あなたの愛した世界
穏やかな殺意
「僕はかわいそうなんて憐れまれるようなものにはならないよ」
不意に、鈍く眼を閃かせて月はリュークに宣言する。琥珀の瞳は闇を覗いたかのように暗い。
晦い。
「どうしたんだ、月」
宙に寝そべっていたリュークはぎょろりとした目を不思議そうに瞬かせた。見慣れてしまえば愛嬌があるといえないこともないリュークは、今は人間よりもよほど人間らしく振舞う。月以外に見えないし、宙に浮いてはいるけれど。
「別に、どうしようもないさ。ただ、そうだな。ただ、お前は知っておくべきだと思っただけだ」
人間の思惑など軽々しく超越する存在には月の本意を誤らせることはできない。
例えばいつの日か、どれほど不様に這い蹲っても、命乞いをしても。月は後悔とは程遠い処にいるのだということを。
いつだって後悔はない。しない。常に、須く、決断は絶対だ。己で決めたことを背負う覚悟はしている。
神という名の罪人。
咎人であるが故の神。
孤独である絶望。
不理解の隔絶。
今に始まったわけではない。ヒトはいつだってヒトリだ。たとえ、心分け合うものがいても、共には居ない。それが世界だ。望みは手の届かない処に在るものだ。だから独りなのだ。それぞれが、それぞれの舞台で踊る。
珍しく、己の心情を吐露するように多弁な月を前にしてリュークは真っ黒な眼で見詰める。
幼く、稚い、正義をその孤独に抱え、理解し、絶望を捨て、退屈と呼んだヒトの子を死神はその眼で視た。
子どものイノチの限りをミた。
甘美な林檎の実が喰べ頃になる日が、近くもなく遠くもない時間にあることを死神は知っていた。
Fin
唐突にデスノ。急にデスノは書きたくなります。というか、月を。
あの、哀れで、幼くて、いとしくて、綺麗なイキモノを。
この話は、私にしては珍しく2部のラストがあることを前提にしています。その所為か、どことなくリュークがドライ。
2部好きじゃない(というより嫌いな)んですが、1部のラストもああじゃなきゃきっと違う生き方を月は選べたのになとか、いろいろと思うわけですけど。とりあえず、それを一先ずおいて。
聡い子どもは不幸です。月の不幸はそういうことだと思う。家の中でも優等生であり続けたこと。幼少期でもいいから殴り合いの喧嘩ができる友だちがいればよかった。もしはないけど、もし、月とLがノートより先に出会ったなら、違った。月はLからいろんなものを吸収して、自分を高めたと思う。
対人運のなさが月の不幸だった。
2009/04/08
2008/04/14