あなたのためのたったひとり






慟哭の獣






「お願いしますッ」
 アリエッタに頼み会わせてもらった相手に、アニスは何も言わせず土下座して縋りついた。アニスが知る限り、本当の意味でルークを知ることができるのも、その心に添えるのも、シンクだけだ。
 己は空っぽの道具だと世界を被験者の世界を憎んだ人。
 どれだけ守りたいと動いても、きっと守りきれないルークを、アニスとは違う手で守れる唯一人。
「どうかどうか、使い殺される為だけに生み出された子どもを、否定のなか檻の中必死に強がってるルークを助けてください。
 お願いします!お願いします!!」
「シンク。お願い、です。アニスと、ルーク、助けて」
 アリエッタもアニスの隣で頭を下げる。仲が悪いと思われた二人の思わぬ姿に驚く。だが、それ以上に驚くべきことをアニスは口にした。ヴァンの一味しか知らないはずのルーク・フォン・ファブレの秘密。モースにもまだ教えていないそれをたかがモースのスパイが教えられているはずがない。
「どういう、意味」
 アニスの言葉にあった望まれた存在のレプリカへの扱いも、アニスが知っている事実も、看過できるものではなかった。
 そして。
「それをアリエッタ、アンタは信じたの」
 あまりにもあり得ない、アニスの荒唐無稽な話。でも、妄想と呼ぶにはあまりにも痛々しい悲劇的な現実だった。レプリカルークにとってだけ。あとは英雄という名を無理やり用意して被った醜悪な被験者にんげんの話だ。穢らわしいイキモノの話だ。無神経で愚かな話だ。罪を被せて、いじめ抜いて、たった一人を生贄に殺した話だ。
「はい。だって、アニス泣いてた、です。すごく泣いて、死んじゃいそうだった」
 魔物の中で生きた嗅覚がアニスの真実の絶望をかぎ取った。混乱しなかったわけではないけれど、その後すぐに守護役を解任され、すとんと納得した。やはりあれが事実となるのだと。
「アリエッタ、助けたいです。今のイオン様も、アニスも。ルークを傷つけて人形にして、殺すのは、嫌です。ルーク、一人で俯いて、幸せそうじゃなかった。です。5歳なのに」
 シンクは顔を覆って大きく息を吐いた。信じていたものが、成功作が幸せだという認識が木端微塵にされてしまう。
 アニスは話しているうちに気が昂ぶって泣いている。僅かに拾える言葉は謝罪だ。謝罪だけで、許しは乞わない。アリエッタも幼げな大きな目に涙を溜めてぬいぐるみを抱き潰す。
「じゃあ、僕のことも知ってるわけか」
 いつの間にかしっかりバチカルへ行き、ルークの姿を確認していたらしいアリエッタに疲れた声を向ける。
「はい。でも、シンクはシンクだった、です。アリエッタのイオン様も、今のイオン様も、みんな違う人だから」
 シンクは息を詰めた。それはシンクが一番欲しかったものだ。いや、シンクだけではない。誰かの代わりとして作られたレプリカが須く望む、たった一人の自己であるという肯定。
「いいよ。わかった」
 何だかバカバカしくなってシンクは呟いた。被験者が憎い。それは変わらない。勝手に自分たちを作り、失敗作だと言うそんな被験者は憎い。
 けれど、そんなものはどうでもいい、と言ってやる。
 シンクは自由だ。自由になれる。自分なりに自分の意思で精いっぱいに好きに生きられる。自分で選べる。自分を選べる。
「わかった」
 だから、贄の子どもも救える。何も知らずに殺される同胞を抱えてやれる。





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 わりと早々に価値観を砕かれるシンク。でもシンアリ、シンアニにはなりません。どっちかってとシンルク。ルークに絆され、それからシンクには幾度となくファブレに通ってもらいます。
 アニスの優先順位も、ルーク>イオン≧アリエッタ。でも、恋じゃない。
 アリエッタはイオンとルーク優先。アニスとシンクは同僚なので協力して戦うけど守りはしないので。




13/06/18
14/07/01




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