幸せ主成分






幸せ主成分






 間に合え、間に合え、間に合え。間に合え。
 それはどちらの想いだったか。


 喜びは声にならなかった。衝撃は心臓を貫いた。
 息を呑む。目を瞠る。くちびるが戦慄く。涙が浮かぶ。
 何を思ったのか、お互いが手に取るようにわかった。
 夢か、と自問した。現実だと自答した。薄く開いた唇から零れた声は同じだった。言葉になどなっていなかった。
 じり、と靴が地面を踏んでいる。
「ロイド」
「ルルーシュさまッ」
 一歩。駆け出す。駆ける。互いの腕はすれ違って、その背を強く抱きしめた。
「ルルーシュさま、ルルーシュさま」
 ロイドは華奢な体を抱きしめた。腕の中に誂えたようにおさまるしなやかな体を折れよとばかりに抱き締める。そこまでしても、実はこれが夢ではないかと疑った。夢ではないと、誰が言える。
「これは夢ですか」
「いいや。現実だ、ロイド。
 ロイド。ロイドだな、ロイドだな」
 細身に見えて、しっかりと鍛えられている体躯に手を滑らせ、肩口にうまっていた顔を上げさせる。眼鏡をしていない男のセレストブルーの眸を覗き込むようにして、目の端の涙を指先でさらう。
「これは夢か」
「いいえ、ルルーシュさま。現実です。奇跡でもいい。現実です」
 吐息のような声でいらえて、痩身をとらえた腕を片方解放し、頬に添えられた手に重ねた。預けられたルルーシュの手ごと、体を曲げて、目尻から涙のあとを追うように唇をすべらせる。
「貴方の僕です。
 今度こそ、お傍を離れません。今度こそ、ずっとご一緒致します。今度こそお守り致します。
 我が主、我が王、ルルーシュさま。死が我等を分かとうとも、この身、この心は永遠に御身の傍に」
 三度目の別れも再会もいらない。奇跡も、もういらない。あとはもうただ手放さないだけだ。何も捨てても共にあるだけだ。
「我が騎士よ。
 今度こそ、傍を離れるな。今度こそずっと共にいろ。今度こそ守り抜け。
 我が騎士よ。我が唯一の騎士、ロイド。死などに我らが分かたれぬよう、永遠に傍にあれ」
 最早、二度と分かたれまい。次の別離は恐らく偶然さえ望めぬ惨いものとなる。
 これがラストチャンスで充分だと思う。
 殺し殺されようともルルーシュは離さず、ロイドも離さないだろう。互いにそれを許せる余裕は尽きた。既に空漠は抱えきれないところまでになり、餓えていたのだ。どうしようもなく、餓えていたのだ。
「貴方と貴方が望む未来の為に」
 今一度跪いて、永遠の忠誠を。





                           Fin
 追いかけっこの形で第3段。









11/06/08