俺を抉るあんたの笑顔






 それはやさしい手だった。
 やさしい触れかたをする手だった。
 あ の 日 ま で は 。


 それはなんでもない日だった。いつものように、仕事の話をしに出向き、軽い世間話をした、なんでもないいつもの時間。
「僕はきみが好きなんだ」
 唐突な言葉に驚いたものの、人格的にも問題のない同位の男は日番谷にとっても好意を持って接することのできる数少ない一人だった。
「違うよ。そうじゃない。僕はね、欲望を伴って、きみが好きなんだよ。日番谷君」
――日番谷君。
 柔和な笑顔と口調の穏やかな好人物が、うっそりと眼を細めて囁いた。
 触れていた手は何一つ、違わないのに、違わないはずであるのに、その瞬間、ぞわりと怖気が立った。やわらかな茶の眼が笑っていなかった。やさしげな口元が嗤っていた。
 頬に触れていた指が下から上へとなぞり上げ、目の下をゆっくりとたどる。眼球を愛撫するような仕草だった。
「あいぜん」
 見開いた眼の、長い睫毛の先が揺れる。不理解に震える翡翠に藍染はやさしく笑った。
「日番谷君。きみが好きだよ」
 身をのりだし、小さな本当に小さな体躯に覆いかぶさるように薄い肩を摑んで、そのくちびるに傷をつくった。
「きみには赤が似合うね」
 己の唇に付着した日番谷の血を舐めとって、藍染は笑い、呆然とした日番谷のくちびるから滴り落ちそうな血玉を藍染は唇で受け止めて、押しつけるように日番谷に紅を塗った。
 ――たまらなく、いとしかった。





       屈託なく
  の身体を抉る
    あんたの笑顔
 だけが





                    Fin
 原作版。藍染の反乱の少なくとも数年は前であると思われる。
 藍日は初なんですが(そして、もう書かない気がする)、どうしたわけか、藍染がえらい怖い男になりました。この後日番谷は絡め取られそうだなぁと思います。逃げそびれるともいう。
 これが、今年最後のアップです。(この話でですか…)





Swallow Sparrow