揺蕩うようにアイを謳う






ゆりかご






 マナ。
 僕はあのひとと一緒にいてどうしようもなく自覚させられたことがあります。
 それは人間はどれほどにでも貪欲になれるということ。
 マナとふたりで旅していたときはあんなにもささやかなことでしあわせだと思えたのに、僕はあのひとと出会ってからとてもとても欲深くなりました。
 マナを壊してしまった僕が望んではいけないと思っていた多くのことをあのひとは僕に望ませるんです。
 マナ。
 きっと、僕はもうマナが知っているアレンではないのだろうけれど。
 マナと生きていたときと同じくらい幸せだと思えるんです。
 もう十分幸せだと思うのに、あのひとはもっともっと幸せにしてくれようとするんです。あのひとの無意識のうちのその言動で。
 それがとてもうれしくて、申し訳なくて。でも僕も気付きました。
 僕といるあのひとがいつもより安らいでいること。
 僕も幸せにできているのだということ。
 僕が笑うと、あのひとがいつもより、ほんのすこし、やさしくわらうこと。
 マナ。
 僕はしあわせです。
 あのひとの腕のなかで眠り、目が覚めて、新しく迎える一年も、これからのずっと将来さきも。
 僕はしあわせです。










 マナ。
 聞こえていますか。マナ。
 僕は今、あのひとと離れています。半人前と一人前の狭間のときにあのひとが手を離させました。
 あのひとが何を思っていたのかなんて、僕には今もよくわからないけれど、けれども思い返せば覚えているんです。
 最後の夜。
 あのひとがいつもよりやさしい眼差しだったこと。
 あのひとがいつもよりさびしげな色を秘めていたこと。
 温度だけが変わらずにいて、それでもいつもより多く触れていたことを。
 翌日のあの衝撃が過ぎて、僕がそんなことを思いだせるようになったのは、ホームと呼ばれるあのひとが嫌っている本部に着いてからだったけれど。
 マナ。
 僕はあのひとを探す旅に出て、あのひとに届く前に足止めをされてしまいました。
 一度。あのひとをおいて、慥かに死んでしまいました。
 あのひとを追うと、あのひとの傍にいると、この心をあのひとに添わせ続けると、そう誓っていたのに。
 マナ。
 僕は生きています。
 一度死んで、助けられたから。
 イノセンスに。
 親に捨てられ、マナに拾ってもらえることになったイノセンスに。
 マナを壊し、あのひとと共に歩んでいくことの要因たるイノセンスに。
 マナ。
 僕は歩き続けます。立ち止まったりはしません。
 あのひとの許に、あのひとの傍で。
 あのひとと幸せである為に。









06/04/24