先を制す一手






ヒーローのいない物語






 以前の記憶は戻らないものの、年齢に見合った教養・知識・政治などを自分のものとしたルークに、ラムダスはおだやかで真剣な表情で告げた。
 それは折よく3日前、鮮血のアッシュの噂話が持ち込まれていた。



「旦那様に内密にお話が」
 登城のなかった午後の休憩が終わろうという頃、ラムダスはメイドが下がったのを確認してから声を低めた。
「レプリカ?」
「はい。旦那様もご存知のとおり、ルークさまは外に出られぬ代りにと様々な学問書を読んでおられますが、そのなかの一冊にあった生体レプリカの特徴にご自身が当て嵌まると仰せなのです」
 ラムダスはルークにレプリカのことを話す際、いくつか口裏を合わせるよう約束した。
 一つはレプリカと気付いたのをルーク自身とすること。だがこれに関しては事実ルークも察していたらしい。ただ、読むうちに恐ろしくなり本も途中で読むのを止めてしまった。レプリカでも確かに自分が愛されてるとわかった今、改めて読み直している。
 二つはオリジナルルークと思しき存在を告げ、そちらの保護を進言すること。
 三つは二つ目を前提とし、“ルーク・フォン・ファブレ”を二度と名乗らず髪の色を変えるので生きたいと願うこと。自ら告げることでファブレに類属するものに執着するつもりがないと示すのだ。そしてこれは、ラムダスにとってもルークを引き取るうえでの布石でもあった。
「それは真なのか」
 厳しく表情を引き締めたクリムゾンにおそらくは、と肯定する。
「私も妻も不見識であった為、ルークさまに起きていたことは不思議と思うも、珍しい体質なのだと思い込んでいたのですが、お体から離れた御髪など、確かに消えるそうなのです」
 難しい顔をして黙りこんだクリムゾンに追い打ちをかけるように続ける。下手に冷静になられ、レプリカの処分となっては何の意味もない。
「それに」
 深刻げに一拍置き、
「先日、行商の者がダアトで16,7歳の赤毛の男子を見たと。
 それは目の覚めるような赤だったというのです」
「待て。それが攫われたルークだというのか」
「おそらくは。ダアトといえばお屋敷にいるルークさまを発見したというグランツ謡将の膝元です。誘拐救出が謡将の自作自演の可能性が高いかと」
 ラムダスの報告にクリムゾンは唇を震わせた。それは動揺か虚仮にされた怒りかわからない。
「何故、マクルトではないと思う」
「彼の行商人はこうも申しました。神託の楯の軍服を纏い、顔を隠すように仮面をつけていた、と。ただぶつかりそうになって覗いた目は緑だったと思うと。
 私とて行商の言葉を鵜呑みにすることはできないとは思います。ですが、ルークさまと同じ年頃のキムラスカの貴色を有する男子がいるならば、これをご報告しないわけには参りません。況してや男子がいるのがキムラスカとファブレが秘したルーク様の誘拐を何処からか嗅ぎつけ、頼んでもいないうちに公爵家が有するコーラル城に不法に侵入した挙句、ルークさまを発見したなどと連れてきたダアトの人間。他国の者でありながら10歳以前のルーク様と面識があり、慕われていた男などと、怪しいとしか」
 そのうえルークと思しき色彩の物がダアトの神託の楯、すなわちヴァンが統括する組織にいるなど、偶然とはいえまい。
「それにルークさまが仰るのです。謡将はルーク様が背を向けると酷く冷たい蔑むような見下すような視線になると」
 その報告にクリムゾンはただでさえ深かった眉間に更に力が入るのがわかった。ルークが感じるという視線を向けられた、それだけでいくら高官とはいえ不敬罪で処刑することができる。確かに戻ってきてからというものの、あれほど慕っていたにも拘らず、ルークはヴァンに近寄りたがらなくなった。ヴァンが訪ねる稽古日を喜ばなくなった。
 ファブレは国難には先頭に立って軍を率いるが、だからこそルークには個人技よりも指揮官としての勉強を求められるのだ。個人としての技量は日々鍛錬を積む軍人に及ぶはずがない。本来ルークの立場で必要とされるのは的確に彼らを使い、軍の先頭にあっても弱さを見せない胆力である。
 ルークは兵略や戦術を学び、譜術や一通りの剣を修める。剣などは騎士団の手錬に学問の合間を縫って鍛錬を受けている以上、正直なところ上達させる気がないようにしか見えない上に時間ばかりとるヴァンの剣術という名の稽古事は何かと騎士団長からの報告も上がっていたのだ。
 まるでルークに好印象と親しみを持たせるかのような身分を弁えぬ言動と共に。
「しかし、それが真実だったとして、何故ヴァン・グランツが」
「そこまでは。ですがグランツ謡将が絡む以上預言によるものではございませんか」
 ラムダスの言葉にクリムゾンは思わず黙り込んだ。ラムダスはクリムゾンの腹心ではあるが、国益に関わるルークの預言については教えていない。だが、ローレライ教団が絡むのであれば、それを想像させるのは確かに預言しかないのだ。
 ルークに対する預言になかった誘拐騒ぎのことを思い出し、その先の繁栄を僅かに訝しみながら、クリムゾンはラムダスに続きを促した。
「ともあれダアトに人を遣り、その男子がルーク様であるのかを調べねばなりません。そしてルーク様であるならばお帰りいただくべきかと」
「ならば邸にいるルークはどうする」
 6年間も自身の子どもではないと気づかなかったなどと外聞が悪い。赤子が取り換えられたのならまだしも、当時10歳である。当人が記憶喪失と診断され、話すこともできなかった以上見分けることのできなかった親側の責任。政敵から格好の餌食になる醜聞である。
「彼の者が攫われたルーク様であるならば、ルークさまのことは周囲の目を欺く為の影武者であったとすればよろしいかと存じます。
 ルークさま自身の意思ではない以上殺すには忍びなく、ですが外に出すわけにも参りません。これも何かのよしみ、妻に親しんでおりますので旦那様のお許しを頂けるならば名を変え、髪の色を変え、私が引き取らせていただきます」
 これまでルークの世話をしていたのはラムダスの妻であり、戦略や政治の専門こそ本職の人間に任せたがルークの面倒を見続けたのはラムダスといってもいい。そして、ラムダスならば公爵家の不利益になるような放言はないと信頼できる。
「考えておく」
 言って机に向き直ったクリムゾンに深く一礼をしてラムダスは静かに部屋を出た。





                      Fin
 保護者の暗躍。クリムゾンをがっさがっさと揺さ振ります。ラムダスの優先順位が素で公爵家よりルークになっているっていう。
 ラムダスはルークを預言の贄にする気はないので、アッシュを戻した後もし秘預言の話をされても、ルークは2000年生まれではないからって拒絶です。誘拐されて生まれたレプリカなので、2010年生まれ、預言の成就にはならないって。我が子を殺そうなんてとんでもありませんから!ルークはファブレを出てルーカスとかルーキスとか、そんな感じに改名。
 この設定ではラムダス夫妻に子どもはいません。いたんだけど死んでしまった。じゃないと赤子状態の面倒見るのは大変だと思う。体は10歳児だったし。
 あと、ルークは本編のヴァンなんか目じゃないくらいラムダスに懐いています。ラムダスは物理的にはそんなに強くないけど(いざとなれば刺客と刺し違えるくらいはできます)、ルークの基盤となるものを作ってくれた人なので。蔑むことなく、急かすことなく、比べることなく。ルークをルークとして向き合って、守ってくれた人なので。厳しさも愛情だと知っているし、ルークの側にいて後回しになった仕事を深夜にこなして、でもそんな素振りは全然見せない。
 ついでにここではラムダスが意図的に夫人にルークと接触させてきたので原作よりももっと親身な愛情を夫人は持っています。ぶっちゃけ愛情もアッシュ≦ルークな感じ。ツンデレない素直な感情を示すルークに夫人の側仕えのメイドたちを筆頭に使用人たちはメロメロ。でもガイは近づけさせない。復讐者だし。ルークにとっても、公爵は遠いけど、夫人は身近な人です。ガイは目とか雰囲気とかすごく怖い時があって好きじゃなくなった。ナタリアは相変わらず原作通り。
 ルークの好意はこんな感じ。
ラムダス>ラムダス妻>>母上>>騎士団>ペール>メイド・使用人>>>>>>>>ガイ>>>>>>ヴァン>>>>>>>ナタリア>>>父上




13/01/10
title byユグドラシル