月が綺麗ですね
呼吸をひとつ、小さく
呼吸をふたつ、大きく
呼吸をみっつ、浅く
呼吸をよっつ、深く
渇いてはりつく喉に唾液を送り込み、緊張に強張る顔の筋肉をほぐすようにマッサージする。汗ばむ手をさりげなく拭い、籠った熱を吐きだして、赤面を落ちつけようともう一度深く息をする。
今度こそ、大丈夫だと云いきかせ、この偶然に感謝して、名を呼ぶ。いや、呼ぼうとして口を開き、言葉にならないまま、はくりと閉じる。意気地無し、と心のなかで罵倒し、今一度、名を。
己の声に反応した彼に笑いかける。振り返ってくれるまでの数瞬に爆発的に高まった緊張で、頬が紅潮し、目が潤むのが自身でもわかった。わかったが、こんな生理反応を、しかも彼の前で抑える術を己は知らない。
己を認めた眼差しは僅かに和らぎを見せ、その声で名をよばう。それがどんなことばより美しく聞こえ、己の末期ぶりに内心でうろたえた。
それが表面に出そうになるのを、意志の力で強引に下し、とても言葉にできやしないけれど、せめて、こうして会えたのがうれしいのだと伝われと、強く思ってその眼を見つめた。
「愛してる」なんてコトバ簡単には云えない
背後できれいに抑えられていた霊圧が微かに揺れる。凛として清しく、冷涼でうつくしい気配だ。
気づかぬふりをすべきか、気づいてこちらから話しかけようか、背後に意識を向けたまま思案する、と。
「朽木」
一拍空いて名を呼ばう、身丈と比べて低い抑えられた声に振り返る。小さく笑いかけてくるその姿に、こちらも名と共に笑み返す。
紅潮した頬と潤んだ瞳が身長差故に上目に見上げ、開かれた眉宇は常との差を大きくする。稚くすら見えるその様にゆらりと己の芯が揺れる。
彼の 持つ霊圧の清しさを覆すその愛らしさが、堪らない愛しさを呼ぶのだ。当人はまるで認識していないが、彼という存在に心の底から惚れ込む者は多い。放っておいても自然と人が集まることを何と思っているのか、聞いてみたいほどだ。
「珍しいな」
昼を幾ばくか過ぎた時間に外にいることを指摘され、知らず眉間に力が入る。くだらない貴族のくだらない集まりに出席させられた不快感までついで思い出し、深く息を吐くことで逃がした。
「朽木?」
心配げに見上げられ、ぼかして伝えれば苦い顔で理解を示す。日番谷自身は流魂街出身であるが、その才や天井知らずの能力、幼くして一隊を預かる実力とで、本人の望むと望まざるを無視して、方々からの注目がいや高いのだ。何やかやと理由をつけては呼びだてられ、恐らく不愉快な目に合うのは朽木の倍はあろう。
そんな目に合う日番谷を気遣いつつも、そうして取り入ろうとする者共に醜くも妬心する。何やかやと理由づけて会おうとする無思慮な無作法を見習いたいとは思わないが、機会を作ろうとは己もするべきであろうと思う。
「卿はこの後時間はあるのか」
その思いのまま声をかければ、今日の仕事は昨日までに済ませてあるとの返事に、日番谷が出歩いていたのも己と同様であると察した。ならば、と朽木は口を開く。
「近くに懇意にしている料亭がある。昼をどうか」
朽木のその誘いに、日番谷は機嫌のよい猫のように目を細めた。
「朽木の紹介なら、味も質も安心だ」
肯定と返された言葉に朽木も涼やかな目元を穏やかにゆるめ、案内するように体の向きを変えた。
午後を大きく回り、八つ時になるまで、二人の饒舌ではないものの親しむものの楽しげな会話が途切れることはなかった。
キミに伝える愛してる、を待っている
Fin
ちょっと違ってしまったけど、この二人はすぐ告るとかはなさそうなのでここで終了。両片思いバンザイ。お互い好意的関係だと思ってるけど、恋されてるとは思ってない。仕事を離れれば表情がやわらかくて当然とか二人して思ってる。当然じゃないよ。このままゆるゆると距離詰めてって、ある日あれ?とふたりして気づく。好きとは言わないこの題だけど、月身酒しゃれ込みながら「月が綺麗だな」「ああ、綺麗だ。死んでもいい」とかで伝えあうよ。文豪ってすごいな。ちなみに漱石さんのほうが好きだ。訳。
で、自然とお付き合い開始です。誰なら気づくかな。卯の花さんは気付きそう。あ、ルキアはちゃんと紹介してもらいます。驚くけど尊敬する人が兄と慕わしくしてくれるのはうれしいので「では冬兄様とお呼びしても?」とかで仲良くやるよ。
あと、このヒツは王弟じゃないです。王弟だと王族としても結婚か、未婚です。臣籍に下るべきなんだけど、龍埜が許さないので。
13/01/06
13/09/02