空の巣鬱のチェックで5題
T.「ありがとう」を言える?
右の肩口に、何気なく、当然のように、差し出した。
「ほらよ」
少し前に読んでみたいと頼まれた書物だ。
「ああ。ありがとう、将臣。悪いね」
顔を上げたヒノエは首をめぐらせ、将臣を視界におさめると笑んで礼を言う。
「かまわねぇよ。ちゃんと読んでもらえたほうが本もいいだろ」
そう言って明るく笑う将臣にヒノエは企むような顔をした。
「なんだったら俺が読み聞かせをしてやろうか?」
企み顔にか、言葉にか。将臣は嫌そうな顔をするといらねぇよ、と返す。
「んなのより、使えそうなトコだけわかりやすく教えてくれ」
手っ取り早く。言えば、顔を前に戻したヒノエが小さく笑った。
そのままヒノエの隣に腰を下ろし、何の作業をしていたのかとひょいと覗く。何かを書いていたらしいことは墨の臭いがしていたからわかるが、何を書いていたのかを知りたいのだ。
だが、将臣は覗き見て後悔した。
「ヒノエ…」
つい、目頭を押さえる将臣の理由なんて本当はわかっているだろうに、ヒノエは滑らかに筆を動かしつつ、声だけはやさしく返した。さすがに書いている途中に目を離せるほどには慣れてはいない。
「どうした?」
「何でお前はそう何でもできんだよ?」
ちょうど一文が終わる頃のその言葉に将臣の気が済むまで相手をしようと筆を置いたヒノエは弾けるように声を上げる。
「ははっ。それはお褒めに預かり光栄だね」
本気にした様子のないヒノエに将臣がむっとするのを見て取って、ヒノエはなだめるように表情を和らげた。
「本当だよ、将臣。ありがとう」
2007/02/20
ヒノエは言葉を惜しむ男ではありませんでした。
というか、私はヒノエをどういう奴だと思っているんだろう。
ついでに将臣、お前少し幼くないか?それとも17歳同士ならこんなものなんだろうか?(自分で書いといて!)
U.名前で呼べる?
「将臣?」
月見で一杯と洒落込んで、というわけではないが、わりと平和な月の綺麗な夜に酒を干す仕草に誘われて将臣はヒノエと珍しくふたりきりで飲んでいた。
「なんだよ?」
この時代の酒にもだいぶ慣れ、ぽつりぽつりと自分ひとりではできなかったあちらでの話を懐かしむ。帰らない家や世界、離れた弟と幼馴染み。傍にいると言った隣にいる親友とのあちらでの思い出。
「いや?なぁ、将臣」
「だからなんだよ?」
まさか酔ったのか、と初めてここで酒を酌み交わしたときでさえ不思議と酔わなかった親友を不審がる。だが、ヒノエの顔にも眼にも酔いはない。
思えば、未成年は一応飲酒を禁じられていたわりにヒノエは最初に呑んだときもずっと素面だったと思い出す。将臣だとてお年頃の高校生だった。ビールくらいは飲んだし、父親の晩酌でちろりと日本酒を舐めたことだってある。それでも最初はキたものだ。
ふふ、とヒノエは笑った。やわらかく眼を細め、不審がってヒノエを見る将臣に気づいていて、何でもないというようにあまやかに笑みを零す。
「将臣」
三度目の呼びかけには将臣も眉を動かすだけだ。酔っているわけではないことはわかったが、それではヒノエはどうしたというのか、将臣にはさっぱりわからない。
「将臣」
ひたり、とヒノエは将臣を見つめた。
「忘れるなよ」
将臣はよくわからないまま、ああと頷いた。
2007/02/18
ヒノエはがっつり名前を呼びます。
将臣はそれを当然と受けとめてます。
V.(二人の)記念日を覚えてる?
将臣の部屋にひょいと顔を覗かせたのは、神出鬼没が売りの親友だった。
「なんかあったのか?」
まだ暑い夏の日。夜ともなれば多少の涼しさは出ることは出るが、それでも暑いと思う。勿論、純然たる日本家屋(そういわれるものよりももっと古く、別の適した名もあるが)であり、現代のように冷房だ暖房だ排気ガスだといった汚染がない分、地球温暖化は遙か未来の出来事で、ごく真っ当な暑さではあるのだ。だが、暑いものは暑い。
それはさておき、常に傍にいるようなイメージとは違ってわりと一人でいろいろとやっているヒノエが実際にずっと将臣の傍にいるということはあまりない。探さねばならないほど遠くにいるようなこともなく、近くにはいるのだ。
「あったといえば、あったかな」
答えながら入ってきたヒノエの手に一通りの酒の用意が乗せてあり、あったとしても大したことじゃないなと将臣は安堵する。何かあったときに酒を持ってくるような非常識さはヒノエにはない。
「なんだよ?」
流麗過ぎてみみずがのたくったようにしか見えない書物は閉じてくるりと向きを変えた。元より、読んでいたわけではないのだ。
手前に酒を、自分は隣に座ったヒノエは、確かとはわからないが、と言いながら将臣と自分の杯に酒を満たした。それから将臣の目を見つめて男も女も誑かすようにゆっくりと艶やかに笑んだ。
「誕生日、おめでとう。将臣」
杯を口元に運んだ将臣が瞬くのを目にしてヒノエは甘く蕩かす声で言祝いだ。
「ありがとう。うれしいよ、生まれてきてくれて」
2007/02/24
他に記念日が浮かばなかったので(二人の)にしてしまいました。でも、番組内の夫婦でも妻の誕生日とか言ってたと思うので問題なしということで。
当時は旧暦だろうし、現代とはズレがあるだろうから確かではなく。名称的には長月で祝うのがちょうどなのかな、とか。いろいろわからないなりに思ったりしましたが、ゲームで同じだったらどうしよう。それ以前にこの当時の暦は太陰暦ですか、太陰太陽暦ですか。ズレはどの程度…。
書いてから付き合い記念日にすればよかったのではないかと思ったり。それって何年後だろう。
W.変化に気づく?
ふと視線を感じたような気がして将臣は周囲を見渡した。慣れた清盛邸にいるのも郎党や家人であるし、彼らも慣れたもので、気を配ってはいるが今更将臣の行動に注視するはずもない。
気がつけば視線も消えていて、はて、と首を傾げつつ将臣は再度歩き出した。
すると、やはり視線を感じる。わからないことに将臣は眉を寄せた。考えながら歩いているとちょうどよく前方からヒノエが来るのを見つけて破顔した。聡いヒノエならばわかるかもしれない。
「ヒノエ!」
正面からで当然将臣に気づいていたヒノエは、将臣に軽く手を上げて応じつつうれしげに眼を細めた。
「なんだい、将臣」
「なんか妙に視線を感じるんだけどよ、理由わかるか?」
前置きも何もない将臣の問に、けれどヒノエは慣れたものでわからぬはずもないというように実に簡単に答えをやった。
「お前が見慣れない飾りをつけているからだろう?」
指摘されたそれに手をやりながら、将臣は、けどよ?とつなぐ。
「勿論、俺としては俺があげたものをお前が気に入ってつけてくれてうれしいよ」
それからひとつ、不思議そうに瞬いて見せた。そして、それこそ答えのわかった問いをする。
「それとも誰かに何か言われたのか?」
「いや?言われてないぜ?」
想像どおりが正しいのか、望むとおりの返答に、ヒノエは満足げに頷き、唆すように続ける。
「なら、つけていろよ。気に入ってくれたんだろう?」
「ああ。サンキュな」
明るく笑った将臣に、どういたしましてと返しつつ、つい止まっていた足をふたりは同じ方向に動かした。
2007/02/24
ヒノエが何をあげたのかは想像にお任せ。
X.他の人との会話、気になる?
その姿を探していると、修練に使っている庭の左手の方からにぎやいだ求めている声が聞こえた。
ヒノエは軽く眼を眇めると足音と気配を殺して近づく。見えた後姿に声を立てずに笑い、そのまま忍び寄った。
他愛無い、ささやかな悪戯だ。仕掛けられたところで驚かないだろうが、驚いたら面白いと言う程度の。
「将臣」
耳元で名前が囁かれるのと、細めの腕が背から首に回されるのは同時だった。
「ヒノエ。なんだ?」
将臣は軽く笑って回された腕もそのままに首をめぐらし、親友を見る。開いたまま、まだ戻る気配のない身長差の分、ヒノエは下から覗き込むようにして笑いかけた。
「時間あるんだろう?折角だからお前と何かしようと思って」
探していた、と首に回していた手で肩を叩いた。
わりと近い顔の距離も、するりと回された腕がそのまま残っているのも、あちらでのスキンシップと認識したままの将臣は話していた相手の驚愕に気づかないまま、そうだなと考える。
事実、行動に関してはスキンシップの範囲内なのだ。ただし、ヒノエはこちらではこの近さを許すことに話し相手が動揺するだろうことは十分に計算していた。
「とりあえず落ち着いたままだし、軽く馬でも走らせられないか?」
ヒノエの提案に将臣は破顔して賛同した。気ままに外に出られるのは至極魅力な誘いだ。そのままさっきまで楽しく話していた相手に軽く言って、ヒノエと共に厩舎に向かう。
「そういえばさっき何話してたんだ?」
「大したことじゃないぜ?」
そう返す将臣の声が突っ立ったままの男に届いた。続いたヒノエの声も。
「大したことじゃなくても、お前が話してたことを知りたいと思うのは当然だろう?」
2007/03/03
はじめに書いたのが長くなってしまったので急遽変更。
ヒノエはうまいこと口八丁に聞き出します。得意技のひとつです。
将臣と話していたのは誰でもいいけど、イメージは白重衡でした。唖然呆然と見送ってしまって後悔の真っ最中。黒重衡ならうまいことついて行くかな、と。
ナカムラ様。ヒノエ、何とかできなかったっぽいです(笑)。
ですが、Wなら親友とは明記されてないから(自分で書いておいて)深読みできます!
申し訳ない感じに本当にミニな面白みのない話ですみません。お題、あんまり活用できなかったような…。