愛を叫べ
あんたの眼を見て言うよ。
好きだ。好きだ。好きなんだ。
どうしようもなく好きだ。
抱き締めてキスしたくて仕方がないんだ。
あんたが好きだ。
常のように窓を背にする執務室の自分の机に両肘をついて組んだ両手の上に顎を乗せ、ロイはこれもまた、いつものように胡散臭い爽やかな笑みのまま固まった。
「あ、あー…。すまない、鋼の。もう一度言ってもらえるかい?いや、勿論、何でもないと言うのならばそれはそれで…」
構わない、という言葉は言わせてはもらえなかった。
「俺は、大佐が、好きだ。って言ったんだよ」
机の前に立ち、真っ直ぐに見つめて、要望どおりにエドワードは幾度目かの告白を繰り返した。後半の言葉は遮った。折角の告白をまたもや無にされるわけにはいかないのだ。
「好きだ。大佐が。好きだ」
机に手をついて、身を乗り出して、眼を覗き込む。金色の眼にロイの漆黒がしっかりと捉えられた。真っ向からぶつかった相反する色彩。だが、それも一瞬で、すぐにすいと横にそらされる。
「鋼の。それは勘違いではないのかね?身近な大人にその矛先を向けただけの、憧れに似たような」
「それなら中尉に告白してるよ。あえて男の大佐にするわけないだろ」
どうにも誤解にしたいらしいロイにエドワードはすぱっと切り返す。口の上手い大人にいいように言い包まれないようにするためには恥も外聞も捨てて、ついでにプライドも脇に置いておいての、真っ直ぐに迫るしかない。僅かな隙を見せてしまえば、そこから有耶無耶にされてしまうのは今までの経験にもあるように、考えるまでもなかった。
「大佐。俺は別に今返事が欲しいわけじゃないんだ。とりあえず、今は信じてよ。
俺は大佐が好きなんだ」
子どもの真っ直ぐすぎる言葉にロイは訳もなく慌てる。
「いや…。だがね、鋼の。本当にそれは…」
「だぁ!!もう!!」
叫ぶと同時に机を思い切り叩き、机に片膝を上げて乗り上げ、エドワードはどうにもこうにも往生際の悪いロイの胸倉を摑んだ。
「もう、両手じゃ足りないくらい言ってんのにどうして信じないんだよ。
大佐にとって俺が子どもなのはわかってんだから、とりあえず俺の気持ちを否定しないで信じてくれればいいんだって」
睨むように見られて、ロイもつられて視線をエドワードに固定してしまう。このテの話のとき、なるべく視線を外すようにしていたロイは、何故だかわからないが言っていた。出来ればこのまま子どもの戯言にして、なあなあに済ましてしまいたかったはずであるのに。
「だから、だ。鋼の」
適当に誤魔化され続けたから、真面目に返された言葉にエドワードは摑んでいた手を離す。ついでに促されて机の上からも降りた。
「最後まできちんと聞きたまえよ、鋼の。
きみが最初に好きだといってくれたとき、私誤解ではないかと問い返した。きみは違うと言い返した。それからはふたりきりで会う度にきみは私に好きだと言う。本当に、勘違いではないときみに言えるか?勘違いであったのに、何度も言っているうちに、そう思い込んでしまったわけではないと言い切れるか?私に認めさせるために、きみ自身を騙した可能性を否定しきれるかい?」
聞いた人間の脳に沁み込むように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。無意識に起こるかもしれない動揺を見極めようと注視する。そもそもロイは話すときに相手の目を見ていう癖があるのだ。相手の反応をその眼から探ろうとする。
じっと見つめられて、エドワードはふと笑った。
「馬鹿だね、大佐」
じわじわと湧き上がるように浮かんでくる。
「あの時、大佐に言う前に俺は何度自問を繰り返したと思ってるわけ?俺だってそう簡単に自分の気持ちを信じられなかったよ」
そっと右手―――鋼の手を伸ばし、三十路手前とは思えない頬に触れた。いくら手袋に覆われているとはいえ、鋼の手で触れられて冷たくないはずがないのだが、身じろぐことも、表情が動くこともない。先程ひたりと据えられた眼にエドワードは笑いかけた。
「勘違いじゃないって、俺は知ってる。だからいいよ。大佐が信じられるまで待てるし。
だからさ。大佐、いっこだけ答えてくれない?」
嬉しそうに笑いかけられて、ロイは多少警戒しつつも同意する。
「嫌じゃなかったんだ?俺に好きだって言われて、嫌だとは思わなかったんだ?」
確認するようにそう言われ、ロイは軽く目を見開いた。何をしてエドワードにそう思われたのかが気になって、何故そう思ったのかと促す。余裕を見せるその態度に、気づいてないんだと呟いた。
「あんたさ。さっき言ったんだよ。“好きだといってくれたとき”って。“くれた”ってさ、嫌がってるときには間違っても出てこないだろう」
理解した瞬間赤くなってのけぞる。頬に触れていた手が急に冷たくなった気がした。それはロイの熱が上がったからなのだけど。
赤くなったロイの顔を見て、エドワードは満足そうに笑う。
「いいよ。わかったから。あんたが認められるまで待っててやるよ。
じゃ、またな。大佐」
引き際を心得ているというのか、言いたいことだけを言ってエドワードは笑顔のまま扉の向こうに出て行った。残されたのは、この部屋の主だけだ。
ロイは赤くなった顔を手で覆って嘆息する。今まで重ねたやり取りはなんだったというのか。漏らすつもりのなかった本音は不意なところで零れ落ち、聡い子どもに拾われてしまった。
「大佐?何事ですか」
ノックと一拍おいて入室した優秀な副官に問われ、ロイは何でもないように問い返した。
「顔が赤いですよ」
「そうかな?」
とぼける上官に、うっすらと見透かしたものの微笑で以って副官は肯いた。
「ええ。エドワードくんよりはマシですけど」
あとがき
エドロイ。正しくはエド→←ロイですか。まだ出来上がる前です。この後はエドの押し次第ってことで。
ホントはエドロイ10のお題の我慢の限界にチャレンジしようとして失敗したもの。書いてもエドが限界きてくれなくて。で、お題のチャレンジも止めたんです。
エド、男前になってロイを支えてね。
2005/01/02