いつの間に こんなにいっぱいに なったのだろう…。






あの月の様に全てがまあるく満たされたなら






「あなたをあいしてよかったのかな」

 小さく小さく呟いたはずだったのに。べしり、と頭頂部を叩かれて驚いて振り返る。叩かれた頭は鳴った音ほど痛くはなかったけれど、合った眸が泣きそうに揺らいでいて、頭じゃなくて胸の奥が潰されるように痛んだ。
 ぎゅうと握り潰されるような、なんて表現じゃ生ぬるい。いっそ握り潰してくれた方がマシなくらい。開いた胸に赤く焼いたコテを押しつけられるより、ずっとずっといたい。
 泣きそうなのに泣かない眸が、悲しみに寄せられた眉が喰いしばられて真一文字になった口元が。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
 どうしようもなく、痛くて。痛くて。
 泣かせかけたのは自分なのに、彼より先に泣いてその胸にしがみついた。
 己の意気地のなさがどうしようもなく悲しい。
 彼にあんな顔をさせてしまったのが、どうしようもなく哀しい。
 あんなことを言って傷つけたのに、縋りついて泣く自分を抱き止める腕は変わらずやさしくて、それがかなしかった。
 悲しくて悲しくて愛しい。
 けれどそれ以上に好きで好きで愛しくて。
 こんな己が彼をあいしてよかったのかと。
 こんな己に彼があいされてはいけなかったのにと。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
 思いながらも、抱きつく手に力を入れて。
 きっと手放さなくていいことに安心して。泣いた。







 きっと、喜んでくれるに違いない。
 ふふと意識せねば漏れそうになる笑みを押し隠し、常のならいで足音と気配を消して。
 音を立てずに開けた部屋の真ん中でこちらに背を向けて座り込んだ彼がぼんやりと呟く。
 今あるすべてを否定するようなその言葉に、心の臓が氷で撫でられたかのような心地がして、気がつけばべしりとその頭を打った。
 振り返った彼は別れを予感させながら、泣きそうで。別れたくないと、泣きそうで。ならばなぜあんなことを呟くのかと、冷えた一瞬後に煮えたぎる怒りを抑えて、泣きそうな彼と目を合わせる。
 わななくくちびるが、ふるえる長い睫毛が、うるむ大きな瞳が。
 どうしようもなく別れたくないと主張する。
 ぼろりと。溜められた涙が落ちて、ごめんなさいと彼は泣く。
 震える指先が離れたくないとしがみついて、ごめんなさいと彼は泣く。
 別れたくなんてないと自分の言葉に傷ついて、それに傷つけられただろう己を思って、あいしているとあいしてくださいと。
 彼自身が持て余しはじめたあいごと抱きしめた。
 想いの大きさに怯えて。
 想いの深さに怯えて。
 愛が罪だったのかと怯えて。
 それに気づいた己に離れられたらと怯えて。
 それなら知らなければと竦んで。
 離れないで、離さないで、あいしているとその代わりに謝罪ばかりを繰り返して。
 指先で縋るだけだったのが、腕ごと体ごと、同化するようにしがみついて、寄り添って。
「お前だけをあいしてる」
 お前の安心した口元をそっと見やり、うっそりと笑った。





                      Fin
 土井くく。前半は土井←くく。後半は土井→くく。最近の人気に乗っかってみた。これマイナー?
 ヤンでる土井せんせーをよく見るのでヤンでみた。くくち逃げて。でも、若干くくちもヤンでるかも?
 そういえば、土井くくはよく教師生徒の間を悩んでいるけど、この時代で師弟での関係は珍しくないんじゃ?
 個人的には土井くくでFAだけど、土井くくじゃなくても通じる、な…。




Title byユグドラシル




12/11/29
12/12/05