初めて廻る感情のひとつをぼくからきみへ






聖なる夜の…





 「Merry Christmas, Harry」
 秘密の部屋に訪れるなり、ハリーは驚きで固まった。図らずもハリーを硬直させたリドルはこれまでの付き合いで何度になるとも知れないハリーを元に戻す作業を行う。
 立ち直ったハリーは至極慎重な顔で訊ねた。
「Merry Christmas, Riddle.
 一体どうしたってわけ?今まで僕が言っても興味なさそうだったくせに。だから今年は今日が来るまで話題にも出さなかったのにリドルから言ってくるなんて。形式的には一応クリスチャンではあるけど、そんなつもりはないって言ってたくせに」
 けれども、最後の方で詰るような気配が滲んだのは致し方がない。肉体年齢はリドルに追いついたとはいえ、ハリーが生きた時間はリドルが居た時間と比べれば年若い祖父と孫と言えるほどに開きがあるのだから。
 一方責めるように問われたリドルは到って普通に応えた。
「別に意味はないよ。ただ、きみはいつもこの日になればそう言っていただろう。始めくらい使ってもいいかと思って言ったんだけど、こんな反応されるくらいなら言わないほうが良かったのかな?」
 そんなことはないとハリーは慌てて首を振る。その動作もどこか子供っぽい。ハリーがリドルに対して年齢のわりに子供っぽい態度を取ってしまうことがあるのは、彼がほぼ無条件といっていい状態でハリーのことを好きだとハリーがきちんと認識しているからだ。始まりが憎しみ合う敵対関係であったにも拘らず、ハリーにとってリドルはこの4年に及ぶ付き合いの中で確かに愛し、愛される恋人の関係だと。大切だと思われ、思っている相手だと心身ともに知っている。それが多少子供っぽい言動として出ることとなった。けれど、ふたりはそれを気にしてはおらず、そのことを知るのは二人だけであることもあって問題にはならなかった。第一16歳でそんなに大人っぽいのも逆に嫌なものがある。
 ハリーが首を振って否定するのをリドルは微かに苦笑を浮かべて見ていると、不意に思いついたように今まで読んでいた本を閉じた。その本は閉じられると同時に消えてしまう。その様子はこの4年の間に見慣れたものではあるのだが、何度見ても不思議だった。なにしろ、リドルが読んでいる本は間違いなくこのホグワーツにある図書室から持ってきたものだからだ。幽体といってよいリドルが持てることも不思議なら、杖を振ったわけでもないのに本が消えてしまうことも不思議なのだ。しかし、その不思議についてリドルがハリーに解答をあげたことはない。
「リドル?」
 本を読む片手までハリーと話すことやハリーが怒る前に閉じることはリドルがよくやることだが、こうしてハリーが来てすぐに、しかも自発的にリドルが本を閉じるのは珍しい。もしかしたら、ハリーの誕生日とかであればやるかもしれないが、残念なことにハリーの誕生日は夏休み中にある所為でそれも適わない。夏休み中のリドルはハリーと一緒にあのダズリー家で基本的に媒介の日記のなかにいるのだ。
「折角だから極東の島国風にやってみようか」
 リドルはにっこりと、女子が見ていれば悲鳴を上げそうな典雅な微笑をハリーに見せた。ハリーもそれに頬を紅潮させたものの、リドルの言葉の方が気になって問う。
「極東の島国風って何処のこと?て言うか、やるってクリスマスを?リドルが?本当に?するの?」
 矢継ぎ早とでもいうようなハリーの言葉にリドルは意地の悪い笑みを浮かべた。そのなかに先ほどの微笑は欠片も見当たらない。
「君はとことん僕の言葉が信じられないみたいだね、ハリー。
 極東の島国って言うのは日本のことだよ。聞いたことぐらいあるだろう?グレンジャー嬢あたりから。クリスマスをしようかって言ったのも本当。来年はハリーにそんな余裕があるかわからないからね。納得は出来たかい?ハリー」
「出来たけど。リドルってそんな言い方以外できないわけ?もっと素直にさ。僕が喜びそうだからだ、とか」
 リドルはハリーの言い分に驚いたような表情をしたかと思うと肩を竦めてみせた。
「よく言うよ。もし僕が本当にハリーが言ったように言ってごらん。そうしたら君は今度は『リドルがそんなことを言うなんて、何かあったの?』とでも言うに決まっているくせにね?」
 そのリドルの的をついた言葉に今度はハリーが首を竦める。悲しいかな、否定が出来ない。そこもあってこれ以上藪を突かない為にもハリーはさっさと話題を戻すことにした。
「それで、そのニホン?風のクリスマスってどんななの?」
「大した差はないよ。こっちとも。ツリーを飾って、いつもと違う料理にケーキ、プレゼント。唯一違うのは対象が家族よりも恋人たちに重視されているってことかな。
 家族なんていない僕と、いていないような君にはちょうどいいだろう?」
 それにハリーは深く頷いた。これか先、ダズリーの連中とクリスマスを祝うことなんて有り得ないし、リドルがこんな気まぐれを起こしてくれるとも限らない。
 あ、と小さく呟いてハリーが困ったように手のひらを上向けた。
「でもリドル。僕プレゼントないよ。買ってない。君とクリスマスを祝うなんて考えていなかったから」
「別にいいよ。思いついたのはさっきだから僕もないしね。ご馳走は今まで食べてただろうからそれも要らないだろう?用意するのはこれくらいで十分だ」
 今日くらいは問題ないだろうと言いながら流石に杖を振って出したのはシャンパンのビンとグラスが二つ。
「不服かい?」
 栓を飛ばし、手馴れた仕草でグラスに均等に注ぐと、広い秘密の部屋を十分に照らしていた灯りが光の量を落とし、いつの間にか敷かれていたテーブルクロスの上にあるローソクのあたたかな光がシャンパングラスの中で煌めく泡を浮かび上がらせた。
「ううん。十分だ」
 向かい合う形で置かれた椅子のもう一脚にハリーが座るのを待ってリドルはグラスの片方を手に取った。動作の一つひとつが酷く絵になるリドルを真似てハリーも持ち上げる。リドルはそれを見て僅かにグラスを傾けさせた。
 キン────
 硬質な音は高い天井によく響いた。しゅわしゅわと踊る泡が綺麗だ。
「今日の良き日に」
 恋人たちのクリスマス。



一緒にいられる時間が後どれくらいあるのかわからないけれど。




 そんな不穏な言葉はリドルの胸の中に仕舞われたまま。





                Fin
 クリスマスという行事に一番馴染みが深くて最も関係がない人たちに頼んだ結果このふたりになりました。キリスト教圏のふたりにはかなりお馴染みな聖典のひとつでしょうね。キリスト生誕ですし、本編できちんと祝ってるのだし。
 でも、最近読んだ話のなかでクリスマスは本来キリスト教にとって異教のものだ、というのを読んで驚きました。登場人物の一人が曰く、「クリスマスを祝おうなどと、良きキリスト教徒にとっては本末転倒も甚だしい。乗っ取り屋のローマ教会がキリストの誕生日に決める以前、これが何を祝う日だったか知りもせず、何がクリスマスツリーだ。云々」。イギリスでやり始めたのはここ100年、150年だとか。サンタクロースの元の聖ニコラウスという聖人に因んで贈り物をするとか。ヴィクトリア女王時代、その夫のアルバート公ウィリアムが母国ドイツから持ってきたものらしいです。ツリーとかも本来はきちんと意味があって飾るのも基本的には食べ物を吊るすらしいですね。あまり詳しくは書きませんけど、そういうサイトじゃないし、うち。(篠原美季・著「聖夜に流れる血」より)
・上記に多少過激な表現がありますが、キリスト教の方がいてもこれは喧嘩を売っているわけでもありませんので、作者様(篠原氏)に悪戯をするようなことがありませんようにお願いします。これは私が勝手にこのあとがきのページに書いただけですのであしからず。ここだけを読んで批判なさらないように。
  宗教に関しては他者に迷惑をかけない以上は各々の自由です。モラルを持ってお願いします。
 戻って、戻って。
 大分纏まりのない話になりました。(自覚はあるのか)下書きなしの一発書きってことでご寛恕ください。
 数ある(これも自覚あり。本命で書こうよ)カプのなかでリドハリにしたのは始めに書いたように関係のない人たちにやらせたかったからです。リドルってクリスマスとか祝ったりしなさそうじゃないですか。寧ろ鼻で笑いそうな。これも祝っているとは言い難いけど。いいんです、祝わなくても。私自体無宗教者ですし。学校は浄土真宗だけど。
 そういえば「メリークリスマス」ってどういう意味なんだろう。





           脱稿03/12/24