一緒にいかないか
一緒にいかないか
漸くミレイが落ち着こうかという頃、小さく鼻歌を口ずさむような軽快さで、ロイドは死角を覗き込んだ。
「う、え!」
「やぁや。硬直はそろそろ解けたかい?」
びくりと肩を震わせたリヴァルに、一緒に行こうかとにんまりとチェシャ猫のように笑いかけた。
落ち着きを取り戻したミレイが、いつまでもこんなことろで大物ともども座りこんでいても仕方がないと、クラブハウスへ誘導する。ルルーシュの手を握りしめたまま泣いていたというのは赤面ものの事実だが、今もルルーシュが何も言わないのをいいことに握りっぱなしだ。何をおいても守ると決めた人の体温は、ひどく安心する。
それに知らず頬のゆるむミレイを見て、リヴァルが落ち込むなんて余談でも何でもない。
「お帰りなさいませ。ルルーシュさま」
ドアの前に立つと絶妙のタイミングで開き、深々と頭を下げて出迎える咲世子に、ルルーシュはより一層やわらかな雰囲気となって、ただいまと応じた。
アッシュフォードの忠義と咲世子の忠誠を今のルルーシュは疑おうとは思わない。いつだって彼女らは心からルルーシュを案じてくれるものであった。それはカコも、今までの生活でも。だからこそ、ルルーシュはロイドを得てすぐ咲世子にロイドを紹介した。己の騎士であると。咲世子は欠片も驚くことなく、慎ましやかに祝辞を贈り、己はルルーシュの忍であると名乗った。
その咲世子の守るクラブハウスはアッシュフォードが用意した箱庭で最も安全なルルーシュのテリトリーだ。安堵とくつろぎを見せるルルーシュに、咲世子をつけた己の判断をミレイは称え、シュナイゼルは彼女の同行も決定する。ルルーシュを愛し、慈しみ、守るものは一つでも多いほうがいい。
そんなわかりあえている彼らの雰囲気に疎外感を覚え、リヴァルは再び地味に傷つく。先程からリヴァルの知らないルルーシュの姿でリヴァルは疎外されっぱなしだ。
「まぁま、ルルーシュさまのお友達に話をするんじゃありませんでした?」
余程リヴァルが憐れであったのか、あのロイドがとりなす始末である。いや、そもそもロイドはルルーシュの為なら何でもできる男だ。ルルーシュの為にルルーシュの友へ意識を取り戻させるのはある意味当然のことといえた。ちなみに咲世子は既に給仕の為にキッチンへ消えている。
ロイドの取りなしになんとなく腑に落ちない気分になりながらも各々はダイニングのソファに座った。一人掛けにシュナイゼルが、二人掛けの一つにルルーシュが座れば、リヴァルをルルーシュの斜向かいに座らせ、ミレイが隣へ。いくらなんでも帝国宰相が手を伸ばせる距離にいるのは哀れすぎる。たぶん、まともな話にならない。
そして、ロイドがルルーシュの隣に座るかと思えば――ある意味ロイドも非常に得体が知れないが――彼はルルーシュの一歩後ろに控えた。正しく騎士の位置である。
えぇ、と。とリヴァルは思った。先程聞いた――これまでの様子で見れば、ルルーシュの騎士はリヴァルがいたことに、そして聞いていたことにも気づいていたようだったが――話を思い出す。
ルルーシュはミレイに様づけされる立場であり、ミレイはルルーシュを、推測するにブリタニア帝室から隠していて、ルルーシュはシュナイゼル殿下を“あに”と呼べる身で、ルルーシュには騎士がいる。
殿下をあにと呼ぶ皇族なら騎士も当然だよな、と脳内で肯いたところでぎょっとする。
「ッ、ちょっと待てぇ!!」
思わず立ち上がったリヴァルにミレイは追いついた?と見上げ、ルルーシュは咲世子が淹れてくれた茶が零れると怒り、シュナイゼルはリヴァルを観察し、ロイドは一人うんうんと頷いている。
また何この疎外感と悄然とすると、いつの間にやら近づいてきた咲世子に着席と紅茶をマイペースに勧められる。フォローはない。何、この疎外感。
「きぃみぃは。いつだってどんなときだってルルーシュさまの友達だったから、今でも同じだと思うんだよね」
軽薄だった呼び声は、けれど話だせば真摯で落ち込み気味のリヴァルは顔を上げる。ルルーシュを何より思い大事にするその騎士が問う。
「きみはルルーシュさまの友達?」
試すようなその口調に、リヴァルはむかっとする。むかついたまま己以外のルルーシュを知る面々を睨みつけた。
「友達かだって?決まってる。俺はルルーシュのダチだ。アンタらほどルルーシュの事情を知らないけど、俺はルルーシュの味方で、ルルーシュは俺のダチだ」
声はリヴァル自身が驚くほどに低かった。
「言いたくないことも言えないこともあるんだろうし、全部話せなんて言わないさ。俺は全部知らなきゃ友達になれないなんて思わないし、俺の為にルルーシュに無理させる友情なんていらない。俺はルルーシュのダチだ。悪友だ。ずっと」
遠慮なんかいらないし、ムリに呑みこむこともなけりゃムリに云うことだってない。自然体でいられる友達だと俺は思ってる。
「だからアンタらに心配されなくたって、俺はルルーシュのダチだよ」
今度こそあんなことさせるかッ
小さく吐き捨てられた言葉にロイドはそうだよねと頷く。
「今度はみんなで花火見たいよね」
「おう。約束破るなよ、ルルーシュ」
応えるように自然に返して、リヴァルは不思議そうな顔をした。ルルーシュは泣きたいような微笑を浮かべている。
「じゃ。きみも本国行きけってぇい!!」
ロイドが高々と宣言すれば、シュナイゼルはひとつ頷いて、1週間後に迎えにくるよとルルーシュの頬に口吻け一つ贈り、足早に出て行った。多忙な帝国宰相の時間は押していたらしい。
「じゃ、三人分の手続きはこっちでやっておくわね。リヴァルはアッシュフォードからも言うけど、自分で言うのよ」
ぽんとリヴァルの肩に手をおいたあと、ミレイはそれはうつくしくルルーシュへ辞去を述べ、去って行った。残ったのはクラブハウスの主とその騎士とメイドだ。
ルルーシュは若干呆けているリヴァルへにやりと口角を上げた。
「よろしく、悪友殿」
Fin
ちょっとかわいそうなのはリヴァルの持ち味。
なんとなくリヴァルは憶えていそうな気がする。夢みたいなね。云わないけど。だから実は泣きたいくらい喜んでたらいい。違う結末確実で。
二人の友情は永遠です。お互い思いやれるから。しかし、親友より悪友なのはこの兄弟の仕様なのか。
11/07/18
12/12/05