ただひとりの半身






消えない、消せない、君の跡






 零れ出た声は呪いに似ていた。
 ああ、と。
 二度と目覚めないことを祈った。
 世界の終焉を願った。
 あぁ、ああ!ああ!!
 こんなにも薄汚い世界もイキモノも。
 皆みんな滅んでしまえ。



 呪うような呻き声と血のような涙が溢れていることに本人だけが気付かなかった。周囲の人間が慄くように怯えるようであるのに、そんなことは何の関係もなかった。
 己の裡に入ってきた7年分と少しの記憶が、感情が、想いが。すべてだった。すべてだった。これまでの何もかもを覆す目を覆いたくなるような事実だった。心を切り裂く事実だった。
 救いは何処にもなかった。傷つけられ、殺されかけた子どもは何度も傷つけられ、何度でも殺された。殺され続けた。生きることは傷つけられることでしかなかった。殺される為に生きていた。
 遥かなる空で、子どもを殺された親の哀惜と憎悪が揺らめくのを当然と感じた。
「すまない。すまない。ルーク」
 アッシュから呻き以外の声が出たのは謝罪と彼が憎んだはずのレプリカの名前で、レプリカとしか呼ばなかった存在の名前で、旅の同行者たちは怪訝そうに眉を寄せた。
「お前が愛した世界も人間も、俺とアイツは呪う」
 アッシュの独白へ、ナタリアが心配そうに、ガイが恨みと憎しみを込めて、ティアとアニスは気味悪げに、ジェイドが理解と諦念で。
「お前を殺したすべて。星も世界も人も俺も。死んで贖え!」
 突き立てたローレライの鍵。
 惨たらしく滅べと星に願った。
 ルークの心が守られるようにと願った。
 解離する瞬間聞えた声がやさしくて、本当は何も変わっていなかった。何も変わる必要なんてなかったそれがいとしくて。アッシュは泣きながら小さく笑った。
「ルーク」
 気がつくのが遅かった。理解するのが遅すぎた愛しいものを抱いてアッシュは消えた。
 そして星は願いを叶えて世界おのれを殺した。
 その一年後のことだった。





 そして目を開ける。
 見慣れた天井。
 言われるまま、憎しみを自分勝手な恨みを募らせた部屋。
 カレンダーを見る。預言が動き出す、きっかけの日。微温湯のような死ぬために守られていた籠から連れ出された日だと記憶が言う。
 殺したくなかった命たち、助けたいと願い殺してしまった人たち、守れずに殺されてしまった人たち。哀しいと苦しいと恐ろしいと思うのに、そのすべてを馬鹿にされ、叱責されたことに怯えて竦む。無垢な心が傷ついて泣く。もう一度殺すのかと泣く。
「大丈夫。大丈夫だ、ルーク」
 自然と零れた涙を拭い、アッシュはおだやかに宥めるように、抱きしめるようにやさしく囁く。
「俺がルークおまえを守ってやる」
 そう囁きながら、涙がまた零れ落ちる。
 今は過去なのだとアッシュは理解する。誰の仕業かもわかる。今度は間違えずにいられるとも思う。けれど、けれど!アッシュの裡にはルークの心がある。記憶がある。絶望のまま、世界の滅びを願ったそのときのままに。ルークの、傷ついたルークがいる。
 ならば、たとえここの今いるルークを救っても、アッシュのルークは傷つき殺されたままなのだ。殺すことを哀しみ苦しみ、己の存在・心・そのすべてを否定され殺されたルークはそのままなのだ。
 このルークをこそ助け、守り、救いたいのに。そう思えばキラキラとふわりとやさしいものがアッシュの心に触れた重なった。





                        Fin
 アスルク?いえ、アッシュ→ルークです。
 ローレライ解放後、解離したルークが大爆発の影響下でアッシュの中に吸収されたら、な話。
 自分が思っていたのと真逆な上、更に悲惨で非常識なアレコレにぷつんときたアッシュの話。滅びを願って自死したら逆行。襲撃の日だとルークの記憶が言って、ルークを救えても、救えないことにアッシュ絶望。だって、解離したルークがまだアッシュの中にいるってことは今いるルークはアッシュが救いたいルークじゃないから。でもルークには違いないから助けていくと、あり得ないアレコレを目の当たりにする。ルークの記憶映像よりひどいんだけど、ルークに驚きはなくて、どうやらその後にあった痛みで記憶が抜けてるとわかる。そういえばこうだったな、みたいな感想が浮かんでくるから。
 それでアクゼリュス。いろいろ邪魔とかはしたけど、所詮キムラスカが預言脳なので。崩落はヴァンがルーク作成時に暗示を掛けてたのでそれをやられました。でもアッシュが手を打ってたので住民は避難済み。マクルトにジェイドの反逆っぷリとダアトの従えない上司命令の一部を報告した上、ダアトの真っ当側からの救助でタルタロスは内々に収めた。勿論、命令者とスパイと実行者(ラルゴとリグレット)は差し出す。アクゼリュスの死者はルークの所為になんてできない瘴気障害やら伝染病やらで死んでた人くらい。
 で、アクゼリュス崩落で同行者どもがぎゃあぎゃあ言ってる時、崩落に巻き込まれた人の為の魔物を連れたアッシュを見てルークがありがとうアッシュってふんわり笑う。ちなみにアクゼリュスに何らかの預言があるらしいとマクルトにちくってたのでマクルト軍がダアトへの目くらまししてた。瘴気には薬を使って、人員をこまめに交換して。彼らがごちゃごちゃやってる間に軍人は逃げる手はずになってた。
 ルークにお礼を言われて、自分のルークがここでのルークでもあったと知る。アッシュに守られた心がルークに戻った。ここで戻ったのはアクゼリュスがターニングポイントだったのと、アッシュにこいつらにルークを責めさせない確信があって、安心したから。ルークの心はアッシュがずっと大事に抱えてたので、ここのルークは本当に人形のようだったという裏設定。
 で、まあ。大団円です。同行者は全滅ルート。ルークはアッシュともどもマクルトに亡命。アッシュの邪魔工作の一環でライガクイーンが生きてるのでアリエッタとヴァンの計画の穴とルークの実情を見せて復讐よりルークを幸せにしようとシンクを口説き、仲良く暮らしてる。ディストはとっ捕まえて、ピオニーに丸投げ。でも、生きた年月の違う被験者とレプリカは同じものにはなれないと伝えてる。でも基本ピオニーに丸投げ。マクルトに亡命した後のルークと会って親心が芽生えるんじゃないかな。




12/04/05