齎される救いは
干乾びた糸
それは間違いなく、ナナリーにとっての晴天の霹靂だった。想像だにしたことのない無情な宣告に驚き、助けを求めるように兄を呼んだ。
「お兄様!」
いつだって自分を守ってくれるナナリーの最愛の異母兄だ。今回の理不尽な長兄の言葉に、自分と同じように拒否を示すものとナナリーは疑いすらしなかった。
「お兄様も何かおっしゃってください!オデュッセウスお異母兄様は勝手すぎます!!」
強く言い放ったその言葉に返るのは、困惑よりも諦念を色濃く漂わせたものだったが、ナナリーにはルルーシュの諦念が何処から出たものかわからない。いや、そもそもルルーシュが諦念を浮かべるその理由すらわかっていないのだ。
「何がだ、ナナリー。オデュッセウス異母兄上の何が勝手だと?」
ナナリーに頷かない。「そうだね、ナナリー」とそう返すはずのルルーシュに、寧ろ否定的に問われ、ナナリーは苛立ちを見せた。
ルルーシュがナナリーを否定するなど、あってはならないのだ。
「勝手ではありませんか!7年間も私たちのことを放っておいて見つけたから戻れと命じるなんて、勝手です!私たちのことを何も理解なさってないんです!!」
故に、見えない目でルルーシュを睨めつけ、感情的に喚き散らした。
「お兄様の所為で私までお父様に捨てられたのに、誰も助けてくださらなかった!今まで何もしてくださらなかったのに、今になってまるで心配していたみたいに!」
ルルーシュの所為という件でオデュッセウスとミレイの眉が僅かにはねたのにルルーシュは気付いた。ルルーシュ自身としてはナナリーが癇癪を起こす度に言うその言葉は今更だ。共に世話をする咲世子も耳に慣れたものだろう。
ルルーシュは今更傷つきはしない。ただ失望するだけだ。失望が弥増すだけだ。
だが、ルルーシュは看過することのできない一言に強くたしなめる語調で名を呼び、遮った。
「お前が如何勘違いしているのか知らないが、アッシュフォードが戦後すぐに俺たちを保護できたのも、7年間隠し通せているのも、異母兄上のご助力を受けてのことだ。皇帝の決定から常に気にかけてくださった異母兄上に勝手だなどと受けたご恩に対しなんてことを言うんだ」
守られることを当然としすぎて守る側のことを慮ることのない姿が情けなくて仕方がない。他者を思えぬ者に上に立つ資格も治める資質もないと気づかないことに失望する。決して甘やかしていたわけでもないのに、何故こんな子に育ったのかと思わずにおれない。
「ナナちゃん。いくらなんでも口が過ぎるわ。ご多忙の中ご訪問くださったオデュッセウス殿下にも、影からのご助力を受けていたとしても7年間直接あなたの世話をしてくださっていたルルーシュ様にも」
ルルーシュの叱責に反省どころか険を見せたナナリーにとうとう耐えきれなくなり、礼を失することを承知でミレイは口をはさんだ。
「没落した身でッ!!」
「ナナリー!!」
ミレイのナナリーをたしなめるような言動に怒りで顔を赤くして叫んだが、それを上回るルルーシュの怒りにナナリーは口を噤んだ。だが、一度口にされた言葉は戻らない。
「ルーベンとミレイが俺たちの為にこの7年間どれほど心を砕いてくれたことか。それに対してお前は何てことをッ」
ナナリーとは逆に怒りで青褪めたルルーシュはそれ以上は言葉にできずに、己が守護者に頭を下げた。たとえ、どれだけの誠意を込めた言葉で謝罪しようとも、許されるものではない。7年間捧げられ続けた忠に対してあるまじき言動を取り、してはならないことをした。それがなくなることはない。
アッシュフォードは真実巻き込まれた側だ。マリアンヌの後見であったとはいえ、王宮内の離宮に宮の主のマリアンヌや王宮の面子の問題で彼らを差し置いて一貴族が過分に手を入れることもできず、悲劇は起きた。だというのに、当時の離宮の警備責任者だったコーネリアは不問にされ、すべてがアッシュフォードに泥を被せられた。
爵位を奪われ、権勢を失い、それでもルルーシュたちの為にあってくれたアッシュフォードの人間への最大の侮辱である。
「どうかお顔をあげてください、ルルーシュ様。この程度のことで我がアッシュフォードの忠がルルーシュ様を裏切ろうはずもございません。我等が命の絶えるまで、アッシュフォードはルルーシュ様のものです。
御前騒がせ、申し訳ないことにございます。オデュッセウス殿下」
「お耳汚し致しました。異母兄上」
ミレイへ謝罪と感謝の眼差しを向け、今度はオデュッセウスへルルーシュはミレイとそろえて頭を下げる。
二人へおだやかな眼差しで気にしていない旨を告げ、一転ナナリーには厳しい目を向けた。目が見えずとも、この雰囲気くらいは伝わるだろう。
「口を慎みなさい、ナナリー。どのような理由であれ、人を罵倒することが肯定されるはずもない。だというのに恩人を罵倒するなんて。そのうえ当然のように人に悪意をぶつけるなどと品性を疑われる。
それから、何か思い違いをしているようだが私が迎えに来たのはルルーシュであって、きみではないよ。ナナリーを迎えるとは一言も言っていないだろう」
不快げに告げられた言葉にナナリーはぽかんとする。戻りたくないと言い、思いやる心がないと責め立てながらその望みが叶うというのに信じられないと。被害者たる自身が何故蔑ろにされるのかといわんばかりだ。そもそも昔を思い出せばわかることだが、ルルーシュたちが皇室内にいたときにオデュッセウスが可愛がっていたのはルルーシュだけだ。
「私が守りたいのも、保護を頼んだのもルルーシュ一人だ。とるべき態度をとれるのならまだしも、他者の前で自分を助けてくれた人たちを面罵するような子をどうして連れ帰ると思うのか。守護を買って出た家と実の兄にさえそれでは使用人にはどれだけ当たるのか。見当もつかないよ。私には私の下で働く者を守る義務があるんだよ。
それに、ブリタニアには帰りたくないとたった今自分で言っていただろう」
第一、あんな礼儀知らずを引き受けてはあの皇室内では邪魔でしかない。既に盤石を築いた地位はその程度で揺るぎはしないが、煩わしいものはないほうがいい。
何より、オデュッセウスが最も慈しみ愛するルルーシュを当然のように――慣れた様子のルルーシュとメイドからして――そして不当に罵る人間をどうして守ろうと思うものか。
ルルーシュすら既に諦念を覚えるだけの相手に。
「なっ。そ、それは!お兄様だからです!お兄様が私を許さないはずがないから、つい言ってしまうのです!!」
己だけの所為ではなく、ルルーシュが自分をそのように甘やかしたのだと云わんばかりだが、ナナリーは忘れているのだろうか。ルルーシュはとても礼儀に厳しい人間であるし、自分がルルーシュとルルーシュを庇ったミレイをひいてはアッシュフォードをも罵ったことを。
「実の兄だから甘えてしまったと?だが、それはきみの中にルルーシュを罵る気持ちがあるからだろう。そしてそれを甘受するべきだと思っている。だからルルーシュがきみを肯定しないことを怒る。
ナナリー。どうやらきみは自分がさもルルーシュの被害者であるように思っているようだが、そんな醜い愚かな勘違いはやめなさい」
そしてオデュッセウスにはそのような甘ったれた言い訳を聞いてやる義理もなく、これ以上の問答はないと示すようにナナリーを視界から締め出し、ルルーシュへ微笑む。
「では、ルルーシュ。五日後にもう一度来るよ」
Fin
「では、ルルーシュ。五日後にもう一度。今度は君を迎える為に来るよ」という意味です。端折った。
最強オデュにーにによるナナリー排除計画。ホントに連れて行かないよ!ついてきたところで勿論保護も後見もしないよ。ルルーシュの実妹だろうとルルーシュの庇護にも入れない。
ルルーシュもナナリーのこといろいろ諦めているので、あの帝室に連れて行くつもりはないし、帰りたくないっていときながら帰って、そのうえ守れなんて。無理。自分で決めたんだから自分で何とかしなさい。オデュにーにの手で戻る以上、彼の為にも自分の地盤のが大切だし、ルルーシュの評価がオデュにーににもつながるからオデュにーにの邪魔にしかならないナナリーはオデュと自分から切り離すつもり満々です。
アッシュフォードだって何のことやらですよ。まだ学園に残るなら卒業までは一応面倒みるけど、その後はどっちにしろ自活しろ。何分没落した身ですのでってなものです。いえ、爵位得ますが。伯爵か侯爵か。でも、アッシュフォードはルルーシュの為のものだから。
ナナリーがもしついてきちゃったら、というかついてきちゃいそうだと思う。私だって皇族なのにとか思って。したらコーネリアにでも任せる。別々に庇護がついて繋がりを完全に切っているほうがそれぞれが安全だとか言って。ついでにユーフェミアと一緒のほうがナナリーは安心だろう。女の子だし、仲が良いからとか言う。(オデュが)勿論、本当は巻き込まれない為ですが、何か?同じヴィ家だと連座されても困るので、ルルーシュはオデュの養子としてウ家に入れます。反対勢力はこの7年間で土の下です。抜かりなし。
出遅れてちょっと外側にいたシュナイゼル(EU外交してた)は長兄と実兄の思い切りのいい扱い(というよりほぼ無視)にナナリーに接触しません。当たり障りない他の兄弟たちへと同じ。
13/02/06