹂躙し、国に債を負わせたならず者だ。
愚かなことだ。あまりにも愚かなことだ。愚かな国で愚かな民で、愚かな王だ。キムラスカは。キムラスカは。
こんなではあのいとしい子があまりにも哀れだ。
「ネイス博士」
声高に嘲いたいのを抑えていると補佐につけられた軍人が捨てたはずで、あの子が拾ってくれた名を呼ぶ。あの子が大事に守ってくれた名を呼ぶ。
「ああ。いい様子ですね。では、作戦通りに行きましょう」
ジェイドの攻撃で笑えるほど簡単に崩れたキムラスカ軍を遠目に視認し、ディストは頷いた。これに補佐の男が部下へ号令を下す。この補佐こそが指揮官であると見えるかのように。
他の人間たちは補佐のことを監視か何かと勘違いしているようだが、この男は正真正銘ディストの補佐だ。ディストの構想に円滑に物事が動くよう、補けるのが仕事だ。
兵が隊列を直すのを見やって、ディストは再び一方的な蹂躙の場となる戦場に目を向ける。そこにいるであろう赤い髪の紛い物を引き裂く愉悦に嗤った。
Fin
前回のジェイドのディスト版。この二人の時間軸はほぼ同じ。あとがきで名前を出したので書いてみた。
ルークがいないのでおかんディストっぽくないディストです。きっとこれが死神ディスト。作中の愛してるはおかん的愛です。しかし本人は父親だと主張する。
しかし、ジェイド(化け物・前作参照)が前線なのにダメ押しでディスト(化け物)も投入してるあたりピオニーは本気です。キムラスカはぷちっと潰すよ。
ちなみにディストがネイス博士なのは作中にもあるようにルークが言ったから。「3人とも、ちゃんと大事だろ。折角幼馴染みが一緒にいられるのに…」て哀しげに言われたので。ディストはマクルトで刑に服してるけど、王命に従うと刑期が減ります。釈放されても首輪は付けられてる状態だけど。
後、補佐はディストの言ったように本当に補佐です。ただ、昔は軍属だったけど亡命してたし、軍人に対して命令権持ってないので間に補佐が入ってます。人選はマクガヴァン将軍から。
12/10/25
title by確かに恋だった