証明したいんだ






証明したいんだ






 数年来の悪友と呼べるようになった友を人気から隠れるような中庭の陰で見つけ、リヴァルは遊びに誘おうと片手を上げる。声をかけようとしたところで反対側から、駆けてきた少女に目を留めた。
 日頃は明朗快活に華やかな表情が、ひどく青褪め、血の気が引いている。不安定に誰かを探していた眼差しは、リヴァルが少し前に声をかけようとした少年をとらえ、焦燥を孕みながらも強さを増した。
「ルルちゃん!!」
 小さく、けれど鋭く叫び、ルルーシュがミレイに向く頃には触れる距離に詰めている。
「会長、」
 恐らく、どうしたんですかと続くはずだったその言葉は泣きそうなほどに必死なミレイの勢いに流された。
「逃げて!!逃げるの、ルルちゃん!今ならまだ間に合うわ。今ならまだ隠せる。貴方だけでも逃げて。お願いよ、ルルちゃん。アッシュフォードが守れるうちに貴方だけで逃げ切って。ルルーシュさまッ」
 お願逃げてと懇願するミレイの目から涙が一粒転がり落ちる。
「さぁ!ルルーシュさま、今のうちに!」
 手が届くはずのところで始まった悲劇じみた寸劇をリヴァルは唖然と見るしかない。
「やぁっぱり」
 そこに第三者の男の声が入り、ミレイの青褪めていた顔から更に血の気が引く。それでも咄嗟に己が声の矢面に立ち、ルルーシュを隠した。
「まさかアッシュフォード氏自らが足止めに立つなんてね。げにこわきはアッシュフォードの忠義といったところかな」
 だが、続いたリヴァルでさえ聞き覚えのあるその声に、ミレイの表情は完全に強張った。繕う表情を忘れ、愕然と優しげな声でアッシュフォードの立ち位置を定める帝国宰相を見上げた。
「シュナイゼル、殿下」
 絶望にひび割れた声が零れても、その思考までが錆びつくわけではない。
 ここから最短の秘密経路は折よく一度開けば二度と開かないもので、しかも体力的にちょっと心配なルルーシュでも逃げ切れる距離にある。
 ミレイは前の敵を睨み据え、腹を決める。背に庇ったルルーシュが静かすぎると云えばそうだが、前々から突発的な出来事にはすこぶる弱い方であった。
 目に、肝に力を入れ、ミレイは敢然と対峙する。いみじくも先ほどシュナイゼルが云ったようにアッシュフォードの忠義はここに定められている。
 ルルーシュを守りぬくこと。
 それこそがミレイが、そしてルーベンが定めた掟。どのような犠牲のなかにあっても、帝国への不忠であろうとも、そんなものは関係ない。
 アッシュフォードの血筋をルルーシュに捧げると決めたのだ。7年前の、あの日に。
「シュナイゼル宰相閣下。いかがなされましたか?応接室にて祖父とお話のことと伺っておりましたが」
 恐怖に青褪めた顔も同様に失した精神もすぐさま立て直す。護るべき主を守る為には択一の何が天秤にのろうとも間違えることはない。
 資産も地位も、名も命も。すべてルルーシュのものだ。ルルーシュの為だけにあると決めたのだ。他の親族がどのようなことをしても当主と後継の決定は絶対だ。
 苛烈な意志で、不敬手前の力強さで立つミレイに、ロイドはほとほと感心する。さすがはルルーシュを守ってきたと自負する箱庭の守護者。シュナイゼルの登場にこそ動揺しても、優先すべきもの、守るものを心得ている。今だとて決して不自然さを感じさせることなく、唯一絶対無二を隠し続けている。
 ルルーシュから全面の信頼とその幸福を願われたのは伊達ではないのだ。如何にそれまで付き合いがあれど、最も他人を信じないその時に信頼を勝ち得た忠義に脱帽する。
 だから、もういいだろうと思ってロイドはシュナイゼルに目くばせする。大人気なくも今の今まで睨みあっていたシュナイゼルも納得したように頷いた。
「ミレイ・アッシュフォード嬢。素晴らしい胆力の持ち主だね」
 じっとりと脂汗を浮かべながらも一歩も引かなかったミレイへシュナイゼルは本気の称賛を贈る。この彼女とミレイを育てたルーベンの許でならとも思えるが、帝室の闇の深さを知る身としては、当初の予定通りであるべきなのだと思う。
 そして、それは優秀な異母弟にしても同じ見解なのだ。
 その毅然とした背に手を添え、ルルーシュは己らを守り続けてくれたミレイへ感謝といたわりを紡ぐ。
「ミレイ。大丈夫だ。ミレイ。ありがとう。ありがとう、ミレイ。ミレイ、異母兄上はご存じだ」
 でも、大丈夫だよ。繰り返すルルーシュにミレイはしゃがみこんだ。決壊したように大粒の涙が零れる。
「ル、ルーシュ。さま」
 ミレイは知っている。7年前の日本侵攻で、どれほどルルーシュが絶望したか、その裏切りに泣いたのか。ルルーシュにとって、帝室関係者は決して治らぬ傷だった。
 特に近しかった相手は未だ血を流す傷だった。信用など、昔日より彼方へと消え去った幻のようなものだったのに。それなのに、今、ルルーシュは大丈夫だという。世界は幸せだと云えた頃と同じようにミレイに笑ってみせるのだ。
「ミレイ。きみのおかげだ。ミレイとルーベンの献身のおかげだ。ありがとう」
 ああ、ああ!ああ!!
 差しのべられた手を押し戴いて、ミレイはそれこそ子どものように泣いて笑った。





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 ミレイががっつり奪って恐らく石像と化したリヴァルがかわいそうなので後篇へ。
 このミレイはルルーシュについて本国に戻ります。シュナイゼルが侯爵は無理でも伯爵いくらいは用意すると思う。後見として起ってもらわないといけないし。んで、少なくともナナリーの為にここには残らない。守るべきはルルーシュただ一人だといってるので。




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12/11/28