死に至る棘
凌駕した未来の先端から
常のように目を覚まし、日付を確認。窓からまだ暗い空を見上げ、浮かぶ音譜帯の数をかぞえた。
「嗚呼。感謝します。感謝します、―――――」
転がるように零れ落ちた言葉を知る者はいない。
見上げた目から流れたものを知る者は、いない。
栄えあるキムラスカ=ランバルディア王国の重鎮たるファブレ公爵家に仕え、主君の為に働くことを苦としたことなどない。全幅の信頼を公爵より預けられることを誉とこそ思えど、その意思に反しようなどとちらとも思ったことはなかった。
ただの一度も。
あまりにも無情であると、無知で愚かであるように育てながら、そのことを認めることさえしない主君を無情だと思う心を沈めた。反発ではない、そんなものではなかった。いうなれば、嫌悪だった。主人に対して認識することの許されない、それだけが唯一の嫌悪であり、自身が死ぬときまで苛み続けられることとなった抜けない棘だった。
死の間際の、死ぬきれぬ後悔だった。
素直なお子だった。己に素直であり、己に対する者にも素直だった。鏡のように向けた感情は返された。
碌な教育を受けさせてもらうことも、学ぶ術を失っても、本質は決して愚かではないお子だった。むしろやさしく聡いお子だった。
けれど、どうしようもなく幼かった。稚い心だった。当然なのだ。当然だった。そう育てられたお子は。お子は10歳の姿でも赤子と同じだった。ならば古くよりファブレに仕える口の堅い者に一から赤子と同じように育てさせればよかったのだ。間違っても礼儀を弁えぬ使用人に任せていいはずがなかった。お子を少しでも思うならそうすべきだった。
だというのに、それを怠ったが故に、悲劇は連鎖し、稚いやわらかな心は擦り潰され、失う必要のない命が奪われ、道具のように消費された。否、道具だった。
誰一人とて、それを悔やむことも惜しむこともなく、お子は何一つ報われることなく名も命も心も、為した何もかもを失った。二度と目にすることはできなかった。
そうして、怒涛の時を過ごし、お子が失われたことによって自身の忠心がファブレから失われていることを知った。それでも現公爵が在位の間は最後の責任と仕え、代替わりに年齢を理由に暇を求めた。アレに仕え、頭を垂れることはできなかった。
バチカルを離れ、内々に妻に保護させていた何人もの子どもたちと死の間際まで共にあった。己が刺した毒の棘は抜けぬままに。
後悔して、死んだ。
だからこそ。
「おはようございます。ルークさま」
太陽が昇り、十分に明るくなってから部屋付きのメイドを下がらせ、声をかける。
「おはよ、ラムダス」
今ならば正しく知っている、生まれてからまだ1年の幼児は常とは違う人物の、けれど心ある挨拶に不思議そうにしながらも小さく笑って言葉を返した。
以前、7年かけて失わさせられていった素直なやわらかな心と笑顔で。
Fin
死んで逆行したラムダス氏の述懐。唐突に戻った(しかも生き返って)わりに動揺が少ないのは当人の弁の通り後悔一入だったから。ラムダスは公爵家で執事をするような人なので、子と国を天秤にかけて国を取ることには何も言いません。王族に連なる貴族なわけだし。ただ、戻ってきた“ルーク”への態度に何とも言えない不快感があり、教育しないのに失望したり、都合がいいと無知なままに殺そうとしたことで、忠心がなくなった。本来は、王族として国と民の為に死ぬ覚悟を教えるべきだったし、命の期限を作ったならある程度の自由を与えるべきだった。それができなかったキムラスカ上層部は預言のルークを命じゃなくて道具として扱ってたとしか言えない。
クリムゾンの頃は従ってきた(見殺しにした一員)責任もあって仕え続けたけど、アッシュには死の預言から逃げてルークに押しつけて被害者面したり、ルークと違ってファブレにいた時は教育を受けていたのに国の財産を害して自覚ないし、貴族にあるまじき姿(礼儀とか言葉遣いとか諸共)で、嫌悪感が強くてファブレと縁切り。
瘴気の中和の時のルークの願いを知って、穏やかな田舎に広大な敷地を手に入れて(執事は給料いいはず。公爵家なら)奥さんに差別されてるレプリカを保護して育てるよう頼む。この時はまだファブレに仕えてるので。良妻賢母な奥さんは旦那がファブレを見限るまで子どもたちとにぎやかに待ってました。
というのが逆行前の話。で、第七音素師だったラムダスのルークに対する隠れた父性とか愛情とかを彼が死んだ際に拾ったローレライは「我が子が殺されぬよう、今度は主が育ててくれ」と逆行させます。で、後悔という毒で死んだラムダスは厳しくも愛情を持って接し、勿論きちんと教育します。むしろ「以前学ばれたところまで私がお教えいたします」とダメカテキョどもをシュザンヌ夫人に報告して追放させます。そのままぶんどる。
ラムダス自身ローレライに言われずともルークのことを愛しているので、このルークの環境はかなりいい状態になります。ルークにいい感情を持ってない使用人は当然遠ざけられるし、記憶喪失が理解できないのも同様。改善の見込みがない使用人は辞めさせられる。仕える者としてなってないんだから当然。公爵家を馘首された人間という事実のレッテルはっつけるので、再就職も不可能。いいことだ。
最終的にルークの心を殺したのはアクゼリュスの私刑だけど、ファブレ家での7年間でルークのやさしさは失わされていったと思う。
実の親子より親子らしい愛情深い関係を数年がかりで築き、ルークの信頼も尊敬もがっつりで不動の地位を得たところでまず、ルークにレプリカのことを教え、それでも変わらないと伝えます。不遜ながら我が子のように思っておりました。と。このルークにとっても家族はラムダスと奥さん。奥さんはまだ幼いルークの為の世話係。ルークがレプリカのことを落ち着いて受け入れられたら公爵に話す。
13/01/08
title byユグドラシル