魂の記憶






愛すること、だけが掟だ。






 ごめんね、ママ
 私のなかのパパも叫ぶの
 ロイを愛してるって。



 一生に一度のお願いよ。
 きれいな、世界の穢れを知らないかのようにきれいで力強い、みどりいろの眼がロイにそう強く訴えた。
「私と結婚して。ロイ」
 そうして、動揺することなんて久しくなくなった、アメストリス史上初にして、2期目も信任を得た大統領は茫然自失の態を晒した。
「………エリシア?」
 嫌な汗をかき、渇ききった喉が、己にプロポーズをしてきた見守ってきた親友の忘れ形見を呼ぶ。もはや、己の娘といっても差し支えのないほどに愛する娘を。
「どうしたんだい。エリシア」
 それでも何とか動揺を鎮め、ロイはやさしげな風貌にきわめて真摯な親愛をのせた。
「どうした、じゃないのよ。ロイ。私はロイを愛しているの。だから結婚を申し込んだのよ」
 返るエリシアの言葉も真摯な愛情に満ちていた。それは決して年頃の少女にありがちな夢見るような、憧れを多分に混ぜたかわいらしいそれではなく、慈しみ、いとしみ、覚悟を知った愛だった。
「エリシア」
 けれど、それを容易くロイが受け取れるはずもなく、間をもたせるように名を呼んで笑む。それは確かな困惑で、それに気づかないはずもないエリシアは、その、ロイに気づかないふりをする。
「エリシア。エリシア。私も、きみを愛してるよ。でも、それはきっと、家族に向けるようなものだ。きみたちは、私を家族のように迎えてくれたから」
 ひとりの女性として、見たことはないんだ。きみを。
 ロイのその血を吐くような告白をエリシアは微笑んで受け止めた。それは分かりきったことだった。ロイが夭逝せねばならなかった――ロイはそれを自分の所為だと今も責めているけれど!――ヒューズの分も、エリシアを愛そうと、そしてエリシアに受け取るべきその愛を伝えたから。
「知ってるわ。だからロイ。私を見て。パパの娘じゃない私を見て。もう、一人の女としての幸せを認められる私を見て。
 私はロイを幸せにしたいの。ロイに幸せにして欲しいの。ロイと幸せになりたいの。
 ロイ。私はロイを愛してるの」
 その情熱的な告白は、ロイに在りし日の想いを思い出させる、それは郷愁にも似た、懐かしくも心を安らかせる思い出だ。
 無償の愛を囁いた男がいた。何よりも大事な親友とも。今は喪われた。
「エリシア」
 漆黒の眸が僅かに揺らぐ。潤むように表面を覆った感情を逃さず、エリシアは畳み掛けた。
「ロイ。愛しているわ」
 どこまでも真摯に愛を囁く。エリシアはヒューズがかつて伝えた愛をなぞるように。塗り替えるように。エリシア・ヒューズとしての愛を紡ぐ。少女の憧れではない、女の男への愛を紡ぐ。未だ少女でも、既に女であると。
 たったひとりを愛するものであると。
 この男と生きたいと思うようになれば、きっと。もう、エリシアは少女ではいられない。望むものを失わないように。
「愛しているわ。ロイ」










  愛すること、愛されること、
  それだけだ。それが掟だ。






                  Fin
 エリロイ。よくあるネタで恐縮ですが、このふたりを書くに当たって、通らずにはいられない道。
 エリシアは計算高く、押しが強い。勿論、良い意味で。父親のいいところをしっかりと受け継いだ模様。ある意味、ホークアイとは別に最強です。
 冒頭のあれは、やっぱりグレイシアは多少は責めたんじゃないかな。ロイを。愛するものを奪ったものを。彼も苦しんでいても。言葉にはしないし、態度に出さなくても、ロイに向かって言うことがなくても。あとは、安全な職種ではないですからね。
 パパの愛は勿論アレです。「ロイ、嫁さん早くもらえよ」たぶん、ヒューズ家で思い出話をすると、たびたび出てくるんですよ。あいつはいつもきみたちのことを惚気て私に結婚のすばらしさを謳ったよ、みたいに。
 ヒューズの愛情は普通に友情です。多少濃いかもだけど。士官学校同期だし、内戦を友に生き抜いた戦友でもあるし、仕様がないね。親が子に、兄が弟に、みたいな感じに友愛。むしろ家族愛。当然関係はないです。
閑話休題。
 で、エリシアの中でロイはいつか結婚する幸せになる。が、そのうちロイと結婚して幸せになる。に変化。その頃には、ロイの自分への愛情の質を理解して時機を見ていた切れ者。さすがエリシア・ヒューズ。ヒューズの娘。
 年代はそうだな、エリシアが16,7くらい。原作から13,4年後あたりの設定で。
 イシュバール戦役のときとはまた別の意味で化け物かとささやかれて数年来のマスタング氏。「お前そんなに年とらないなんて、やっぱり万国人間びっくりショーじゃねぇか!」




09/06/19
09/07/16



By Swallow Sparrow