最初の間違い、最初のやさしさ






己の運命を決める権利






 最初に目に入ったのは子どもの手だった。地面につくようにしてある、幼いけれどそれなりに荒れた手。次に認識したのは不愉快な声。胃がひっくり返って燃えるような強烈な不快感。
「よいな。アニス・タトリン。借金に苦しむのは嫌だろう」
「は、い」
 この衝撃を言葉にすることはできない。でも、この息のできない苦しさを、アニスは知っていた。
「はい。モース、様」
 己の醜さを知ったのと同じあの衝撃的な苦しさを呑んで、掠れた声でアニスは何とか答えた。
 スパイを了承した瞬間だった。


 モースの言うがまま、ぎくしゃくと部屋を出てアニスは込み上げてきた吐き気に手洗いへ走った。駆け込んだ先で何も出なくなるまでえずく。溢れる涙が幼い頬を滑り、漸く止まる頃には涙の筋が乾いてひりついていた。
「大丈夫、です、か?」
 途中から背中を撫でていてくれた気配が恐る恐る問う。その幼い口調をアニスは知っていた。
「ア、リ…」
 今は導師守護役の服を着る少女。アニスの愚かさが無神経さが無自覚な未熟さが驕慢なエゴが醜さが、殺した一人。
「ア、リエッタ響手」
 涙が再び揺れた。
「はい、です。どうした、です、か」
 アニスを心配して、背を撫でていてくれた手を握った。あたたかい手だった。やさしさに満ちた手だった。
「た、す て。たすけて!たすけて!!」
 アニスが知ろうとせずに追い詰めて殺した手だった。アニスの愚かさが無神経さが無自覚さが未熟さが残酷さが驕慢なエゴが醜さが、殺した手だった。
 未だ喪失の哀しみを知らぬ手に、縋りついていた。





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 アニスとアリエッタの友情でレプリカイオンバレフラグ。
 前回書いたとおりアニスは後悔と絶望で死んでいる(10代)ので精神状態ボロボロです。その瞬間に逆行だったので立て直す前にスパイの話。自身が要因となって殺した人たちのことも思い出してさらにガッタガタです。
 幼姉に頼って甘えて助けられて支えられて、支えていける友情ガンバ。
 アニスの衰弱死は食事と睡眠を受け付けられなくなって死にました。




13/06/14
14/06/29




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