救われた
ああ、ひとをあいすることのできるよろこびよ!
新しい始まりと最後のはじめまして、を。
夜の影を縫うように迷いなく先導する歩みはとても慣れている。警備を抜ける呼吸もごく自然だ。忍び込む側としてはとても有難いが、こうも容易だとこの籠に閉じ込められた子どものことがとても心配になる。とはいえ、これが体術を基本として超接近型の戦闘力の才能を鍛え続けるシンクがいてこそのこととわかってはいる。ただ、心配なだけだ。
そんな考察ともいえない思考を遊ばせながらついていった先でシンクが独特なリズムで窓を小さくノックする。その瞬間はねた肩にディストはアニスがガチガチに緊張していることに気づいた。
当然かもしれないと思う。謝ることは勿論、罪を犯したと自覚する前に死んだ、死ぬように誘導し、殺した相手に会うのだ。だが、ディストはそれは無用のものだと知っている。あの子どもは不器用で知らなかったことが多いだけで、分け隔てなくやさしい子どもだったと知っている。
―――失われたものは 大きかったですね。
音を立てないようにそっと窓を開けた子どもの輝くような笑顔を見て、過去となった未来の面々へ、ディストはひっそりと独り言ちた。
にっこにっこと笑ってシンクを出迎えたルークを見て、アニスは言葉にならずに口を震わせた。それは初めて見たルークの姿で、過去に見たことのあるフローリアンの無垢な笑みと同質だった。
救われた、とアニスは思った。フローリアンは学んでいくうちにシンクのような皮肉と憎悪をルークを殺した人間へ見せるようになった。人間の自分勝手と傲慢さを許さなかった。けれど、ルークは人間の醜さや卑劣さを知っても、酷い周囲の人間がいても、こうして笑ってくれる。
それだけで、救われなかったこの魂は救われたのだ。それが見られるだけでアニスは幸せだ。
さっさと一人窓を越えたシンクとルークの再会の抱擁とそれを噛み締めるように見つめるアニスを等分に見やり、ディストはアニスの手を引き、近づく気配に気づいているだろうシンクを窓の側から離れさせ、ルークの部屋に逃げ込むことに成功した。
「シンク、紹介してください」
見回りをやり過ごしたところで、ディストがそう催促する。ほっとくと暫くいちゃいちゃしてそうである。それにひとつ頷いたシンクがルークをベッドに促し、横に立つ。当然の流れでディストとアニスは前で跪いた。
「こっちが死神ディスト。あの譜業を作った奴」
「お初にお目にかかります。本名をサフィール・ワイヨン・ネイスと申します」
ルークは頷く。
「あっちがアニス・タトリン。僕たちが会うきっかけをくれた奴」
「お初にお目にかかります。アニス・タトリンと申します」
それにもルークは頷いた。何ともぞんざいな説明だが、それで充分なのだろう。
「知っての通り、俺はルーク・フォン・ファブレ。のレプリカだ。よろしく」
応じたルークの言葉に驚き、思わず許可も得ずに顔をあげた二人が「いつ教えたのか」と食ってかかり、「ルークに隠し事はしない」と若干ずれたシンクの返しに唖然とした。
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この後、アニスが思わず「幸せボケの色ボケか」って毒づく。アニスは青褪めるけど、ルークは初めて聞いたスラングにきょとんとするだけです。ガイが側から外されてるので、そこまで口悪くないし、貴族的でない言葉はあまりシンクも聞かせないので。
念の為、別にディストたちはルークにレプリカのことを黙っていようと思ってたわけじゃないです。ただ言うべき時期は慎重に決めようと思ってただけ。本人の体のことなので教えないでいられるわけないし、ただ傷つかないようにしたいだけです。
とりあえず過去編はこれで終わり。きりがないしルークと会えたので。アニスのボロ泣きは回想で。そこまでいけば。 この時で預言まで一年と少し。
13/07/15
14/07/12
title by[リライト]