百万本の薔薇の花を






メシア来たりて






 ひそかに、ひそやかに。
 爪を、牙をとぐ。
 抗う為の力ではない。
 倒す為の力でもない。
 無力であることを選択していた日々に失った守るものを守る為に。
 よすがとした誓いを果たす為に。
 「時は満ちた、かな」
 凡庸といわれた笑みを浮かべ、鋭い意志を隠す。



 お忍びと強く言い聞かせ、騎士と副官を連れた微行姿でオデュッセウスは初めてエリア11の大地を踏む。
 この地は彼の最愛の異母弟が7年前に母国から逐われた国であり、死を偽装した彼を忠義が守った真なるものを篩にかけさせたものでもある。
「殿下」
 かけられた声に視線を転じれば、少し離れたところで車の側に立つルーベンの懐かしい姿が目礼する。
 7年ぶりにまみえたその忠烈なる翁の姿に漸くだと改めて感じ入る。
 偽りを装い無力さに甘んじていた日々が失わせた、何者にも代え難く大切なひとと長い時を経て、共に歩むことができる。大切な者を大切だと傍におくに足る力を、有無を言わせない力を築いた。
 長かったと思う。だが、ルルーシュはオデュッセウス以上に長く感じたことだろう。何の手も打てずに別れたオデュッセウスをルルーシュが信じるのを止めたとは、けれど不思議なほど思ったことがない。そう、疑ったことはない。7年間一度も。
「あの子は元気かな」
 おだやかさを纏った第一皇子の問いにルーベンは気後れすることなく答えた。
「恙無くお過ごしでいらっしゃいます」
 安堵して、喜びが微笑に浮かぶ。手放し、失わなければならなかった至宝の無事を直に聞ければ心は逸る。
「貴方達には感謝のしようもない。よくあの子を今まで守ってくれたね」
 給わった謝辞にいいえ、とルーベンは応えた。
「もとを糺せば我が家の手落ち。あの方には本来ならば不必要の労を強いてしまいました。
 何より、不遜を承知で御礼申し上げねばならぬは我が方にございます、殿下。ルルーシュ様が最も傷ついたあの日、殿下だけがあの方を案じ、お声をかけてくださいました。殿下の御心があればこそ、ルルーシュ様は健やかにお過ごしになられたのです」
 歓心を得る為に佞句を発さないルーベンの言葉にオデュッセウスの心は喜びに騒ぐ。ルーベンが偽りを好まないことを考えれば、ルルーシュを守ることがオデュッセウスにもできていたということに相違ない。
 だが、その喜びとは真逆の冷えた感情が浮かぶのもオデュッセウスには止められなかった。
「私があの子の支えになれたのならば、これに勝る幸いはないよ。けれど、私以外の誰もあの子のことを貴方に聞かなかったのかい?アッシュフォードがエリア11に行った理由など、明らかにするまでもないことであるのに?」
 シュナイゼルも、コーネリアも?
 ルルーシュと交流のあった上位皇族の名を上げ重ねた問いに、ルーベンはただ静かに首を振ることだけで答えた。
 それにオデュッセウスは柔和な顔に憤りを浮かべ、寄った眉に気づいて自分で押し伸ばす。これからルルーシュに会えるこというのに、不機嫌さを欠片でも纏いたくはない。
 門を抜け、車のスピードが遅くなるのに反比例する心臓を宥めながらオデュッセウスは続けた。
「私はね、こうして迎えに行くことが目標だった。
 あの子と共に生きるのが願いだよ」





                        Fin
 オデュにーに迎えに行く。の巻。
 オデュにーには終戦でエリア11に行くルーベンにルルーシュの保護をきちんと依頼しています。なくても守りますが。行くこと自体が自発だし。
 オデュにーにには云われていたので保護できた時点に報告してます。ただ、連絡を取り合うのがおかしい間柄なので、保護の連絡を入れただけです。その間にオデュにーには力を築き、ルーベンはルルーシュを守りぬきました。今回揺るがされないだけのものを築いたので、安心して迎えに行きました。
 ちなみにシュナとコーネリアが手を打たなかったのは、化けの皮を剥いだオデュにーにによって削られる自分の権勢の為に必死だったからです。なんせ、今まで本人にはノーマークだったので。落ち着いたときには言いだしにくいくらい時間が経っていたシュナ(生存は疑ってた)と、そのまま死んだと報告を真に受けたコーネリアです。
 ペジタイの百万本の薔薇の花は持って迎えに行きました。なイメージで。イメージです。




12/01/17