貴方の願いを叶えるもの






まほうつかいの杖






 アレは絶望と呼ぶにはまだ生ぬるい。

 やさしげな口元にうっそりと笑みをはき、慈しむ眼差しは凍てついた光を宿す。おだやかな声音は狂気を抱き、包み。いとしげに触れる指先は殺意に煌めいていた。
「そうは思わないかい?ロイド」
 零れた涙の後を拭う指はいたわりに満ちていて、苦しげに寄せられた眉根に庇護の口吻けを落とす。
「そうですねぇ。不本意ですけど、全く同意しますよ!
 放っておいても国に殺されるに決まってるオヒメサマなんかの為に我が君を傷つけるなんて!!ほんっと、余計なことしかしませんよねぇ」
 万死に値しますよぉ、と間延びした口調と裏腹に凍れるアイスブルーの眼が壁を突き抜けて何処かを睨む。
 けれど、唯一たる人の帰還を希う両の手は、やさしく少年の手を包んで抱き寄せる。跪くことに躊躇いはない。否、彼の人のため以外につく膝も、垂れる頭も持ち得ない。
「皇族に殺意を向けたんですもん。とぉぜぇん。極刑にしてくれるんでしょう?」
 それ以外はないだろうと、それは疑問の形で投げられた要請であり、断ることを許さない命令だ。
 帝国第二位の権力者に命ずる力を持たないが、ロイドはシュナイゼルが断るとは思わない。何しろ、これはシュナイゼルの望みでもある。
 薄紫の眼を眇め、シュナイゼルはゆるく笑む。
「おや、いいのかい?ユフィの騎士になるにあたってわざわざ後見までしてあげたんだろう?」
 あっはっはっ。
 高らかにロイドは笑った。侮蔑しきった声が毒々しく溢れる。
「だぁって、仕方がないじゃないですか?ナンバーズの彼に碌な知り合いなんていないんですもん。上司の僕しかやれないって。責任もてって。コーネリア殿下の内意がきちゃうしぃ?
 それに仮にも7年前には我が君がお世話になったようですしね。食事を忘れる、毒を盛る、刺客を放つ、土蔵に押し込める。なんて、おおよそ人にすることじゃないですけど。枢木准尉がしたのは、罵る、殴る、でしたから?」
 憎しみも、絶望も。簡単に殺意にはならない。殺意を実行するのに、最高の舞台を用意するからだ。衝動では殺さない。簡単には引き金を引かない。耐えて、耐えて、煮詰めて、耐えて。
「総督皇族サマのお願いですしねぇ・え?
 ホォントぉ。我が君を傷つけて苦しめて探そうともしなかったのに。追い詰めて嘆かせて無力さを押し付けて。なのに、この僕に!よくお願いなんてしてくれるよ!」
 これだから皇族サマって奴はさぁ。そう言ってロイドは鼻で嗤う。
 己の下す命令がどういう意味を持ち、どれだけの人間を傷つけるのか、欠片も考えもしないのだ。常に他者を思いやるのはロイドの愛しき至上の主だけだ。それが彼を傷つける刃にしかならなかったことが何とも痛ましい。
 誰もかれもが彼のやさしさを踏み躙る。
 でも、まぁ。と。ロイドは十数年来の悪友を見やった。手の届かないところで終わらせられていた、同じ怒りを抱く男を。
 シュナイゼルの手はやさしくやさしく、最愛の異母弟の髪を梳く。
 悪夢げんじつから守るように。やさしい世界を捧げるように。
「君は哀しんで苦しんで憤って探したから許してあげる。残念で、喜ばしいことに君は敵じゃないって口添えしてあげるよ」
 だから。主。あなたの為のやさしい世界みらいは出来上がっているから、早く早く残酷なだけの過去ユメから覚めてください。
 そう、ロイドは強く願った。





                         Fin
 この後R2にはならない。
 スザクが発砲した後ロイドとシュナが駆けつけ、スザクを後ろ手に捕縛した。今は牢に放りこんである。
 シュナが後見、ロイドが騎士で皇帝にも手だしさせません。ルルは二人の愛情に絆されました。ナナリーはどうでもいい。




11/05/02
14/07/12