或る逆行者の悔恨






後にも先にも君だけだ






 ごちゃごちゃと、本人にしかわからない自称整頓されている部屋で、ホットミルクを啜りながらアニスは心配そうな顔を隠さない。
「ディスト。どお?」
 派手で独特のセンスだった前とは違い、シンプルな黒の上下に白衣を着るディストへ、ある意味において一番の肝となる問いを発する。
「経過は順調ですよ。このままなら2年後までには個体振動数に明確な差ができます」
 繰り返す実験の結果からの予測にディストも満足げに笑う。それにアニスは大きく息を吐いた。
 ルークが生きるのに必要なもう一つ。完全同位体であるルークについてまわる死の影。大爆発回避の成功だった。


 シンクにルークのことを頼み、アニスが目を向けたのは2年後に戻った完全体のルーク・フォン・ファブレという無慈悲な未来の現実だった。ルークの体にアッシュの意識という無残な未来だった。レプリカの体を奪うオリジナルというのは、解離と等しいルークが抱えさせられる恐怖だ。
 これをどうにか解決しなければならないが、アニスにはその知識はなく、最終的にはどうあれ今のジェイドは接触できない以上に信用ならない。
 ならば、頼るべきは前にも一定の交友を得ていたもう一人の天才。
「ディスト」
 食堂にいた男は見慣れぬシンプルな黒衣を纏ってアニスを研究室に案内してくれた。


「ディストまで戻ってるなんて、びっくりしたよ」
 成功の兆し、というより既に微細な変動が確実に出るようになっていると聞いて、漸くアニスは慣れたような軽口を叩く。
 接触したその日は今と同じ場所でアニスがどう大爆発について頼もうかと言いあぐねていたところ、当然のようにルークとアッシュの大爆発かと問われ、反射のように助けてと叫んでいた。
 戻ってからずっと、アニスは誰かに助けを求めている。だがそれを情けないとかみっともないとか欠片も思わない。寧ろ、そう口に出せる今が誇らしいと思った。そう頼める自分を好きだと思えた。
 今にして思えば、前の時、思い切ってルークに頼んでみればよかったのだ。媚びなくても素直に事情を話せば、ルークはきっと大変なんだなと言って助けてくれた。そんなやさしさと素直さを、ルークは最初も見せていたのだから。
「私としては貴女が戻っていることに驚きましたよ」
 ディストとしては戻るなら記憶を喰らったアッシュだと思っていた。彼はローレライに近く、何よりも知ってしまえば7歳の子どもがああも変質させられた事実に耐えられないだろうと思っていたからだ。だが、5年経った今もその傾向は見えない。
「だって、気づいたから。わかったから。どれだけ私が、ううん。私たちが酷かったか」
 醜く、愚かだったか。
 息をすることが苦痛だった。後悔という言葉では足りなかった。生きている己が慄しかった。
 うっそりと暗い声でそう答え、アニスは気を取り直すように訊いた。
「それよりよくアッシュの個体振動数なんて変えられたね」
 先日はアニスの動揺が酷くて方法までは聞けなかったのだ。
「当然でしょう。この5年間、健康診断と偽って定期的に譜業に掛けていましたから」
 さらりと言い放たれたその実鬼畜の所業に思わずアニスは一瞬固まった。だが、思えばディストもケテルブルク出身のあのジェイドの幼馴染みである。そう思えば別に珍しいことでもなかった。
 そしてアニスが望むのはアッシュではなかった。
「変動させられるのは何度か確認しましたし、このまま数値が大きくなるようにしてアレが始まる直前にでも適当に固定させます。早いうちにすると何かのはずみでバレるかもしれませんし、今は譜業で強引に揺らしているので放っておくとある程度戻ろうとするようですしね」
 ついでこれからの展望まで語ったディストに敵でなくてよかったと、普通のディストの恐さにアニスはゆっくりと頷いた。





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 予定外にディストも逆行してみる。アニスの弁舌じゃ引き込むの無理なので。だって、ネビリムのこととか信用性ないし。信じてもそれならって抜けられたら終わりだし。
 なので、いっそのことディスト自身も逆行。非常識に見えて常識家だったディスト(雪国時代が関わらなければ)がアクゼリュス前と後のルークの変質に、7歳の子どもに何をしたんだと実は嫌悪していて、地道な聞き取り調査。
 非常識な上に犯罪の数々に各国上層部に談判。こんなことをした奴らを英雄だなんて!と。上層部もそのあまりにもあまりな数々に(ちゃんとそれぞれ調べてみたら簡単に話が聞けたよ)、有名無実からじわじわ権限諸共削って犯罪者に突き落とすと約束させました。きちんと正しく反省して見つめ直せたら、一応そこの削られたところで免除される。ディストは談判したとき正直全員自滅すると思ってた。
 結果、ジェイドは軍位剥奪。但しレプリカ保護と彼らに対する正しい知識を常識化するためある程度の権限を許された。その為だけの。アッシュは血筋の確かな若い王族が他にいないので一応国王だけれど、議会の発言権が高い。この二人は当人が後悔真っ只中なので粛々と受け止めた。アニスは除籍喰らう前に自省のあまり衰弱死した。日記に後悔と謝罪と謝罪と後悔が延々と病んだように書かれ、ちゃんとお墓に入れた。ぶっちゃけ、かなり病んだ。残りは投獄されて処刑された。
 ディストはレプリカの音素を安定させる為の譜業とか、いろいろレプリカの役に立つ譜業を作った後に処刑されてる。データはシェリダンに渡された。なので彼らの末路は知らなかった。




13/06/24
14/07/08




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