失ったものも、何も、すべてに願いを






望月〜欠け逝くだけの願い月〜






 まるで双子の兄弟のように、僕らの在り方は似ていた。



 媒体を介した記憶の存在が本当は何であるのかなんて知りはしなかったけれど、会うのは決まって夜で僕はきみがまるで幽霊のようだといつも言っていた。それにきみはいつだって顔を顰めて難色を示していたんだ。施術をしたきみは知っていたからだろうね。
 この部屋はふたり分の空間で、ひとりでは寒過ぎる。



 ねぇ、きみは今何処に居る?



 今まできみが動いてくれた分、僕が動くから教えて。
 きみに会う為に僕が探すよ。
 消えたのだなんて信じない。きみの居場所は僕の傍だと言っていたのはきみだろう?だから僕に示してよ。僕がきみに辿り着けるように。君が僕の処に還れるように。
 僕もきみが好きなんだ。こんなにも簡単で大切なこと、今度はきちんと認めるから。



 ねぇ、リドル。
 きみは今何処に居る?
 きみがいない未来は僕も、もう要らない。








 かつん、かつん、と。
 靴音を響かせてハリーは城内を歩く。








幾度かわからないほど口接けを交わす前から
知っていた。









 約束の場所はいつだって秘密の部屋だったけれど、他の場所で会ったことがないわけじゃない。
 他の人には姿が見えないのをいいことに、リドルは何処にでも姿を現していた。それは使われていない部屋だったり、どこかの通路だったり、階段だったり、授業中のハリーの教室だったり、グリフィンドールの談話室だったり、ハリーたちの部屋だったりと色々だった。その中でも図書室にいることが一番多かったけれど。
 ただ、そのときはお互いに相手に干渉しない。ハリーは皆と同じように見えないふりをするし、リドルも興味がないように通り過ぎる。一切の視線を合わすこともないのだ。
 けれどそれは、ハリーがロンたちと一緒にいるからだ。別にハリーが一人でいて、周囲に誰もいないのなら気にすることもない。他の人がいるからその人たちから見て何もない空間に話しかけることができないだけだ。そんなことをしたものならまず、ハリーは正気の有無を確認されるだろう。見えないだけで、実際にはリドルがいるとしても。いや、リドルがいると知られたら尚更会うことさえできなくなるだろう。



 彼は、トム・マールヴォロ・リドルは、あの日、媒介を失って消滅したはずなのから。



 ハリーは過去にリドルと遭遇した場所を中心に城内を捜し歩く。何度も同じ場所に行こうとも、相手も動けるのだと思って気にしない。譲り受けた忍びの地図にさえ映されないリドルを探す。
 周囲に付き合いが悪くなったのだのと何を言われようとも、学生としての最低限のラインの生活を守って、ただひたすらに。
 気付いている人はいるだろう。あの聡いダンブルドアがハリーの行動の意味をわからずにいるわけがない。
 黙認されていることに気付きながら、それが意味するだろう事実を否定しながらハリーは探す。









自分勝手なきみは本当に自分勝手だ。
でも忘れないでよ。きみが言ったんだ。僕と君は似ていると。
僕の勝手に今度はきみが付き合うばん。
その手を放したりはしないから。
きみが初めに言った、僕がいないと面白くないという言葉はきみがいないと意味がないって言葉にして返すよ。
ねぇ。
早く。
いつかきみが歌った唄で教えて。









 そして、一日の終わりはその部屋に。秘密の部屋に。最も彼が居る可能性の高い部屋に。
 名前を呼んで、待って、戻る。
 その度に、決意ひとつ固めながら。



 未来の自分が関わったこと、したこと、ありのままに知ったときリドルは静かに口を開いた。学生時代の記憶しかない彼もまた、それまで真実を知りはしなかったのだから。
「そのピーター・ペティグリューがコンプレックスの塊で、彼等を羨んでいたのなら裏切りは起きただろうとは思うけれど、そいつが本当に裏切るかどうかはさすがの僕にも判断はできない。
 もし、君の父親がもっと魔法の研究を重ねていたのなら、彼等は死ななかったのかもしれない。ジェームズ・ポッターも天才と称される側の人間のようだから。努力を惜しまない天才は壁を越しやすい。
 だから、ハリー。君が望み、学ぶのなら君は間違いなく後世に名を残す偉大な魔法使いになれる。僕が保証しよう」
 寮に帰る道すがらに、そう、リドルが言ったときのことを思い出し、ハリーは記憶にある自分の言葉を聞きながら本心を返す。
「あの時はきみの言うことは信じられないといったけれど、僕はきみの言ったことを疑ったことはないよ。だから自信があるんだ。これは必ず成功する。
 成功させると思うまでもなく、成功するよ、リドル。そういうことだろう?」
 太った婦人の前で合言葉を言い、与えられた部屋に。気が置けない友人たちと皆でいる部屋よりもあの部屋がいい。いつの間にか、本当にいつの間にか、何処に居るよりもリドルが待っているあの部屋の居心地が良くなっていた。前にそこで殺されかけたことさえどうでもいいほどに。
 既に明かりの消えている部屋に消灯ぎりぎりに戻り、ハリーベッドの側の窓から月を望む。静寂の支配する部屋の中でハリーは小さく呟いた。
 帰ってきた彼に捧ぐ言葉を。還ってくる彼に捧ぐ言葉を。
「いつだったか、リドルは言ったよね。僕の両親を殺したきみが憎くはないのかって。僕は答えなかった。
 だって、違うんだ。勿論、ヴォルデモートは憎いけど、あいつの過去だったはずのリドルはそうじゃないから。リドルはヴォルデモートじゃありえないから。リドルはどうしたってリドルで、ヴォルデモートじゃないことを僕は知っているんだ。凄く、今更なことを言っている気がするけれど。きみと一緒にいたいから僕は知っているんだ。誰が知らなくても、僕はわかってるんだ。
 今、きみに会いたいよ。凄く。その声が聞きたい。いつものように名前を呼んでよ、リドル。他の誰でもないきみが呼ぶ声が聞きたい」





 人の声は勿論、鳥の声も虫の音も、風さえも囁くを忘れた夜に、ただハリーの声が広がった。切なる願いを込められたうたが。





「すべてが今更だとは僕は思わない。きみに出会ってからそう思うようになったんだ」









後世に残るといった僕の名がどんなものでも構わないんだ。
何が起きても構わない。
きみが居る未来がいい。
きみといられる未来がいい。
それだけでいい。
きみひとりでいい。









 まるで双子のように僕等は似ていた。
 愛を知らなくて、愛が欲しくて、愛してほしくて、愛したくて。
 誰かを。
 心の底から、ただひとりの誰かを。





                    Fin
 ハリー主体。つーか、リドルが出てきません。
 これはお約束のリドル(記憶)が消えてしまったときのハリー。
 強いのか、諦めが悪いのか。
 唯一無二を知った人間の姿だと思うんですけれど。
 認めたくないから探すハリー。
 認めているからもう一つの道をつくるハリー。
 矛盾しているような言葉ですが、そんなものでしょう。
 明言はしませんでしたが、ハリーはやろうとしていることはわかると思います。
 普通の人なら諦めなきゃならない。
 魔法使いでも普通は諦めなきゃならない。
 それでもリドルに関してだけは大丈夫だと思います。(思いたいだけかな)
 哀しい話、リドルは記憶で、生きている人間ではないから。
 そのあたりが自由になるんじゃないかと思ってみたり。自由であってほしいと。
 リドルは魔力さえ溜まれば実体化して人と変わらなくなれるわけですし。決して、ひとではありえないけれど。何か別の魔法でも見つけない限り、彼は永遠に16のまま、いづれは別れが待っていることになるけれど。



 盲目的なものはただ恐ろしく、ただ真直ぐに、ただ純粋なのです。





脱稿03/11/05 改稿03/11/16

byclef