手折るように紡ぎゆく
手折るように紡ぎゆく
さあ、反逆の狼煙を上げよう。
2度と間違えず、離れず、離されず。
いつかの遠いトオイ過去に望んだ楽園を。
第一はルルーシュの保護だとシュナイゼルは主張した。
「第2皇子の後ろ盾とアスプルンド伯の後見があれば、ルルーシュなら十分に帝国を掌握できる」
2,3カ月“慣れる”為に時間をおいて、宰相補佐に就けばいい。幼い日の優秀さを失った可能性を欠片も想定せず、シュナイゼルは言った。事実、必要のない心配である。
「私とルルーシュで帝国内の反シャルル治世を糾合するのは決して不可能ではないよ。現在の陛下のありようは為政者として致命的だしね」
確かに、とルルーシュとロイドは頷いた。力がすべてだとする国是による侵略戦争に軍人たちもさすがに倦んでいる。精神的に疲れ果てたといってもいい。
侵略に次ぐ侵略で、領土は広がっても国力としては下降気味なのだ。純粋な生産力としては低下している。エリアがあるが故に背負わされた労苦は決して小さくない。当然である。戦争で破壊した後にわざわざ作りなおすのだ。土木系の企業はいいかもしれないが、その費用は国策である以上当たり前にブリタニアの国庫からであるし、治安が落ち着かなければ修復作業は非生産的な繰り返しになる。確かに新たな市場の開拓にもなるが、もともと住んでいた側には消費意欲以前の就労問題で躓くのだ。よほどうまくやる企業以外は軌道に乗せるまでの苦労が長すぎる。何より、他の市場は余力のない国内では伸びない。あえて冒険せずとも、元からあるものをより高めるほうが堅実というものだ。
況してやこのエリア11のような場所ではテロの多さで負債ばかりが嵩む。
この背景から中級層は勿論、古き良きブリタニア騎士精神を覚えている貴族・帝室内での覇権に厭いている皇族と、決して少なくはないだろう。
こういった不満を本来なら皇帝の親政で払拭するべきであるのに、第2皇子であり宰相であるシュナイゼルに俗世と云って放り投げてしまえば、皇帝への求心力は落ちていくばかりだ。
3人にとっては願ってもいないことだが、一転してそれが母国の内情だと思えば苦いものが浮かぶ。
「まあ、ルルーシュ様はそれでいいとして、他はどうします?」
他。妹のナナリーや二人を匿ったアッシュフォードである。ロイドからしてみれば、たとえ記憶を改竄されようとも最後までルルーシュを信じたミレイや忠義を貫いたルーベンは何とかしてやりたいと思う。ルルーシュに会えたのだとて、日本侵攻の折のルーベンの働きがあってのことだ。
だが一方で、ナナリーには会いたくない。声を聞くのも、視界に入るのも遠慮したい。名すら本来は聞きたくない、言いたくない。記憶を取り戻したそのときから、ルルーシュの前から排除してしまいたかった。
7年間、ルルーシュが生き抜き、その魂を失わなかったのはナナリーがいたからかもしれない。守らなければならない存在はルルーシュにとって、確かに必要なパーツだっただろう。だが、カコにおいて、ルルーシュを最も傷つけたのは他でもないナナリーなのだ。悪逆皇帝になどになって死へと邁進したのはナナリーの存在の所為だ。死んだはずなのに生きていて、無責任に民を虐殺し、身勝手で非理性的な理由でルルーシュの敵になるからだ。ルルーシュを否定するからだ。守られ、無知であることを罪とも思わず、自分で何もしない、しようとしない、できなくても当たり前だと思っているナナリーの所為だ。ただ守られていただけのくせに、それまでのルルーシュを、その苦しみも辛さも、何も慮らなかったナナリーの所為だ。
ぽんと。わかっているというようにルルーシュはロイドの腕に手をおいた。
「異母兄上もあの子は帝室に戻るべきではないと考えていらっしゃるのでしょう?」
微苦笑のルルーシュにシュナイゼルは頷いた。
「将来的にどうあれ、あの子は弱者だ。お前を責めるつもりはないが、それも守られることを当然と思っている」
ここにいるのがあの子の為だよ。
それからシュナイゼルは一瞬の嫌悪を表情にかすめ、
「それに、お前には悪いが、私はあの子を信用できない。ルルーシュ。お前の妹でも、お前が頼んでも私があの子の後ろ盾となることはないよ」
築いた愛情も共に生きた時間も、たった一言で捨て、信じない人間を守るつもりはないよ。
容易く人を裏切る人物は守るに値しない。
いっそ無表情にそう続けたシュナイゼルにルルーシュとロイドはぎょっと驚いた目を向けた。
シュナイゼルもまた、憶えているのかと思って。
「シュナイゼル、きみ」
驚愕に掠れた声を出したロイドにシュナイゼルは不可解な目を向ける。ついさっき、何かを言った、その自覚のない目を。
「お前もそう思っているんだろう。ルルーシュ?」
「ええ。あの子はブリタニアを理解できないでしょう、帰れるはずがない」
ルルーシュは驚きながらも先刻のシュナイゼルの言葉を流し、ナナリーが帝室には戻れないということを肯定した。
「今。だからこそわかります。俺はあの子を守りすぎた。あの子は帝室はおろか一般社会でもきっと馴染めない。隠したのは俺ですが、あの子は人の悪意がないと本当に信じてしまった。それをおかしいと思いも疑いもしなかった。俺が守れない、隠されていない悪意にだって触れているはずなのにあの子は自分に悪意が向くはずがないと思っている。
今になって、俺は心配します。あの子は人の悪意の最たるものを見て、目を閉ざした。悪意があると知っているのにないとした。世界は決してきれいなだけではないと知っているのに。その矛盾をあの子はどう処理をするのか、それを心配します。あの子のことはあの子にしかできないのに、あの子はそれを他人に委ね、その責任を押し付ける」
ルルーシュから切り離した言葉にロイドは安心する。これで本質的にルルーシュがナナリーに傷つけられることはなくなるのだ。
やさしすぎるルルーシュだからこそ、ロイドは心配していた。あのカコを以ってしてもルルーシュはナナリーを守ろうとするのではないかと。だが、それは杞憂であったと今、証明されたのだ。ロイドはこれで安心してルルーシュの剣たれる。誤ってナナリーが傷つこうとも、ルルーシュが傷つかないのならば、ルルーシュの騎士たるロイドに憂うことはない。
望むとおり、全力でルルーシュを守ろう。
シュナイゼルは在りし日のアリエスしか知らなければ驚くに値するルルーシュとナナリーの関係の変化に驚いた様子もなく、頷いた。
Fin
今後の相談。ナナリー厳しめ。
騎士ロイドが主君ルルーシュ以外に意識を配るはずがなく(命令か、それが主の傷になる場合は何らかの工作するけど)、シュナイゼルはあくまでも“我が最愛の弟・ルルーシュ”で元より眼中外。ルルーシュだってあのナナリーを覚えている以上カコのようにはできない。どれだけ大切にして愛しても自分にとって都合のいい、耳に心地いい言葉を選ぶ人間は信ずるに足らない。そのラインで黒の騎士団とナナリーとスザクは同列。
あと、逆行したのはルルーシュとロイドだけです。シュナイゼルの意味深な発言は本当に本人無意識。言った記憶もない。ただ、もしかしたら自分ではない自分の潜在意識にあった言葉が表層意識に浮かんだ言葉かもしれない。
願いを叶えたのは神だから。
11/06/18